ウォール街で有名になるのは、「米系大手金融機関に所属する人物」というのが定説だった。だが、1人のカナダ系金融機関出身の日系人が、それを覆した。
彼の名は、ブラッド・カツヤマ。
彼は“シンデレラ・ボーイ”なのか?”Self-made man”なのか?
日系カナダ人のブラッド・カツヤマ氏は、1978年生まれの38歳とまだ若い。カナダ・オンタリオ州出身で、地元の公立大学ウィルフリッド・ローリエ大学を卒業後、カナダロイヤル銀行(RBC)でキャリアをスタートさせた。
2002年にウォール街に転籍となり、株式トレーダーとして勤務していた2007年、トレーディングに不具合を感じたことをきっかけに、電子取引を担当することになる。個人的な疑問を解決する過程で、「取引所が超高速取引(HFT)に有利、投資家に不利となるような不公平な取引の場所を提供している」と感じたカツヤマ氏。2012年に投資家の保護を唱えて、自ら新取引所「インベスターズ・エクスチェンジ(IEX)」を立ち上げるに至る。
現在、旧ワールドトレードセンターの跡地にある4ワールドセンターにオフィスを構え、IEXグループの共同創業者としてIEXグループの最高経営責任者(CEO)、また同社が運営する取引所の会長兼CEOとして活躍している。ニューヨーク在住で、2人の息子を持つ父親でもある。
切り開いた「弱き者を守る道」 注目されて本の主人公に
カツヤマ氏が所属したRBCは、カナダ最大の銀行ではあるものの、残念ながら米国での存在感はないに等しい。RBC出身の同氏が、ウォール街で注目を集めるきっかけとなったのが、2014年のベストセラー「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」だ。
ブラット・ピット主演で映画にもなった、「マネー・ボール」の著者としても有名なマイケル・ルイス氏の著作である。同書でルイス氏は米国の株式市場が、どのように「不正操作」され、大手銀行や取引所、HFTトレーダーに有利な仕組みになっているのかを描いてみせた。同時にIEXの創業者たちが、より公平な取引所を創設しようとするヒーローとして描かれ、その主人公となったカツヤマ氏は一躍時の人となった。
ほかにも、CNBCの討論番組で取引所運営会社のバッツ・グローバル・マーケッツの社長(当時)、ビル・オブライエン氏を負かしたことでも名を馳せた。
「公平な市場」ないのなら、作るまでだ
インベスターズ・エクスチェンジ(IEX)の特徴は、受注から売買までの時間を350マイクロ(マイクロは100万分の1)秒遅くする、「スピードバンプ」という仕組みを導入している点にある。
HFTトレーダーはスピードを武器に、トレーダーがデータを受け取って注文執行するのにかかる、ごくわずかな時間差を利用して利益を上げる、「レイテンシー・アービトラージ」という取引をする。端的に言うと、市場で発注された買い注文を瞬時に探知し、「先回り」して買ってしまうことが、HFTを利用すれば可能ということだ。
IEXでは、スピードバンプを導入し、HFTトレーダーがレイテンシー・アービトラージをできないようにすることで、「公平な市場」を提供している。