西多昌規,オフライン,集中力
(写真=The 21 online)

現代人はどんどん「集中」しづらくなっている

「よし、勉強するぞ」と机に向かうも、つい他のことが気になってしまったり、メールや電話に邪魔されたりして、なかなか集中できないことがあるかもしれない。実は、現代人は集中して一つのことに取り組むのが総じて苦手になっているかもしれない、と話すのは精神科医の西多昌規氏。集中力を阻む要因とその対策についてうかがった。

「集中力がない」のは、実は良いことだった!?

集中力がない。すぐ気が散ってしまう。飽きっぽい……といった悩みを持つ人はたくさんいます。私自身、飽きっぽいほうですし、人と会話しながらも他のことに気を取られたりしがちです。

ただ、集中力がないことは一概に悪いこととも言えません。それは言い方を変えれば、関心や注意力の幅が広いということ。技術進歩で情報量が増え、変化のスピードが上がっている時代ですから、幅広く注意を払う能力を上げなければ取り残される──とも言えるわけです。

とはいえ、時には集中して一つのことに打ち込まなくてはいけない場面もあるのが悩ましいところです。勉強をするときなどはまさにそうです。

では、どうしたら必要なときに集中力を発揮できるのでしょうか。

まず押さえておかなくてはいけないことは、どんなに集中力のある人でも、体調が悪かったり、睡眠不足だったり、悩みがあったりすれば集中できないということ。集中力はコンディションによるのです。一概に「1時間は集中できるようにならなければダメだ」などと考えるより、「今日の状態で、自分は何分くらい勉強に集中できるだろうか?」と見極める発想のほうがうまくいくでしょう。

時間がない人ほど勉強に集中できる理由

そのうえで、具体的な集中の仕方としては、時間を区切ること。誰もが言うことですが、やはりこれは大事ですね。

何の予定もない休日に、「今日は1日勉強しよう」と決めて机に座ったけれど、時間はあるからと思ってダラダラとスマホを見たりしてしまう。気づいたら、夕方になっていた……そんな経験はありませんか? 時間が十分あって、終わりが決まっていないと「先延ばし」してしまって集中できないもの。「昼休みの30分で勉強する」というように、「締め切り」のある勉強するようにしましょう。期限が決まっているとノルアドレナリンという神経伝達物質が出て集中力が高まる「デッドライン効果」を利用するのです。

あまり時間がないほうが集中できるという意味では、後に出勤が控えている「朝活」もひとつの手です。ただ、一般的には若い世代ほど体内時計は男性が夜型、女性が朝型に設定されています。それが年をとともに逆転して、だいたい定年の頃になると男性のほうが朝型になるのです。

もちろん個人差はありますが、特に男性には夜型の人もかなりいるはず。そういう人が無理に朝活に挑戦すると、かえって効率が上がらないこともあるので注意しましょう。

1日に1時間の「脱・スマホ」を

いざ勉強をはじめようというとき、すぐに集中できないという悩みもあるでしょう。スマホという究極の暇つぶし・現実逃避グッズが普及して以来、「すぐにやる」のはかなり困難になっています。スマホ依存度については自己診断(※記事の最後に掲載)してみていただきたいのですが、現代人のほとんどは程度の差こそあれ、モバイルツールに依存しているといえるでしょう。解決策としては、勉強をするときだけはスマホの電源を切るしかないと思います。

勉強中に音楽を聴く程度なら、集中力には悪影響はありません。これに対して、スマホでSNSをチェックしたり、着信やLINEの通知を気にしたりしながら勉強すると、明らかに集中力が低下し、思考力も鈍ることがわかっています。

また、集中して勉強するときには脳の海馬(記憶を司る部位)が働くのに対して、「ながら勉強」だと線条体という別の部位が働いてしまい、集中力や注意力が浪費される、という研究もあります。

コンディションによるとはいえ、集中して勉強できるのはせいぜい一日に一時間程度。簡単なことではないかもしれませんが、集中するときはオフラインにすることを目指してください。

日頃の「睡眠」に無自覚の問題があるかも

勉強をはじめてしばらく経って、気が散り始めたときは、無理をせず休憩をとりましょう。

休憩で避けたいのは、座ったままスマホを見たり、PCでネットを閲覧したり、といったこと。近年、「セデンタリー(座りっぱなし)」生活は深刻な健康被害を招くことが知られてきました。休憩の原則は、とりあえず席を離れて立ち歩く時間を作ること。これが集中力の回復にも役立ちます。

休憩時には、コーヒーやエナジードリンクを飲んでリフレッシュという人もいるでしょう。たしかに、カフェインを摂取すれば記憶力が上がるという研究はありますが、効果は微々たるものです。また、とくに中高年はカフェインで睡眠の質が悪化する傾向が強いので、夕方以降は避けるべき。コーヒーやエナジードリンクで気分を変えるのはいいでしょうが、あまり頼りすぎないことです。

結局のところ、集中力をもっとも左右するのは健康状態と体力です。生活習慣が乱れていたら集中力どころではありません。

なかなか集中できないという人で、日中に眠気を感じることが多いようなら、睡眠時無呼吸症候群でないかメディカルチェックを受けてみるのも手です。自覚できず潜在的に悩まされている人が多い病気です。

食生活や運動も大事です。平日は歩く機会を増やすこと、休日には少しでも「運動のための時間」をつくることを心がけましょう。たとえ週1回でも運動の効果はあることが立証されています。まずは散歩から始めて、慣れてきたらジョギングなど、好きな運動に発展させればいいでしょう。

健康という土台があってはじめて、集中力を高めるテクニックを活かせるということを忘れないで下さい。

☆スマホ依存度チェック!

スマホ依存になっていると、いつもスマホが気になり、集中力の妨げになっていることがある。下記の診断でセルフチェックしてみよう。

□自分でスマホ使用をコントロールできないと感じている
□スマホを使いすぎていると思う
□生の人間関係よりも、SNSやネットのほうを優先してしまう
□友人や家族からスマホの使いすぎを指摘された
□スマホがないとイライラする□ネットがつながらないところには旅行に行けない
□ネットやスマホをめぐって家族や親しい友人とケンカをした
□着信がないのにスマホが鳴った(震えた)と勘違いすることがしばしばある

→3つ以上あてはまる人は、「スマホ依存」かも! モバイルツールによって集中力を妨げられている可能性大。

西多昌規(にしだ・まさき)精神科医
1970年、石川県生まれ。96年、東京医科歯科大学卒業。国立精神神経医療研究センター、ハーバード大学研究員、自治医科大学講師などを経て、現在はスタンフォード大学客員講師。『「テンパらない」技術』(PHP文庫)ほか著書多数。(取材・構成:川端隆人)(『 The 21 online 』2017年2月号より)

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