「シャープ上期の営業利益は黒字化」
この一文を見た時だけで、長らく低迷していたシャープの事業が復活の狼煙をあげる「未来予想図」を描くことは難しい。
「蚊取りプラズマクラスター空気清浄機」が2016年のトレンド家電として扱われたことや鴻海による買収の行方などが市場で話題になったことは記憶に新しい。そんなシャープも世界的な企業、鴻海の買収を受け経営再建を模索している中、11月2日に「上期の営業利益が黒字転換」の業績ニュースが伝えられた。
確かに本業の利益である営業利益が黒字転換というのは株価にも大きな影響を与える良いニュースである場合が多いのだが、シャープの場合、この「黒字転換」が素直に喜べない事態であるようだ。
電機メーカー3社の株価と業績推移の比較
リーマンショックの前からの電機大手3社(シャープ、ソニー、パナソニック)の株価推移を確認してみよう。
2008年リーマンショックが発生した年の7月、シャープの株価は1700円台、ソニーの株価は4700円台、パナソニックは2300円台だった。そこからリーマンショックの暴落が発生、円高のあおりをうけたことにより輸出関連企業である上記3社の株価は一気に3ケタへと沈んだ。
その後、数年の低迷期を経てアベノミクスの影響により為替は再び円安へ。上記3社のうち、ソニーやパナソニックは株価の復活を遂げた。
2017年3月期、通期の営業利益予想もソニー3000億円、パナソニック3100億円に対してシャープはかろうじて黒字といったところだ。それも本業で爆発的ヒット商品が生まれた、つまり本業の利益が劇的に改善したからという理由でなく、一時的な人員整理(リストラ)によるものだ。この大きな差はどこからきているのだろうか。
ジャパンブランドでは電機製品が売れない時代
目のつけどころが鋭かったシャープも、最近は少々迷走気味だ。最近ではスマホ製品や液晶事業から、プラズマクラスターや超音波などを前面に押し出した空調、美容などの生活家電へと軸を移し始めている。
すでにシャープ、ソニー、パナソニックというブランドのみでは製品が売れない時代となった。消費者はブランドではなく、製品を買う事で自分たちが何を得ることができるかを重視してものを買う。
そもそも付加価値に大差がないのであれば、特にテレビのような製品は台湾や韓国のような製品へと消費者が自然と流れてしまう。そんな時代の中で、これまでのやり方に固執するか、事業を多角化するか、新しい目線で商品を生み出すかが事業が軌道に乗る分かれ道だと言える。
電機大手のそれぞれの事業展開
ソニーは事業を多角化させている。不況下でもアジア勢の価格競争には追随せずにあくまで高付加価値の製品を出し続けた。家電製品の業績が落ち込んだ時に業績に寄与していたのは金融部門、ゲーム・スマホ部門、映画や音楽などのエンターテイメント部門が支える。
次に、パナソニックの場合には、新しい目線からの商品づくりで成功している。AV機器のみならず、リチウムイオン電子や住宅設備などの他分野を強化。一方で、電機製品に関しては、女性に大ヒットの商品ポケットドルツが生まれ、大ヒット。その後、路線を「ながらビューティー」をキーワードにした電化製品を展開し業績が持ち直す。
上記2社ともに事業展開の切り替えの素早さやユーザー目線の商品開発によって、リーマンショック後の低迷期を乗り切り事業を軌道にのせている。
一方のシャープは、アイフォーン(iPhone)向けの製品などでアジア勢との価格競争に参入。頭一つ抜けずに苦戦している状況。目先の業績に対しては「リストラ(人員整理)」という形で対応している。
こうして結果的に大きく差がつくことになってしまっている。
新たなバックボーンと共にユーザー目線の商品開発へ
もともと製品開発能力は高いことは確かで、あとは時代が求めるものを作ることができるかどうかだ。
過去のやり方に固執しても、時代に取り残されるようなら今後もシャープの業績の復活は難しいだろう。鴻海という新たなバックボーンを支えに、今後はよりユーザー目線での製品づくりが求められることだろう。なお「蚊取りプラズマクラスター空気清浄機」は2016年のトレンド商品のランキング22位に入り話題となった。しかし、よくみると18位に骨盤お尻リフレ(パナソニック)、15位VR(ソニー)がシャープより上位にランクインしているのは興味深い。
ヒット商品ランキングで、シャープがソニーやパナソニックを抜くまさにその時こそが、シャープの復活への第一歩となるのかもしれない。
谷山歩(たにやま あゆみ)
早稲田大学を卒業後、証券会社において証券ディーリング業務を経験。ヤフーファイナンスの「投資の達人」においてコラムニストとしても活動。2015年には年間で「ベストパフォーマー賞」「勝率賞」において同時受賞。個人ブログ「
インカムライフ.com
」を運営。著書に『
元証券ディーラーたにやんの超・優待投資 草食編 Kindle版
』(インカムライフ出版)がある。