残業時間の上限を月100時間未満に規制する議論で、安倍首相が3月13日、繁忙期でもこれを受け入れるよう経団連の榊原定征会長と連合の神津里季生会長に要請した。政府が旗振りしている働き方改革の一環だが、労働者のストレス軽減に直結するかというとそうでもなさそうだ。

総合求人・転職支援サイト「エン転職」が行った調査によると、仕事でストレスを感じる要因として「労働時間の長さ」を挙げたのは28%。最も回答の多かった「上司との関係」(51%)や「同僚との関係」(32%)といった人間関係の方が、より多くの人にとってストレスとなっていることが分かる。

人間関係のストレスといえば考えの合わない相手とのやりとりを思い浮かぶが、実は、年度の変わり目であるこの時期は、人事異動や退職、新人の入社など人が大きく入れ替わるため、良好な人間関係でもストレスが生じやすい。

異動などで新たな環境に身を置く本人はもちろん、同じ職場に残っている人も同様である。本来ストレスとは、心身に負荷のかかった状態を指す。特に不快なものでなくても、慣れ親しんだ日常が変化するだけで十分ストレスになるのだ。

雰囲気の変化の正体

異動,ストレス
(写真=PIXTA)

新天地に移る人は普段以上にリフレッシュを取り入れ、ストレスケアをしながら環境になじむしかない。しかし同じ職場に残り新たな仲間を受け入れる側は、人が入れ替わってもこれまでの心地よい職場の雰囲気を保つことで、変化に伴うストレスは減らすことができる。

とはいえ、雰囲気というと抽象的で分かりづらい。そこで雰囲気を具体化するために、心理学でよく用いられる「自我状態」という概念をご紹介したい。

交流分析理論の中核概念である自我状態とは、簡単に言えば性格を構成する5要素のことだ。

  • 規則や信念の強さを指すCP
  • 優しさや寛容さを指すNP
  • 客観性・合理性のA
  • 自分の感情への素直さを表すFC
  • 従順さや協調性のAC

の5つからなり、どの要素が出やすいか、出づらいかで性格を見ていくことができる。イメージしやすいよう、漫画『ドラゴンボール』のキャラクターで例えてみると、誇り高く自己主張の強いベジータはCP、仲間思いで気配り上手なクリリンがNP、冷静な判断ができるピッコロはAが高いと言える。主人公である孫悟空はFCの塊で、天津飯の不本意ながらも師匠や兄弟子に従う姿はACの表れだ。

ベジータ……規則や信念の強さを指すCP
クリリン……優しさや寛容さを指すNP
ピッコロ……客観性・合理性のA
孫悟空……自分の感情への素直さを表すFC
天津飯……従順さや協調性のAC
このことを頭に置いた上で、職場から去る人を考えてみよう。その人は、自我状態の要素のうち、どれが高いだろうか。同様に、新しい仲間についても考えてほしい。誰しも、5つのうち1つか2つは目立つ要素があるものだ。

人の入れ替わりは、5つの要素の入れ替わりでもある。例えばFCの高い人が去りCPの高い人が加われば、職場の業績は上がるだろうが、反面殺伐とした雰囲気になり職場から活気が失われていく、という具合だ。

失う要素をみんなで補う