ブラックボックスを見える化、不公平の芽を潰し始める

既存の取引所は収入の多くをHFT会社に依存しているため、彼らにさまざまな便宜を図っている。たとえば、特別な注文タイプやより速いデ ータの提供、料金割引やコンピューターを取引所のものと同じデータセンター内に置く権利(コーロケーション)などだ。IEXはこうした便宜を認めていない。

1回のレンテンシー・アービトラージによって、得られる利益はわずかであるが、何度も取引を繰り返すことで、利益を膨らませることができる。カツヤマ氏は、投資家の「先回り」をすることで、合法的に勝率100%の取引が可能になっており、知らぬ間に投資家が不利益を被っている、という現実を変えたかった。

IEXのスピードバンプは、1回の取引で数十件もの注文取り消しをすることが多いHFTトレーダーに対し、取り消しを難しくするとともに、取引速度の遅い投資家を保護してもいる。スピードを故意に遅らせることで、注文情報が持つ価値をゼロにできるので、注文に付随する情報が役に立たず、「先回り」されることもないのである。

既得権益に切り込み、その流れは大きなうねりに

これまで、ナスダックやニューヨーク証券取引所(NYSE)は、IEXが提唱する「スピード制限」に反対してきた。しかし、2016年6月にIEXが公式な取引所として認可されたことを受け、HFTを批判する投資家に、新たな選択肢を提供する動きが出ている。

ナスダックは2016年8月15日、1秒もしくは特定の時間内に取り消しや変更のできない、新しい種類の注文機能を導入すると発表した。これによってHFTトレーダーを恐れる必要がなくなったとしている。

また、HFTが市場の変動を大きくしている可能性が、指摘されていることに対応し、NYSEは既にIEXが導入している価格が激しく変動している際に、取引を抑制する注文機能を加えた。

こうした動きは他の取引所にも拡大する見通しで、投資家を保護するためのスピードバンプ機能に類似したシステムが他の取引所でも設定されることが見込まれている。

勝負はここから、カツヤマ氏の戦は始まったばかり

2013年10月、ダークプールとも呼ばれる私的取引システムとして、取引を開始したIEXも、公式な取引所として米証券取引委員会(SEC)から認可され、8月19日に2つの銘柄が、新取引所に移行されたのを皮切りに、9月2日までに全ての米国株の取引が可能となった。

米国には現在、IEXを含めて13の公的取引所があるが、IEXはNYSEやナスダックといった、世界有数の取引所と同じ土俵に立つことになり、巨大取引所と競合することになる。今後は既存の取引所が、IEXと類似の機能を導入することが見込まれることから、競合する取引所との差別化は難しくなるだろう。

40あまりとされるダークプールの中で、常に3位から4位に付けていたIEXが、公式な取引所に転換したことで、ダークプールのトップクラスから弱小な取引所に転落し、経営面で行き詰まる恐れもありそうだ。さらなる躍進を遂げるのか、伸び悩むのか、今後のシェア争いにも注目だ。(ZUU online編集部)