強いリーダーシップを求めるかのように田中角栄・元首相(1918-93)に注目が集まっている。今なぜ再び彼なのか。それには時代を大きく動かした「男の器」に多くの人が酔いしれる魅力があるからに他ならない。昭和の宰相・田中角栄論を語るには、その親分肌に触れないわけにはいかない。
人心掌握術を記した早坂茂三氏
田中角栄氏のような人物が求められているが、彼について語るならまず秘書だった故・早坂茂三氏についても触れなければなるまい。1955年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、東京タイムズの政治部記者として知り合い、田中氏が脳梗塞で倒れた85年まで政策担当秘書を務めた。
小学校しか卒業していない田中氏が総理大臣に昇りつめていく途中、大切にしたのは人間関係であり、義理、人情だった。大卒の早坂氏が小学校しか出ていない国会議員の秘書を務めたのは、相当の魅力が田中氏にあったからだろう。彼は後に田中氏人身掌握術などを『田中角栄 頂点をきわめた男の物語』(PHP)にまとめている。
不思議な事に、吉田茂、岸信介、池田勇人、佐藤栄作の4首相経験者も、いまの田中氏のように回顧され、「再びあのような人物を」といった待望論が出てくることはないようだ。それは田中氏のライバルで「角福戦争」を争った福田赳夫氏も然りだ。
政治家のあるべき資質
戦後最大の疑獄事件といわれるロッキード事件。米国航空機製造大手ロッキード社の旅客機受注をめぐり、1976(昭和51)年に明るみに出た汚職事件だ。この事件で田中氏はリベートを受け取った疑惑がもたれ、逮捕までされている。
「金権政治」として批判もされるが、政治に金がかかる事は国民は良く知っている。とはいえ、先日辞任した舛添・東京都知事の場合のように、公私混同と私腹を肥やすのが「政治に金がかかる」ということではない。
ロッキード事件のような出来事があったにもかかわらず、その後も田中氏への支持が厚いのは、「信念」を持っているからではないだろうか。政治の世界では、きれい事だけでは事を進めることができない。有権者の多くが「数がなければ政治は動かせないし、その数を集めるには金が必要」と考えており、田中氏のような人物に信念や覚悟、リーダーシップを感じられるのがブームの理由と考えられる。