◆業界団体による「クルマ離れ」の考察~リスク回避志向の強まりのほか、ネットの普及によるライフスタイルの変化やクルマ以外の魅力的な娯楽の増加などによって相対的にクルマへの関心が低下

若者の「クルマ離れ」については、一般社団法人日本自動車工業会「2008年度乗用車市場動向調査~クルマ市場におけるエントリー世代のクルマ意識~」における考察もある。

同調査によれば、若者に運転免許取得意向や自動車購入意向を尋ねると、大都市に住む男性で「クルマ離れ」が進んでいる様子が見られるものの、女性や地方居住者では購入意向が高く、昔と同水準だそうだ。しかし、「買いたい」という強い購入意欲があるわけではなく、購入予定時期の先延ばしも見られ、実際の購入には結びつきにくい状況のようだ。

強い購入意欲が湧かない原因については、クルマに対する負担が効用を上回っているためとしている。その背景として、今の若者は景気低迷の中で育ち、保守的な価値観を持っているため、事故などのリスクを懸念する姿勢が強いこと、また、ゲームや携帯電話、パソコンの普及により、屋内で過ごすことが多い上、移動せずとも、いつでも友人とコミュニケーションを取れる環境にあることで、結果的にクルマの使用機会が減っているとしている。さらに、モノがあふれ、クルマ以外にも周囲に魅力的な商品・サービスも増えたことで、相対的にクルマの魅力が低下したと言う。

以上の総務省「全国消費実態調査」の30歳未満の単身勤労者世帯の自動車関係費の変化と自動車運転免許保有率の変化、業界団体の考察を合わせると、若者の「クルマ離れ」は大都市に住む男性や一人暮らしの男性で進む一方、一人暮らしの女性ではクルマ利用が増えており、若者の間でも温度差がある。しかし、娯楽の増加やリスク回避志向の強まりなどからクルマに感じる魅力は全体的に低下することで、運転免許保有率は下がり、若者の「クルマ離れ」と言われることにつながっているようだ。

おわりに

本稿では、総務省「全国消費実態調査」における30歳未満の単身勤労者世帯の被服費と自動車関係費の変化を確認するとともに、消費社会の変化もあわせて考察した。

1989年のバブル期と比べて2014年では、男女とも被服費が大幅に減少している。景気低迷による節約志向もあるかもしれないが、ファスト・ファッションの台頭などにより、現在では、安価で高品質な衣料品が増え、お金を出さずとも最新の流行を楽しめる状況にある。また、モノがあふれ成熟した消費社会で生まれ育ってきたために、バブル期に見られたような高いモノ=良いモノという価値観は薄れ、物質的欲求も弱まっている可能性もある。

これらを背景に、今の若者では、ひと昔前よりも少額でもハイレベルな消費生活を楽しめるようになっている。さらに、「高級ブランド」への憧れも薄れ、「高級ブランド離れ」をすることで、ファッションにかける費用が大幅に低下しているという見方ができる。

「クルマ離れ」については、娯楽の増加やリスク回避志向の強まりなどからクルマに感じる魅力が弱まっていることを背景に、若い年代ほど運転免許保有率が低下し、「クルマ離れ」をしている様子がうかがえる。しかし、細かく状況を見ると、大都市の男性や一人暮らしの男性では「クルマ離れ」が進む一方、一人暮らしの女性ではクルマ利用は増えているなど、若者の間で温度差がある様子も確認できた。

久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

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