一流と呼ばれる営業マンの極意は細部に宿る

営業の哲学,富裕層
(写真=PIXTA)

決めていただくために

残念な営業マンは、値引きする
できる営業マンは、他社との違いで説得する
一流の営業マンは、あらゆる投資効果を数字で見せる

(本記事は、高野孝之氏の著書『プロフェッショナルが実践している営業の哲学』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています)

数値が具体的であればこそ購入イメージがわく

米国の中古車市場では、外見からはわからない質の悪いクルマのことを「レモン」と呼ぶそうです。諸説あるようですが、レモンは皮が厚く、外見からはその品質がわからないため、そのような呼び方をするそうです。

逆に、優良車のこと「ピーチ」と呼ぶそうです。ピーチは皮が薄く、外見からその品質がよくわかるためでしょう。中古車市場では、買い手は、売り手と同じような情報を持たないため、「レモンをつかまされる」というリスクが発生するわけです。

しかし、営業の仕事では、レモンではなくピーチを売るようにすべきだと思います。お客様に対して、商品やサービスの質がわかるようにし、購入した後の「効果」を見えるようにすることが大切なのです。法人営業において、お客様が購入を決定する際の重要なポイントは、「いくら払えば、どれだけ儲かるか」という「投資効果」です。ですから、「儲からない」商品やサービスを買うことまずありません。

たとえ間違って買ってしまっても、いずれ解約や返品につながってしまいます。ここで「投資効果」について考えてみましょう。

例えば、多くの日本企業は、2月に会社が年間の予算を決めて、各事業部に配分します。投資効果の「投資」については、数字が確定しているのです。一方で、投資効果の「効果」も「投資」と同じように数字で具体的に示さなければ、「儲かるかどうか」お客様にはわかりません。

つまり、お客様は、「投資」と「効果」が両方とも数字になってはじめて、購入を決定するかどうかの判断ができるようになるのです。法人営業マンの仕事は、お客様と一緒に「効果」の具体的な数字を考えることです。効果には、経費の削減、社員の生産性の向上、売上や利益の向上など、さまざまなものがあるでしょう。そして、例えば「1億円の売上増と2000万円の経費削減」といったように、具体的な数字で結論を出すのです。

そして、効果の数字の根拠を、お客様にわかりやすく説明します。
根拠を出すためには、過去に購入したお客様から、その商品の効果を教えていただく必要があります。教えていただいた効果を数値化して、積み重ねていくのです。

たとえば、貴金属・宝石業の会社で売上10億円規模以上の会社になると、売上機会を失いたくないために、商品の在庫金額が売上金額を上回るケースがよくあります。

商品は、銀行から借金をして仕入れますので、銀行への金利の返済が発生します。ということは、あなたが在庫を削減できる方法を数値で提案できれば、金利の返済が減る分だけ「投資効果」が生まれるので、お客様はその提案を受け入れるでしょう。

付け加えれば、自分の提案をお客様が採用しなかった場合のリスクも併せて、数字で提示できれば、説得力が増します。たとえば、「この提案を採用しなければ、今後、顧客満足度は20%低下し、生産性も30%低下します」といった感じです。これが効果を「見える化」するということです。

こうして、投資効果を「見える化」することで、決定率は驚くほど向上します。ただし心がけたいことがあります。それは、「お客様が思い描いている未来、その未来を形にするための商品を提案する」ということです。

あなたが営業している商品やサービスを使って、投資効果を「見える化」するのみならず、一緒に未来を描くのです。未来図は営業マンの手を離れると、お客様のものになります。お客様は、自分や自社の未来図がイメージできると、その実現に向け、自ずとあなたの話に耳を傾けるようになるのです。

個人のお客様の場合も同様です。お客様の希望や将来の夢がかなうような商品提案ができると、それがお客様の未来を描くことになり、お客様はあなたの商品が欲しくてたまらなくなるわけです。

一流でも成約率は3割だと心得よ

はじめて会うお客様に対して

残念な営業マンは、会えるのが当たり前だと思っている
できる営業マンは、数いるうちの1人だと思っている
一流の営業マンは、やっと出会えた大切な人として接する

新規顧客の開拓のために、100件のお客様に飛び込み営業して、見込み客を何件発掘できると思いますか?

