はじめに

2007年から2008年に起こった世界金融危機(Global Financial Crisis、以下GFC)の後、各国で金融緩和政策がとられたことにより、投資用不動産への資金流入が加速し、世界の主要都市で不動産価格が上昇してきた。しかし16年に入り、不動産取引の減少が顕著になり、不動産投資市場は転換期を迎えている。

きっかけは、2015年末の米国金利引き上げ、2016年2月の英国EU離脱に関する国民投票実施の確定などが考えられる。同時に、不動産価格が上昇し続けていることへの警戒感、利回りを確保したい投資家が物件を売却せず取引される不動産が減少していることなども要因となっている。

現在は、米国の政権移行を控え、不動産市場では不確実性と成長期待が錯綜している状況にある。本稿では、主要国の投資用不動産データから、これまでの市況と現在の状況を概観し、今後の方向性を探る。

世界の各地域で不動産取引量は減少傾向

2016年に入り、グローバルに不動産投資取引が減少している。RCAのデータによれば、2016年1Q~3Qは、各期とも前年同期比マイナスで、直近の2016年3Qは-15%となった(図表1)。

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四半期ごとに欧州中東アフリカ(以下EMEA)、アジアパシフィック、アメリカ大陸の分類で見ると、アメリカ大陸は2016年1Qは前年同期比-19%と減少幅が大きかったが、Q2、Q3は、それぞれ-4%、+3%と前年と大差ない水準を維持した。

一方でEMEAは、2016年に入ってからの前年同期比で見ると、Q1:-35%、Q2:-15%、Q3:-41%で、英国においてEU離脱に関する国民投票を行うことが決まったQ1から、既に大きく減少に転じていたことが分かる。

世界全体の取引額の過去4四半期平均は、GFCの影響前の2007年4Qが3,102億ドルで、その後、取引の大幅減少を経てから回復し、2013年4Q以降は3,100億ドル超を維持している。しかしピークは、2015年4Qの3,381億ドルであり、取引量減少のトレンドはより確実なものになってきている。