茨城県かすみがうら市は今夏から先端技術のブロックチェーンを活用した地域ポイント制度で地方創生に取り組む。人口減少などから落ち込み気味の地域消費を活性化させるのが狙いで、地方自治体がブロックチェーン技術を本格的に導入するのは全国で初めてという。
ブロックチェーンは中央のサーバーを持たず、点在するスマートフォンにデータを分散化させて低コストで情報共有できるのが特徴。この技術を使えば低予算で地域ポイント制度を実現できるだけに、全国の自治体から注目を集めそうだ。
スマホでポイントの受け渡し
市政策経営課によると、地域ポイント制度は市が主催する自転車を主体にした観光事業や子育て支援、健康イベントなどに参加すると、1回当たり数十~数百円分のポイントを付与する仕組みだ。
ポイントは市内の小売店や飲食店で割引分に利用できる。使用期限が決められており、地域内での消費を活発にするため、早く使えば使うほど利用できる額が大きくなるようにする。
各小売店や飲食店はポイント分のお金を市から受け取る。ポイントの受け渡しはブロックチェーン機能のアプリケーションを追加したスマートフォンで行う。
市は2017年度一般会計当初予算案に地域ポイント関連費として1030万円を計上した。このうち、システム構築費は約200万円。運営費を含めても500万円を上回るほどで収まる見込みで、300万円程度をポイントに充てる。
市はこれまでブロックチェーン技術の勉強会を続けてきた。今後、かすみがうら市商工会などと連携して協力店の募集を進めるとともに、ポイントを付与する事業の選択、対象事業のポイント数決定を進める。同時に、スマートフォンを持たない高齢者向けにカード発行などの代替措置も検討する。
市は地域商業への波及効果を期待
かすみがうら市は茨城県南部にあり、2005年の「平成の大合併」で霞ケ浦町、千代田町が合併して発足した。隣の土浦市とともに、日本一のレンコン産地で、ナシの生産量が県内一を誇るほか、霞ケ浦のワカサギやシラウオ、川エビが名物。土浦・千代田、向原、西山など6つの工業団地が立地している。
東京から60キロ圏内に位置するが、市内に鉄道の停車駅がなく、地域内消費が弱いのが悩みの種。人口も2016年10月現在で4万1700人にとどまり、1995年の4万5300人をピークに緩やかな減少に入っている。
市は人口減少に歯止めをかけ、地域経済に活力を与える方法を模索する中、ブロックチェーン技術の活用を思い立った。ブロックチェーンを導入すれば、大規模サーバーが不要になり、多くの費用をつぎ込まなくても地域ポイント制度をスタートさせられる。ランニングコストをそれほど気にしなくて済むばかりか、情報の改ざんリスクも小さい。
ポイントの受け渡しはスマートフォンなら簡単にできる。このため、市はポイント利用が活発になり、地域にそれなりの経済波及効果が出るとみている。
かすみがうら市政策経営課は「ポイントはあくまで割引分。このシステムを利用して市民や観光客が買い物をしてくれれば、地域の商業が活気づく。ポイントのおかげで市のイベント参加者も増えるのでないか」と期待に胸を膨らませている。
参加店とポイント付与イベントの確保が今後のカギ
経済産業省が2016年にまとめたブロックチェーン技術に関する報告書によると、ブロックチェーン技術は土地登記や各種登録など権利証明行為、高効率サプライチェーンの実現など多くの分野に利用が可能とされている。
中でも、地域ポイント制度や地域通貨、電子クーポンなど価値の流通、ポイント化に大きな効果が期待でき、市場規模は1兆円に達すると推計されている。発行自治体以外との取引にポイントが利用され、転々と流通して通貨に近い状況になると、発行額以上の経済効果を地域にもたらし、将来は預金、貸出に類する機能を獲得することも考えられるという。
日本のポイント制度は1950年代にスタンプカードの形で登場した。その後、1980年代以降、多くの民間企業やショッピングセンターなどが本格導入を始め、21世紀になると全国の自治体が地域経済の振興や介護支援、環境保護などを目的にスタートさせている。
スタンプカードなど紙のポイント制度は、管理に相当な手間がかかる。ICカードなどを使用するとしたら、大規模なサーバーが必要になり、システム開発費や維持管理費の負担が大きい。これらの問題はブロックチェーン技術の活用で解決できるだろう。
しかし、ポイントを与えられるイベントや参加店が少ないと、利用者側にせっせとポイントを貯めて商品と取り替えようとする意欲がわかない。過去のポイント制度では、せっかくポイントを付与しても、かなりの部分が失効してしまうケースもあった。
地域ポイント制度のスタートまでに、どれだけの参加店とイベントを確保し、市民に周知を図れるかが、かすみがうら市の事業の行方を左右しそうだ。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。