bitFlyer,丸山隆平,ビットコイン
取締役CTO小宮山氏と代表取締役加納氏(左から。写真=筆者)

フィンテックの領域で最も革新的とされている仮想通貨、ブロックチェーンの分野で2016年12月21日、注目される発表会が開かれた。

主催したのは“日本最大のビットコイン・ブロックチェーン企業”を自称するbitFlyer(東京都港区、代表取締役加納裕三氏)。昨年秋、3メガバンクが国内送金実証実験を行ったブロックチェーン技術を「miyabi(みやび)」として発表した。

世界最速の性能というこの技術を紐解くことで、仮想通貨・ブロックチェーンの現状に迫ってみる。(経済ジャーナリスト・丸山隆平)

3メガ実験はbitFlyerの「miyabi(みやび)」で行われた

発表の第一の注目点は、3メガバンク(みずほファイナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループ)がコンサルティング企業のデロイトトーマツと行った国内振込業務の実証実験に使われたブロックチェーンが、bitFlyerの「miyabi(みやび)」であったことが明らかにされたことだ。
4社によるブロックチェーン研究会は2015年12月に設立された。

この実験ではブロックチェーンで1秒間に1500件以上の取引を処理できることを確認。現在、銀行間取引に使れている全銀システムのピーク時の毎秒1388件という処理能力を上回る水準を示した。(2016年11月30日に発表された報告書による)

報告書では、ブロックチェーン技術について、「取引における『改ざん耐性』『高可用性』等の特性から、送金、決済、証券取引等に係る業務との親和性が高く、今後の金融分野への活用が強く期待されている」とし、研究会の最終目的として、「欧米金融機関に比肩する水準まで技術レベルを高めていくこと」としている。

また、実験の方法として、「銀行業務を選定しプロトタイプを作成したうえで、動作確認/稼働検証、評価を行う。これによりブロックチェーン技術が有用であることが立証されれば、将来的な実用化に向けた正式な使用に発展させていくことも視野に入れる。プロトタイプの作成においては特定のブロックチェーン事業者の技術に依拠するのではなく、当研究会において抽出した要件を基にブロックチェーン事業者を複数社より選定し、技術協力を得て実施する」と定めた。

その結果、構築した実験環境は「取引のファイナリティ(取引が完了し、覆らない状態)が即座に確保可能であり、なおかつ比較的高い処理性能を期待できるPBFTに類する仕組みを今回の実験環境のコンセンサスアルゴリズムとして採用することにした」と述べている。
PBFT(Practical Byzantine Fault Tolelance )とは、不正なブロックの追加を防止するために用いられるコンセンサスアルゴリズム。そしてこのアルゴリズムがbitFlyer社が独自に開発したものだと記載している。

まとめとして報告書では、実証実験を通して、ブロックチェーン技術の活用により、「システム領域についてコスト削減効果を享受できる可能性があることが確認された」。ただし「既存銀行システム及びペイメント領域外との連携方式や、高水準が求められる非機能の実現方式等、様々な課題が存在する。これらに対しては、今後も追加的に検討を重ねていくことで、実用化に向けた方法性をより精緻化していくことができるものと考えられる」と述べている。

以上のように、bitFlyerはブロックチェーン技術で3メガバンクから“お墨付き”を得た形で、今回の発表に至った。

従来のブロックチェーンの弱点を克服

ブロックチェーンはネットワークの参加者が取引を相互に承認・監視する仕組み。従来のように巨大なサーバーを使わないためコストを安くできるため、新しい金融インフラとしての活用が期待されている。

会見では「miyabi(みやび)」の特長として、(1)取引の確定を行う独自のコンセンサスアルゴリズム「BFK2」の実装 (2)安全なスマートコントラクト実行機能「理(ことわり)」の実装 (3)世界最速のパフォーマンス――を上げた。

従来、ブロックチェーンの弱点として、取引が完了するのに時間がかかっていたが「BFK2」によりこの点を改良した。また、一方向の送金しか取り扱えない弱点も「理(ことわり)」の実装で解消しているという。

「miyabi(みやび)」の製品化のスケジュールだが、加納代表取締役は、現在対応を進めている案件が多く、大型案件は対応の時間もかかることから、「実例として登場するのは2017年ではまだ、難しい」とした。

適応分野としては、▽既存のシステムの置き換え(低い送金手数料でいつでも使える)→銀行、証券会社 ▽シェアリングエコノミーの基幹システム→空家の活用、カーシェアリング ▽IoT時代のデータ管理→食品トレーサビリティ、不動産登記 ▽政府システム→マイナンバー、電子政府――などを挙げた。

また、「miyabi(みやび)」を活用したビジネスモデルとしてbitFlyeが目指す方向として、加納氏は筆者の質問に答え、「SIヤー(システム構築企業)としてでなく、BaaS(Blockchain as a Service)としてmiyabiをブロックチェーンを活用するプラットフォームとして提供する」とし、現在の一方の事業であるビットコイン取引所と両立で事業を進めていくことを明らかにした。

ブロックチェーンは日本が強い組み合わせ技術。「シリコンバレーに勝ちたい」

bitFlyerは2014年の設立。海外拠点を米国・サンフランシスコ、シンガポール、ルクセンブルク(手続き中)に持ち、設立3年弱で従業員34人、資本金39億円、日本のフィンテック企業の中で2番目の大きさ。ユーザー数40万人超。月間取引量1700億円超という日本最大のビットコイン・ブロックチェーン企業という。

加納代表取締役は1976年生まれ。2001年東大大学院工学系研究科終了後、ゴールドマン・サックス証券でエンジニアとして自社決済システムの開発、デリバティブ、転換社債トレーダーとして機関投資家向けマーケットメイク、自己資産運用を行う。2014年bitFlyerを共同設立した。業界団体の設立・運営にも早くから取り組み、日本ブロックチェーン協会代表理事も務める。

加納氏は別の機会に筆者の「ビットコインで起業した動機は何か?」との質問に、「早くて安い決済手段なので世の中が便利になる」と応じ「仮想通貨もビットコインも以前から関心を持っていたが、今一つ、信頼されていないと感じていたが、2013年にFRB(連邦準備委員会)のバーナンキ議長から仮想通貨を容認した発言があり、それを機会にビットコインの価格が10倍程度に跳ね上がった。それで起業した」と答えている。

会見の最後に加納氏は「外資系金融機関に働いていたが、同じことを言っているのに、米国だから進んでいる、日本だから駄目だという風潮がある。米国はゼロからつくるのは得意だが、日本は組み合わせ技術が得意。ブロックチェーンは組み合わせ技術。シリコンバレーに負けたくない。実証実験ではその結果を示せた。これから世界で戦えるブロックチェーン、ビットコインの会社をつくりたい」と語った。

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