就業者の平均退職年齢と退職時点の平均余命

人口減少、少子高齢化が進む日本では、高齢者の継続就業を進めることによって労働力人口の急速な減少に歯止めをかけることが不可欠である。

当研究所が2016年10月に発表した「 中期経済見通し 」では、10年後(2026年)には60歳代の男性の労働力率が現在よりも10ポイント程度上昇するなど、高齢者を中心に男女ともに労働力率が大きく上昇することを想定した。

この場合、65歳で5割以上、70歳で3割以上の人が働くことになる。こうした想定は非現実的との見方があるかもしれないが、かつて日本の労働者は今よりも長く働いていた。定年がなく健康状態に問題がなければ年齢と関係なく働き続けることができる農業、自営業者の割合が高かったためだ。

就業者の平均退職年齢を推計すると、1970年の70歳から長期にわたり低下傾向が続き2000年代前半には67歳台前半となった。その後、改正高年齢者雇用安定法の影響などもあり平均退職年齢は上昇に転じているが、2015年時点で68.6歳と1970年代に比べれば低い水準となっている。

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退職年齢が低下する一方で長寿化が進んできたために、退職後の期間が長くなっている。かつては退職時の平均余命が10年程度だったが、今では退職してから20年近く生きることになる。

中期経済見通し では、10年後(2026年)の平均退職年齢は70歳近くまで延びると予想した。しかし、同時に高齢者の平均余命も延びるため、退職時点の平均余命は現在とほとんど変わらない。

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「ライフシフト」()の言うように、平均寿命が100歳になれば、退職後に30年も生きることになる。労働者が平均的に70歳を超えて働くことは、将来的にみれば非現実的とは言えないだろう。

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(
)リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット(2016)「ライフシフト」(池村千秋訳)東洋経済新報社
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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長

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