SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

シンカー:深刻な高齢化で日本はもはや財政を維持することができないという固定観念が、この20年間の日本経済の停滞の一因になっていたと考えられる。財政債務残高や高齢化を恐れる過剰な悲観マインドにより、高齢化対策や財政緊縮を過度に進めてしまうと、過剰貯蓄に陥ってしまうことになる。もともと需要不足である中で、高齢化の進行以上に貯蓄が大幅に前倒され、財政が緊縮的であることは、総需要を破壊し、短期的には更に強いデフレ圧力につながってしまう。消費税率と社会保障負担の引き上げなどにより、2014年以降、過剰な貯蓄がまた始まってしまっている可能性がある。この過剰貯蓄が総需要を破壊する力となり、消費税率引き上げの直接的なインパクトを超えて、長期間の消費伸び悩みを含む内需の下押し圧力となっている可能性がある。

過剰な悲観マインドにより過剰貯蓄に

深刻な高齢化で日本はもはや財政を維持することができないという固定観念が、この20年間の日本経済の停滞の一因になっていたと考えられる。

2016年には国の借金が一人あたり840万円という巨額まで膨張していることを指摘し、危機感が煽られることがよくみられる。

そして、国民所得に占める税と社会保障の負担の割合(国民負担率)が42.5%と、50%を超える国々が多い欧州と比較しまだ低いことを重ねて指摘し、増税などの財政緊縮策を推進しようとする試みもよくみられる。

しかし、財政債務残高や高齢化を恐れる過剰な悲観マインドにより、高齢化対策や財政緊縮を過度に進めてしまうと、過剰貯蓄に陥ってしまうことになる。

もともと需要不足である中で、高齢化の進行以上に貯蓄が大幅に前倒され、財政が緊縮的であることは、総需要を破壊し、短期的には更に強いデフレ圧力につながってしまう。

雇用・賃金の減少が、家計の自立的な高齢化準備を困難にし、家計は先行きを悲観し、消費は更に減少してしまう。

過剰貯蓄により国債金利は低下するが、現実以上に誇張された悲観論が蔓延しているため、経済活動はまったく刺激されない。

総需要の破壊によるデフレは国債金利の低下以上となり、実質金利は上昇してしまう。

実質金利が実質成長率を上回る状態が継続してしまい、企業活動は更に萎縮し、家計の雇用・所得環境を更に悪化させる。

そして、家計の自立的な高齢化準備を更に困難とする。

更に悪いことは、消費の増加ではなく賃金の減少による家計貯蓄率の低下が、国内貯蓄で財政支出をファイナンスできないという焦りに繋がり、財政不安が拡大する。

その不安感による増税と社会保障負担の引き上げが総需要を更に破壊し、企業の意欲を更に削ぎ、それが家計のファンダメンタルズを更に悪化させるという悪循環に陥ってしまう。

企業の意欲と活動が衰えると、イノベーションと資本ストックの積み上げが困難になる。

若年層がしっかりとした職を得ることができずに急なラーニングカーブを登れなくなる。

その結果、高齢化に備えるためにもっとも重要な生産性の向上が困難になってしまう。

デフレと景気低迷を放置しておくと生産性の向上が限界になり、生産性が低下し始めたところで、一転してインフレと景気低迷の同居のリスクとなる。

2014年以降、過剰な貯蓄がまた始まってしまっている可能性

高齢化は、供給者(生産年齢人口)に対する需要者の割合が大きくなることを意味する。

生産性が低下してしまえば、高齢化の負担の増加が、所得の増加をいずれ上回り、国内貯蓄は減少していくことになる。

国際経常収支の赤字が続くとともに、日本は債務超過国となり、インフレ圧力が強くなる。

生産性の低下により、円安が経常収支の赤字の安定化につながることはなく、インフレが加速していくことになる。

企業の収益力は衰えており、海外からの資金流入は更に縮小していく。

国債金利は急騰していき、それが企業活動を更に抑制し、雇用・賃金が減少していく。

税収が落ち込む一方で、金利コストは増加し、高齢化の負担もあり、財政赤字は膨らんでいき、ファイナンスが著しく困難となる。

そして、財政破綻、またはハイパーインフレの結果となる。

既に高齢化は進行しているため、社会保障基金が取り崩されていくのは当たり前である。

実際に、資金循環統計でみると、2015年まで一般政府の財政収支の赤字額は、社会保障を除く額より小さくなっていた。

しかし、消費税率と社会保障負担の引き上げなどにより、2014年以降は逆転し、社会保障を除く財政収支の赤字額の方が大きくなってしまっている。

高齢化が進行しているにもかかわらず、当然である社会保障基金の取り崩しを過剰に警戒し、過剰な貯蓄がまた始まってしまっている可能性がある。

この過剰貯蓄が総需要を破壊する力となり、消費税率引き上げの直接的なインパクトを超えて、長期間の消費伸び悩みを含む内需の下押し圧力となっている可能性がある。

2014年の消費税率引き上げの景気下押しの影響が、予想以上に長く続いている理由だろう。

実際に、消費税率が引き上げられた3%の内、社会保障の拡充に使われているのは1.8ppt分にしかすぎず、残りは財政赤字の削減という事実上の貯蓄となっている。

また、深刻な高齢化で日本はもはや財政を維持することができないという固定観念が、日本経済の停滞の一因になるリスクが生まれてしまったことになる。

財政収支

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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