2015年1月1日より相続税の基礎控除額が縮小され、課税される人の範囲が拡大した。国税庁発表の「平成27年分の相続税の申告状況について」によると、発生した相続のうち相続税の申告があったのは8.0%で、前年分の4.4%に対して3.6ポイント増加している。

身近な人に資産を残す方法は、大きく分けて生前贈与と相続の2つがある。どんな違いがあるのか、事例で確認してみよう。なお、本件については2017年1月1日時点の税制にもとづいている。税法は頻繁に改正されるので、随時確認することをおすすめする。

贈与税と相続税どちらが得?

Red Hart
(写真=Lordn/Shutterstock.com)

財産の相続を規定する相続税法には、相続税と贈与税の2つがある。どちらも無償で財産を取得したときにかかる税金だが、贈与税がかかるのは生前贈与のときだ。贈与には死亡時に遺言によって行う遺贈という方法もあるが、この場合は贈与税ではなく相続税が適用される。

さらに贈与税には暦年課税と相続時精算課税の2つがある。前者は税率も控除額も相続税とは全く異なるため、納める税金に大きく差が出る。段階的に贈与税の利率はあがっていく。後者は名称通り相続時に税金を精算するという内容になる。最終的に相続税で調整されることとなる。

贈与税の暦年課税と相続税で税額にどれだけ差があるのか、検証してみる。まず、両者の最も大きな違いは税率と基礎控除額の2つだ。税率はどちらも累進課税で最高税率は55%だが、ここに達する金額が異なる。暦年課税は子や孫に相続する場合で4,500万円超の部分だが、相続税は6億円超だ。4,500万円超5,000万円以下の場合、暦年課税は最高税率の55%がかかるが、相続税は20%となっており、大きな開きがあるといえる。

基礎控除額は、取得した財産の額のうち税金がかからない部分である。贈与税の暦年課税の場合は受贈者ひとりにつき年間110万円であり、相続税は法定相続人(民法に定められた一定の親族)の数によって異なる。基本的な計算式は「3,000万円+法定相続人×600万円」が基礎控除額となる。

例として、相続人は子供1人、財産は預金1,000万円のみと仮定したとき、1回の暦年課税で贈与した場合と相続した場合で税金はそれぞれいくらになるか比較してみる(特例贈与【20歳以上の者が直系尊属より受ける贈与】と仮定する)。
・贈与税(暦年課税)
(1,000万円-基礎控除額110万円)×30%-90万円=177万円(納付する贈与税額)
・相続税
1,000万円-基礎控除額(3,000万円+600万円×1人)<0 つまり課税所得が0円のため、税金はかからない。

財産が預金1億円だと次のようになる。
・贈与税(暦年課税、特例贈与の場合)
(1億円-基礎控除額110万円)×55%-640万円=4799.5万円(贈与税額)
・相続税
(1億円-基礎控除額『3,000万円+600万円×1』)×30%-700万円 =1,220万円(相続税額)

非常に大きな差だ。ただし、上記の例はあくまでも1回で贈与した場合を想定している。贈与は受贈者ひとりあたり毎年110万円まで非課税となるので、少しずつ長期にわたって行えば、相続税の対象となる財産を減らしていくことができるということだ。

どちらを選ぶか考える際のポイント

実際には相続税と贈与税に関する法令にはさまざまな特例があり、また相続で問題になるのは税金だけではないため、どちらを選ぶかは慎重に考える必要がある。

1. 配偶者控除

贈与税の基礎控除額は少ないが、配偶者控除という制度が利用できる場合がある。夫婦間の贈与の場合、住宅または住宅を購入するための資金であれば、暦年課税の基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで非課税となるのだ。ただし結婚してから20年以上経っており、居住用の物件であることが要件となる。配偶者間の税額軽減の制度は相続税にもあり、1億6,000万円もしくは配偶者の法定相続分相当額のうち、どちらか多い金額までは相続税がかからない。

2. 手元のキャッシュ

生前贈与には、生きているうちに子や孫が喜ぶ姿を見られ、本人も安心して託すことができるというメリットがある。だが、贈与しすぎて、納税資金や老後資金がなくなってしまうことにも注意したい。

相続税と贈与税、さまざまな特例、選択は慎重に

ここで解説したのは相続税と贈与税のほんのさわりの部分だ。一部紹介した特例のようなものもあり、非常に複雑な制度となっている。税金だけではなく、予期せぬところからトラブルが発生することもある。家族構成や相続財産の種類によっても最善策は人それぞれであり、税理士やファイナンシャルプランナー、行政書士など専門家の力を借りて、慎重に相続税対策を考えるとよいだろう。(提供: みんなの投資online

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