要旨

地方創生は地方だけの問題ではない。地方出身の東京在住者にとっても切実な問題であろう。地方創生の実践的な考え方やモデル創出の参考となることを目指し、本シリーズでは、東京から筆者の地元・山口県下関市で地方創生、すなわち「地元創生」を試みる。試みるとは、ためにしやってみるという意味ではなく、「自分事」として実践してみるという意味である。

今回は、地元酒造メーカーへのクラウドファンディング出資を皮切りに、農業まで視野に入れた試みをレポートする。

地方創生の実践に向けて

◆自らの地元で地方創生を試みる

東京に暮らす多くの人には出身地である地元があるだろう。それぞれの地元の衰退は、日本全体の衰退として東京にも跳ね返ってくる。地方創生はすべての人の課題である。

東京で働く筆者の地元は山口県下関市だ。歴史に彩られた海峡の町として観光に力を入れている。しかしこの20年余り、帰省するたびに衰退の深まりを感じてきた。地方創生が叫ばれる以前から、一個人として地方創生は切実な問題だったのである。

地方創生は国策に据えられたが、役所頼みではサステナブル(持続可能)にならない。地方創生の主体は民間だ。下関が何をしてくれるのかではなく、下関に何ができるのかを考える。それが地方創生の本筋ではないか。

そこで、地方創生の実践的な考え方やモデル創出の参考となることを目指し、筆者の地元、下関にフォーカスした地方創生、言い換えれば「地元創生」を自ら試みることにした。地元の現状と課題を把握し、提言し、更に行動していく。試みるとは、ためしにやってみるという意味ではなく、「自分事」として実践してみるという意味である。

◆地元の地酒蔵を起点として

東京在住の勤労者であれば、数百キロ離れた地元にたびたび帰省し、直に地元創生に参画するのは現実的に難しいだろう。下関の場合、1,000キロ以上も離れている。

東京に勤務しながら地元創生へ参画する手段を模索した結果、まずは自分のお金に地元で働いてもらうことにした。クラウドファンディング会社、「山口ソーシャルファイナンス」(1)を通じて、地元の酒造蔵「下関酒造株式会社」(2)に投資することにしたのである。

下関酒造は、「関娘」を看板商品とする地酒蔵で、このたび、蔵に併設するカフェ兼ショップの改装資金について、クラウドファンディング形態で調達することを計画(3)。調達総額は3百万円と小規模であったが、数か月に亘るファンド募集期間の締切り間際でようやく成立を見た。筆者としては案件成立に安堵した一方で、地元中堅中小企業の資金調達はたやすくないという実情を認識させられた。

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1)山口県と隣県エリアに特化し、地域を活性化するビジネスや新商品開発等に対する資金供給を目的とした投資型クラウドファンディング(山口市所在)。地方公共団体と地場企業が母体となって2014年5月に設立、地銀も出資する初のクラウドファンディングとして注目を集める。 https://www.kaika-cf.jp/user_data/custom_data/concept.php
(2) http://www.sekimusume.co.jp/
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3) https://www.kaika-cf.jp/products/detail.php?product_id=16
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◆投資家としてエンゲージメントに着手

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さて、出資したお金が現地で働いてくれている間、地元企業を下関人として応援するだけでなく、投資家としてエンゲージメント(建設的対話)を行いたいとも考えた。投資家とは単なる資金の供給者ではなく、企業価値を「共創」するパートナーでもある(*4)。

出資とはいえ小遣い程度の金額に過ぎず、憚られながらも同社へ面談をお願いしたところ、今回は幸いにもお彼岸のタイミングで、同社の内田忠臣社長から話をうかがうことができた。