日銀,財政赤字,失業率
(写真=PIXTA)

現在、完全雇用を実現しているにもかかわらず、財政赤字が残っていることが問題である、という指摘がされることが多い。経済学に詳しい人ほど納得してしまう論であるが、経済厚生の最大化の障害になっているようだ。

失業率水準と財政赤字の存在が2つの疑問

一つの疑問は、完全雇用を示す失業率の水準が分からず、どの水準を物価の安定と見るのかによって可変であることである。3.5%が完全雇用といわれてきたが、既に3.0%まで低下している。物価の安定を1%程度とみれば、3.5%前後であるというのも理解できるが、政府・日銀の目標である2%程度まで加速を許せば、2.5%前後になると考えられる。現在、財やサービスを求めた行列が、多くみられるわけでもなく、限界は3.0%よりかなり下にあると考えられる。

政府が更なる経済状況の改善を目指し、大規模な経済対策を実施するのは理に適っている。

もう一つの疑問は、完全雇用で財政赤字がなくなることが、経済にとって最適ではないということである。

管理通貨制度の下で、中央銀行は国債などを資産とすることにより、負債であるマネーを供給する。財政赤字がなくなれば、新規国債発行は無くなり、中央銀行は経済成長率に見合った量しか、マネーが供給できないと考えられる。マネーには、取引手段に加え、富の蓄積手段としての需要があるため、その量ではマネー不足が、経済活動を阻害することになってしまう。

結果として、物価停滞が実質金利を上昇させ、景気は悪化し、失業率は完全雇用の水準にはとどまれず、上昇していくことになろう。

財政赤字は必要、より良いプロジェクトか減税か

完全雇用でも、ある程度の財政赤字が存在することにより、取引手段に加え富の蓄積手段としての需要を、まかなえるほどのマネーが供給され、完全雇用でとどまることができると考えられる。そのコストは、物価が2%程度上昇してしまうことだが、それこそ政府・日銀が目標としていることである。

現在の失業率の状況では、経済厚生の最大化のためにはまだ財政赤字が必要であり、よいプロジェクトに対して財政支出を増やせば、経済状況を好転させることができるだろう。よいプロジェクトが見つからないのであれば、減税を行うべきだろう。

企業部門が貯蓄超過である中、その貯蓄超過を上回る財政拡大によりネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、マイナスが強い、マネーを膨らませる源であり、アベノミクスのデフレ完全脱却への推進力)を生み出し、それを間接的にマネタイズする日銀の金融緩和の効果も強くなり、総需要とマネーが拡大し、インフレ期待を持ち上げる必要があった。

実際には、消費税率引き上げを含む緊縮財政などにより、ネットの資金重要を逆に消滅させてしまった。日銀の金融緩和の効果は失われ、ポリシーミックスが機能せず、総需要は停滞し、インフレ期待が後退してしまったのは、明らかなように思われる。

今回の日銀の金融緩和の局面で、ネットの資金需要は大きい時でも、GDP対比3%程度であるのに対して、日銀のマネタリーベースの増加幅は16%程度に達する。金融緩和の効果を限定しているのは日銀の量ではなく、ネットの資金需要の量、即ち財政支出であると言える。