要旨

起こりうる自然災害には、地震、津波、噴火、豪雨、豪雪といったものがある。自然災害のうち規模の大きなものは、特に命名されたり、災害救助法が適用されたり、自衛隊の災害派遣があったりする。今回は最近の事例を振り返り、次回以降で、こうした災害に対して、事前・事後にどのような対策が講じられるのかをみていく予定である。また、保険・共済の役割についても改めて確認したい。


はじめに

我々の日常には、様々な災害がおきている。気象災害や地震・噴火災害など人の手におえないものもあれば、自動車事故や航空機事故、大規模な火災などのように、相当以上に人為的なものもある。あるいは戦乱・テロのようなあえて人間に被害を与えることを目的とするような活動もある。

いろいろある中で、主に自然災害に対して、日ごろからどういう体制で備えているのか、実際の災害の現場、その後の復旧などの局面では誰がどう対応できるのかを見ていきたい。誰が、というのは、国や都道府県がどのように助けてくれるのか、個人として対応すべきことはなにか、そして保険や共済がどの場面でどう役に立っているのか、といったようなことに触れて行きたい。

まずは、自然災害といっても、どんなことが過去起こっていたのか、みていくことから始める。

さっそく最近の気象現象・地震などの発生状況を一覧にしようかと思ったのだが、あまりにも多すぎる!実際、地震についてみると、小規模のものを含めればほぼ毎日、日本のどこかが揺れているということになっている(1)。

というわけで、一定の規模以上のものに限ることにしよう。

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(
1)地震情報(各地の震度に関する情報) 気象庁 http://www.jma.go.jp/jp/quake/
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顕著な災害を起こしたことにより、気象庁により「命名」されたもの

地震や豪雨等の規模、被害が大きい場合には、それを気象庁が命名することにより、

「共通の名称を使用して、過去に発生した大規模な災害における経験や貴重な教訓を後世代に伝承するとともに、防災関係機関等が災害発生後の応急、復旧活動を円滑に実施することが期待される」(気象庁HPより)

という考え方がとられている。

【気象庁が命名した地震・火山現象】(2)

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地震の場合には、規模が大きい場合、顕著な被害が起きた場合、群発地震で被害が大きかった場合等、に「元号(西暦年)+地震情報に用いる地域名+地震」という名称をつける、とされている。

地震の名称については、学術的に適切かという問題は当然あるのだが、それとは別に被害とその対応の点で、印象が変わってくるので議論を呼ぶことがある。直近では、「熊本地震」で本当にいいのか、大分県も震源となったり相当の被害があったりしたではないかという議論があった。(が、結局、変更はされていない。)また兵庫県南部地震の震災のことを阪神・淡路大震災と呼ぶ(閣議決定による。)。そして、東北地方太平洋沖地震の震災は「東日本大震災」である。

また、たとえば上の表にも「1968年十勝沖地震」というのがあるが、この名前だと、北海道で大きな被害がでている印象が強くなるが、実際には対岸の青森県でも被害は大きかったのである。この場合何が問題になるかというと、政府の対応や義捐金のあて先などが北海道内の市町村に集中してしまい、青森県側では復旧が遅れたというような実態があったとされている。地震の命名、あるいは報道に関しては、実際に復旧に向けた支援に影響があるので、地震のメカニズムや地理の都合だけではない慎重な検討が必要だということになったようである。

豪雨、豪雪、台風のような気象現象については、下の表のようなものが起こっている。

【気象庁が命名した気象現象】

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命名されるような大きな規模としては、顕著な被害(損壊家屋等1,000棟程度以上、浸水家屋10,000棟程度以上など)が起きた場合とされ、名称は「その都度適切に判断して」決められている。豪雨災害の場合は、被害が広域にわたる場合が多いので、地震と違ってあらかじめ画一的に名称の付け方を定めることが難しいことによるそうだ。

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2)顕著な災害を起こした自然現象の命名についての考え方 気象庁HP http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/meimei/meimei.html
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「災害救助法」が適用された災害

災害救助法という法律名は、なにか災害があるたびに報道でも耳にすることが多いものだろう。この法律の目的は、

「災害に際して国が地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行い、被災者の保護と社会の秩序の保全を図る」(災害救助法第1条)

というものであり、避難所の供与、食料・飲料水の供給、医療、被災者の救出、などの救助を行う。最近適用を受けた自然災害と地域(実際は市町村等単位で適用されるが、ここでは都道府県までにとどめた。)は下の表のようになる。

なお生命保険の場合、災害救助法の適用地域では、保険料払込猶予期間が6か月延長されるなどの救済措置が適用されることが多い(*3)。損害保険ではそれに加え、1年更新の契約が多いからか、契約更改手続きが6か月延長されるなどの措置も適用される。各共済事業や少額短期保険会社でもほぼ同様の対応がなされている。

【災害救助法の適用(H26年度以降)】

(内閣府HP(*4)の記載を、筆者が一部簡略化して作成)
(内閣府HP(*4)の記載を、筆者が一部簡略化して作成)

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(3)東日本大震災時の東京都などは災害救助法の適用を受けたものの、大量の帰宅困難者の発生という事情なので、保険料猶予期間の延長対象とはなっていない、といったケースもある。
(
4)災害救助法の適用状況 内閣府HP http://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/kyuujo_tekiyou.html
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自衛隊の「災害派遣」があった災害

また、もうひとつ別の見方をあげると、自衛隊法の適用により、災害派遣の要請があったような事例をみてみると、以下のようなものになる。

自衛隊法では、自衛隊の行動につき定められており、「防衛出動」をはじめ20以上の項目が列挙されているが、その一つに「災害派遣」がある。これについては、

「都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる、」とされている。

【災害派遣(H26年以降の陸上自衛隊の例)】

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陸上自衛隊の派遣例をみると、被害が実際にでたというよりは、山林火災の消火活動とか、不発弾処理、鳥インフルエンザ発生時の物資輸送など、自衛隊にしかできない危険な処理とか、一般の人々が被害を受ける地震時の支援に比べて特殊な任務が多いようである。また、海上自衛隊の派遣については、逐一の事例がまとまって公表されてはいないようなので、表にはしなかったが、東日本大震災での救援物資の輸送、海難事故における救出活動や、離島における急患輸送などを年間数百件規模で行なっている。さらに航空自衛隊も、台風・豪雨・豪雪・地震などによる被災地への支援・防疫、遭難者の救出活動、重傷患者の空輸、民家・山林火災の消火など、年間100件以上の災害派遣を行なっている。

おわりに

さて今回は、日本における自然災害のうち、いくつかの視点で「規模の大きな」ものが、これまでどんなものがあったかをみて頂ければよいのだが、ほとんど毎年なんらかの災害が発生しているといってよい。自然災害については、発生する時期の予想や規模などの点で、人の手で完全に克服できるとは思えない。しかし、国や都道府県、自衛隊などの機関の体制整備が相当程度なされており、それは今でも何かあるたびに、被害を教訓とするなどして改善されている途上にあるようだ。大きな災害に見舞われないうちに、次回から、そうした防災体制の整備状況や、あるいはそのひとつとしての保険・共済の役割などについて、改めてみていくことを予定している。

安井義浩(やすい よしひろ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

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