Chemical
(写真=areeya_ann/Shutterstock.com)

「オプジーボ」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

数年前から、ちょっとした話題になっている医薬品の商品名です。薬剤としての一般名は「ニボルマブ」。京都大学医学部の研究チームが中心となって開発し、2014年9月に小野薬品工業から発売されました。もともと、皮膚がんの一種である悪性黒色腫に対する治療薬として登場したのですが、その後、肺がん(非小細胞肺がん)や腎臓がん(腎細胞がん)などにも効果が認められ、適用が拡大されています。

米科学誌で「世界的な革命技術」と称えられた「オプジーボ」

この「オプジーボ」がしばしばニュースに取り上げられるのには理由があります。まずその一つは、何といっても、これが画期的な新薬だったという点です。

オプジーボは、薬のメカニズム的には「分子標的治療薬」と呼ばれる薬品の一種です。分子標的治療薬とは、対象となる疾患の原因を分子レベルまで掘り下げ、特に発症や進行の鍵となっている分子に働きかけて治療するものです。

特にオプジーボは、がん細胞が人体の免疫システムからの攻撃を逃れるための抗体分子を抑えることで、がん細胞の排除を進める働きを持っています。効果も高く、メカニズム自体も画期的だとして、米科学誌『サイエンス』は、2013年における「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップに、オプジーボを選出しています。

注目を集めた「とてつもなく高い」薬価

しかしもう一方で、世間の注目をさらに集めたのが、この新薬の価格の高さです。

オプジーボの国内販売価格は、100ミリグラムあたり約73万円です。肺がんの場合、一回の投与で、患者の体重1キログラムに対して3ミリグラムが必要になります。標準体重の日本人男性の場合、年間で約3,500万円もかかる計算になるといいます。実際には、高額療養費制度により患者本人の負担額はそれほど多くありませんが、その一方で、大部分は健康保険料によって公的に賄われることになるため、高齢化の進展などで逼迫している公的医療保険の財政をますます圧迫する要因になってしまうと危惧されました。

この問題に関しては、ついには厚生労働省が中央社会保険医療協議会での議論を経て、2017年2月からの薬価50%引き下げを決めて告知するという事態にも発展しています。

長い年月を経て生まれる新薬

このように、いろいろな意味で話題となっているオプジーボですが、この他にもこのような画期的な新薬は登場しているのでしょうか。

日本製薬工業協会サイトの解説によれば、現在、医療の現場で使われている医薬品の、なんと99%近くが、50年前には存在していなかったものだそうです。言い換えれば、ほとんどの医薬品は、直近50年の間に生み出されてきたものだということです。医療の技術、とりわけ医薬品の技術はそれだけ日進月歩であり、常に新しい、より的確な効果が見込める医薬品が作り出され続けていることになります。

もっとも、それだけの頻度で新薬が生まれると言っても、一つ一つの薬には地道な基礎的研究や長時間の治験が必要になります。オプジーボも、開発スタートから発売までは15年もの歳月がかかったと言われています。

画期的な新薬ができたという噂だけで、製薬会社の株価がみるみる上昇することもあります。失敗のリスクも抱えた長期間の開発を経ているだけに、製薬会社としてはなるべく高い薬価で開発コストを回収したいという希望も当然あります。分子レベルの働きを制御するなど、医薬品開発がますます精緻なものになっているだけに、画期的でも恐ろしく高価になるというジレンマは、これからますます浮き彫りになってくるかもしれません。(提供: IFAオンライン

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