日本に息づく“ストリート的な美”を独自に探求
日本の文化芸術に特有の美意識といえば、多くの人が「侘び・寂び」と答えることでしょう。でも、果たしてそれだけでしょうか?
大胆にして豪快、度肝を抜かれるほどに奇想天外--。刀を携え、命を賭した戦いに臨みながら、オリジナリティ溢れる文化を築き上げた武人たち。その精神性が息づく“ストリート的”な美の系譜を、現代的な感覚で表現し続けるアーティスト、天明屋尚(てんみょうや・ひさし)の新作個展が、東京・市ヶ谷のミヅマアートギャラリーで開催されています。
革新的な美術概念「BASARA」で挑む新作個展
天明屋さんは、アカデミズムや因習にとらわれた権威主義的な日本の美術体制に対して、日本の伝統絵画を現代に転生させる独自の絵画表現「ネオ日本画」を追求。南北朝期の婆娑羅(ばさら)、戦国末期の傾奇者(かぶきもの)など、異端、悪趣味と貶められてきた華美(過美)で覇格(破格)な美の系譜に注目し、革新的な美術概念「BASARA」を提唱しています。
2年ぶりとなる今回の個展では、「形質転換(Transformation)」と題して新作を発表。形質転換とは、遺伝情報に外部からのDNAを組み込み、個体の表現型を変化させる行為を指す生物学用語ですが、その意味するところとは何でしょうか。
“日本の美”を確信犯的に改変する試み
その答えは--仏画の明王図や琳派の紅白梅図屏風など、日本の伝統的な表現様式と、SFのメカデザインを思わせる現代的モチーフを融合させた絵画作品。そして、武士の甲冑を宇宙服のようなヘルメットバイザーやLEDで変異させた立体作品。さらに初の写真作品として、プリクラ的な美意識で捉えた自身のポートレートまで。
日本美術のコンセプトや組成を踏襲した上で、様々な流派や系譜に見られる伝統的な表現型を、現代的なイメージへと改変する。確かな技巧と高い完成度のもと、日本の伝統美術や固定観念的な美意識を確信犯的に「形質転換」していくという反骨のビジョンが、そこに提示されているのです。
現代の鬼才を発掘する「TENGAI」プロジェクト
この展覧会に続いて注目したいのが、天明屋さんが自ら立ち上げ、キュレーションを手がける「TENGAI」プロジェクトのグループ展。
TENGAIとは、婆娑羅者や傾奇者、そして戦国・江戸期に活躍した岩佐又兵衛、伊藤若冲、曾我蕭白、歌川国芳ら型破りな奇想絵師たちのように、天明屋さんが掲げるBASARAの理念を体現する現代の鬼才を発掘・紹介するプロジェクト。
第3弾となる今回の展示に登場するのは、現代美術やイラストレーションなどの技法やジャンルの枠組みを超えて、巨匠から若手まで、天明屋さんがこれだと見込んだ7名の表現者たち。2月8日から東京・青山のhpgrp GALLERY TOKYOを会場に、型破りなアーティストたちの作品群が、ずらりそろい踏みを果たします。
選りすぐり“奇想のアーティスト”7名によるグループ展
この展示に臨むにあたり、天明屋さんは得意とする武人像の新作を満を持して発表。その他の参加作家には、女性の体の曲線美とメタリックな質感を兼ね備えた「セクシーロボット」シリーズで世界的に知られる空山基(そらやま・はじめ)。からくり人形や仏像の修復技術を元に、変身、憑依、コスプレなど、自分とは違う存在への変異を表現する彫刻家の淺野健一。日本のサラリーマンの悲哀を描く伊藤大朗や、日本画の技法で神獣像を発表するfeebee、モダンさを湛えた美人画で注目を集める加藤美樹、学生ながら北斎の滝の絵のような錯視的な世界を描き出す影山萌子が名を連ねています。
“日本の美”--その新たな表現形が問い直すもの
昨年秋にニューヨークのhpgrp GALLERYでも開催され、好評を博した本展。才気煥発な奇想のアーティストたちの手によって現代にリブート(再起動)される、武者絵に風刺絵、美人画に花鳥画、からくり人形などの新たな表現形??。天明屋さんが提示するBASARAの系譜、そのほとばしる創造性と反骨精神によって、私たち自身の美意識がいま、問い直されているのです。
■お問い合わせ
天明屋尚「形質転換」展
日時:1月10日(火)~2月10日(金)11:00?19:00(日・月・祝休み)
場所:ミヅマアートギャラリー
住所:東京都新宿区市谷田町3-13 神楽ビル2F
TEL:03-3268-2500
http://www.mizuma-art.co.jp
「TENGAI 3.0」展
日時:2月8日(火)~25日(土)12:00?20:00(月・毎月最終日曜休み)
場所:hpgrp GALLERY TOKYO
住所:東京都港区南青山5-7-17 小原流会館B1F
TEL:03-3797-1507
http://hpgrpgallery.com
文/深沢慶太(提供: プレミアムジャパン )
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