トヨタ自動車 <7203> を中心に製造業が好調で人口増加が続いている愛知県で、若い女性の人口流出が相次ぎ、結婚適齢の男女の人口バランスが崩れていることが、愛知県のまとめで明らかになった。

このまま事態を放置すれば、優秀な女性の流出が県の成長に影響を与えかねないばかりか、未婚率の高まりが将来の人口減少を加速させることも考えられる。このため、県は2017年度から愛知の住みやすさを動画で配信して女性に定住を呼びかけるとともに、女性の就業の場を拡大する事業をスタートさせる。

20代の女性が次々に首都圏へ流出

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(写真=PIXTA)

県統計課によると、県人口は2016年10月1日現在で750万7691人。前年に比べて2万4563人(0.33%)増えた。三大都市圏では首都圏が依然として人口増加を続けているが、関西圏は減少に転じている。そんな中、愛知県は人口増加を続け、750万人の大台を初めて突破した。

人口の自然増減数は1752人のプラス。1956年の調査開始以来、増え続けているものの、9年連続で増加幅は縮小した。これに対し、社会増減数は2万2811人のプラスと6年連続で増加している。地方別の転出入状況を見ると関東地方に対しては転出が超過しているが、それ以外の地域に対しては転入超過が続く。

県人口の男女別内訳は男性が375万5995人、女性が375万1696人。男性が女性を1%上回っている。ところが、20~24歳人口は男性20万5663人、女性18万7775人、25~29歳は男性21万9280人、女性19万4786人、30~34歳は男性24万272人、女性21万8308人と、男性が9.5~12.6%多い。

これをトヨタ本社や関連企業のある豊田市と刈谷市の20~39歳人口で見ると、男性の数が3割も多くなる。結婚適齢期の男女バランスが大きく崩れているわけだ。

首都圏への転出超過は7139人。このうち20代の若い世代がほぼ半数を占める。中でも20~24歳では男性558人に対し、女性は2.5倍の1408人に達した。逆に、転入超過数全体を見ると、20~24歳は男性7451人に対し、女性3767人。男性が女性のほぼ2倍を占めている。

県の経済と雇用は、トヨタを中心とする製造業が長く支えてきた。転入も高校や大学を卒業して製造業に就職する人が多いのが特徴だ。製造業は小売りや卸売り、サービス業に比べ、男性が働く職場というイメージが強く、男社会の古い固定観念も根強く残る。

県統計課は「製造業中心の職場環境になっているのが愛知の特色。それが若い男女の人口バランスを崩す要因の1つになっている」とみている。

女性が求める職場が少なく、管理職登用にも遅れ

日本投資銀行東海支店は各種統計情報から県内の女性が働く環境を分析している。2012年の総務省就業構造基本調査によると、無職の女性が就労を希望する職種はサービス業、事務職がそれぞれ全国で100万人を超え、専門的・技術的職業が80万人強で続いている。これに対し、営業販売職や製造現場の労働はともに30万人前後で不人気だ。

ところが、県内で働いている女性の職種構成比は事務職27.1%、サービス業18.0%。専門的・技術的職業15.5%、営業販売職12.2%、製造現場11.9%。このうち、事務職と製造現場は全国平均を上回っていたが、その他3職種は全国平均を下回った。女性のニーズが高いサービス業など3次産業の雇用が少ないことがうかがえる。

2010年国勢調査から全産業の雇用者に占める女性の比率を見ても、県内の41.4%は全国平均の43.5%を下回っている。製造業の雇用者に限れば、全国平均が30.2%なのに対し、県内は25.6%。女性登用の遅れが目立つ。

さらに、男性労働者の平均勤続年数は14.5年で全国トップだったのに対し、県内で働く女性は9.0年でほぼ全国並み。管理職として働く女性も12.3%にとどまり、全国平均の13.4%に及ばなかった。

厚生労働省の社会福祉施設調査などからはじき出した乳幼児人口1万人当たりの常勤保育士数は334人で、全国44位。厚労省医師・歯科医師・薬剤師調査から抜き出した0~14歳人口1万人当たりの小児科医数は8人しかおらず、全国40位にとどまっている。

女性の復職を支援する態勢が整っておらず、子育てのしやすさという点で課題が残っていることも浮き彫りになった。

女性人材を企業価値創造につなげる試みが必要

国立社会保障・人口問題研究所は県内の2020年20~34歳人口で、男性100人に対して女性が占める割合を91.9人と推計している。中でも、東海市や大府市、大口町といったものづくりの集積地で男女差が大きくなるとみている。

企業や地域社会の意識改革が進まなければ、若い女性の流出に拍車がかかり、人口バランスの崩れがさらに大きくなる可能性があるわけだ。このままでは、未婚の男性が増えて人口減少に転じたあと、減少速度が加速しかねない。優秀な女性の流出はものづくりの拠点となっている県の立場を脅かすことも考えられる。

日本政策投資銀行東海支店は「リニア開業を見据え、地域の活力を高めていくためにも、女性の活躍推進を女性のためだけの施策と受け止めず、多様な人材を企業価値創造につなげられるよう努力する必要がある」と提言している。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。