「手書き」の習慣が自律神経を整えてくれる
情報とストレスが溢れる今の時代に、改めて「手で書く」ことが注目されている。メンタルが安定したライフスタイルを確立するための「手書きノート活用術」を、自律神経からアプローチする独自の健康法でおなじみの小林弘幸教授にうかがった。
メモは「どこに書くか」も重要
研究者や医師としての本業に加え、著作の執筆やメディア出演などで多忙な毎日を送っている小林氏。自らを「手帳大好き人間」だと言う小林氏だが、スケジュール管理には、最近はデジタルツールを使っているという。
「グーグルカレンダーを使っています。これを使うようになってから、年末に手帳を(今年用と翌年用の)2冊持たなくてよくなりました。スケジュールは変更になることも多いので、その点でもデジタルのほうが便利ですね。
ただ、スケジュール管理はデジタルでしても、記録するためのメモは絶対にアナログでしています」
小林氏が記録用のノートとして使っているのは、一般的にはスケジュール管理に使う大判の手帳だ。
「40代になって以降は、ちょっとしたことでも書いておかないと忘れてしまいますね。どうでもいいと思って忘れていたことが、あとで大問題になったりするんです。忙しいときに限ってそういうことが起きがちですし、忙しい人ほどうっかり忘れやすい。
ですから、研究室を訪れた人や会った人の記録、TODOリスト、重要な電話の内容など、メモはかなりしています。そして、メモは手書きのほうがいい。『このあたりに書いたはず』というイメージが強く残って、記憶をバックアップしてくれるからです。デジタルだと、そうはいきません」
とくに重要な事項についてはメモの仕方を工夫しているという。
「私の場合、メモをする事項の中で一番重要なのは、人との出会いです。一度会った人の連絡先を記録しておいて、すぐに探せるようにしておけば、まず大きな問題は起きません。
そこで、手帳の右ページの右端に、そのときに会った人の名前と電話番号を書くようにしています。そうすると、探すときに手帳の右端だけ見ればいいわけです」
ノート術ブームが自律神経を乱している?
自身のノート術を確立しているように見える小林氏だが、本人は「まだまだ」と感じているという。
「毎年、『今年はこの手帳をこう使おう』とルールを決めていますが、毎年失敗していますよ。1年間、すべてのページに関して継続できてはいません。忙しいときには適当なところにメモしてしまったりもします。きっと皆さんもやってしまっているでしょう(笑)。書き方のルールは、9割の完成度では失敗するのです。10割までルールを作り上げることを目指して、毎年、改善を繰り返しています」
書き方のルールを重視するのは、小林氏の専門である「自律神経」を整えるためだ。
「『どこに書くか』『どう書くか』などで迷うのは、自律神経の乱れにつながります。
カバンの中でノートを見失って『なくしたかも……』と焦ったり、探すのに手間取ったりするだけでも、自律神経は乱れます。ですから、カバンの中で見失いやすい色のノートは避けたほうがいいでしょう。
人間にとって一番ストレスになるのは、迷ったり、選択したりすることなのです。朝、何を着ていこうかと迷う。招待状が来て、出席するか欠席するか迷う。トレイに判断を保留している書類が溜まっているのを目にする。それだけでストレスを感じます。
ですから、自律神経を整えるには、いかに迷わないですむようにするかが大事。そのためには、ノートはできるだけ1冊にまとめて、書くルールも完璧に決めてしまうのがいいのです。
筆記用具にしても、私は万年筆が好きで50本ほど持っていますが、毎日どれを使おうか迷ったりはしません。1本を使い続けて、調子が悪くなってきたら次のものを使うようにしています。
さまざまなノート術が世の中で流行っていますが、それらに振り回されて、『どのノートを買えばいいのか』『どう書けばいいのか』といった準備段階で悩んでしまい、自律神経を乱してしまっている人も多いのではないでしょうか」
「3行日記」の習慣がメンタルを安定させる
ノートを活用するためのノウハウに凝るあまり、あれもこれもと手を出すのは、かえってストレスの元になりかねない。だが、手で書くということは、自律神経を整えるために、とても良い習慣だ。小林氏は、「3行日記」を手で書くことで自律神経を整えることも勧めている。
「忙しくてストレスの多い人、精神的につらいという人には、まずは日記を手で書くことをお勧めします。
寝る前に1日を振り返って、(1)今日、一番失敗したこと(もしくは、体調が悪かったこと、嫌だったこと)、(2)今日、一番感動したこと(もしくは、うれしかったこと)、(3)明日の目標(もしくは、今、一番関心のあること)を、それぞれ1行ずつでいいから書くのです。
ゆっくり丁寧にペンを運んでいると、1日の自律神経の乱れがリセットされます。また、『イヤなこと→良いこと→目標』という流れで書くことで、効果的にモチベーションを引き上げていくこともできます」
小林氏は、この日記をつけるために自身で監修した『自律神経を整える 小林式3年日記』(河出書房新社)を使っている。
「3年ぶんの日記が同じページに並ぶようになっているので、今日書いたことを、1年後、2年後の同じ日に見ることができます。それによって人生の充実感が増しますし、『同じことで失敗しているな』などと反省することもできるのが良い点です」
「どうも頭が働かない」。そんなときこそ手を使おう
情報の整理や管理に便利なデジタルツールがどんどん手に入りやすくなる中で、ノート術やメモ術など、「手書き」のノウハウへの注目も高まっている昨今。小林氏は、それは必然的なことだという。
「子供の頃から学校などで、手で書きながら考える習慣を身につけてきた私たちが、大人になってからその習慣を変えることは難しい。頭の中だけでいくら考えようとしても、うまくいかないのは当然です。そのことに皆が気づきはじめているのでしょう」
パソコンやスマートフォン、タブレットといったデジタルツールは、指先は使っても、手を使っているとは言いがたい。
「デジタルツールが普及して、そのぶん、現代人は手を使わなくなりました。これは、頭を十分に使わなくなってしまったのと同じです。
自分のものの見方や思考がぼんやりしていると感じている人は、考えるときに『手を使う』ことを意識してみるといいのではないでしょうか」
小林弘幸(こばやし・ひろゆき)順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。92年、順天堂大学大学院医学研究科博士課程を修了後、ロンドン大学附属英国王立小児病院外科などの勤務を経て帰国。順天堂大学小児外科講師、助教授を歴任後、現職。自律神経研究の第一人者としてアスリートや芸能人のアドバイザーを務めるほか、TV出演などメディアでも活躍中。著書に、『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』(サンマーク出版)、『一流の人をつくる整える習慣』(KADOKAWA)など多数。(取材・構成:川端隆人 写真撮影:永井浩)(『
The 21 online
』2017年1月号より)
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