私は日本IBMに入社後、新規開拓を担当する営業部に配属され、それから8年間、飛び込み営業の仕事を続けることになりました。

私の経験を踏まえて言えば、100件飛び込み営業しても、検討中のお客様を発掘できるのはよくて1件です。つまり、丸一日必死で飛び込み営業を続けても、見込み客は1社しか出ないわけです。

断られて、断られ続けて発掘できたお客様だからこそ、自然とお客様を大切に想う気持ちが湧いてきます。

何十回、何百回、断られてもくじけずに、努力を続けるのは、どう考えてもたやすいことではありませんが、絶対諦めなかったひとだけが手にできる大切なものでもあるのです。「絶対に、このお客様に私の提案を選んでいただき、喜んでいただこう」。そう強く心に決めて、私は提案書をつくっていました。やっと発掘できたお客様だからこそ、なんとしても契約したい一心で集中して取り組むことができました。

当然のことながら、見込み客を見つけてから、はじめて商談がスタートします。商談には、負けることの方が多いものです。

プロ野球の世界では、3割バッターは一流の選手といわれますが、営業の世界でも、新規顧客開拓の商談の勝率が30%であれば、「一流の営業」といえると思います。つまり、新規訪問において100分の1の確率で商談に漕ぎ着け、商談では10回勝負して3件しか契約を獲得できないのです。

そう考えれば、自分と商談をしてくれるお客様がどれほどありがたいか、契約していただいたお客様がどれほど大切なのかが実感としてわかってきます。「営業マンの仕事とは何か」を突きつめれば、新規開拓を成功させること、既存の取引先から切り捨てられないことの2つに尽きるでしょう。

では、お客様に選ばれる営業マンになるには、何をすればよいのでしょうか?

具体的な細かいノウハウはたくさんありますが、何よりも大事なことは、「お客様のことを大切に思う気持ち」という1点に尽きます。

営業マンにその気持ちがあれば、行動となってお客様に伝わり、結果的に信頼関係を築くことができます。こうして信頼関係が築けてこそ、新規顧客開拓につながっていくのです。

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見られていないところが肝心

帰り際のエレベーターでは

残念な営業マンは、軽く会釈する
できる営業マンは、お辞儀をする
一流の営業マンは、ドアが閉まるまでお辞儀をする

私は、商談の内容と同じくらい、始めと終わりの挨拶が大切だと思っています。それはあるお客様に学んだことです。

ある日、私は某上場会社をはじめて訪問し、会議室でキーマンである役員のDさんにお会いしていました。

その帰り際、私がエレベーターに乗り込んでお辞儀をすると、向かい側に立つDさんはドアが閉まるまでずっと私にお辞儀をしたままだったのです。

営業マンは、エレベーターに乗り込んでお客様とお別れする際、ドアが完全に閉まるまで深くお辞儀を続けるのが基本ですが、お客様は軽く会釈をされる程度が一般的です。だから、営業マンに対してこれほど丁寧な挨拶をされる方は、大変珍しいと思います。

Dさんは商談の最中、ずっと穏やかで好意的な言動をされていたので、とても素敵な方に見えたのですが、最後のエレベーターにおけるお辞儀によって、Dさんの印象は、私の心の中で最高レベルにまで高まりました。

営業マンは、お客様にお会いして「始めの挨拶」をし、別れ際に「終わりの挨拶」をしますね。最初にする挨拶では、お客様の姿を確認した際、(ときには身振りを交えて)本日面会の場をいただいたお礼を言います。無事商談が終わって、お客様とお別れする際には、商談をさせていただいたお礼を言います。普通は、お別れのときの挨拶のほうが短いでしょう。

短いからといって、お別れの挨拶で気を抜いてはいけません。短いからこそ、営業マンの一瞬のしぐさが相手の印象に残ります。お客様は、エレベーターのドアが閉まる最後まで、営業マンの動作を見ています。そして、最後の挨拶で営業マンの印象が決まってしまうことがままあるのです。

挨拶は、社内においても自分から率先してするようにしましょう。朝、どんなに忙しくても、相手が目下であっても、自分から「おはようございます」と挨拶しましょう。そして「おはようございます」を言うときは、心の中で、「努力すれば結果はついてくる。お互いに今日いちにちを大切にしてがんばりましょう」などと心を込めて挨拶すると、自分自身もさわやかな気分になります。

「おはようございます」「ありがとうございます」とはっきりと明るく発声する。深くお辞儀をする。しっかり手を握って握手をする。待ち合わせ場所で、前方にお客様の姿を見つけたら、親しみを込めて大きく手を振る。

このように気持ちを込めた挨拶をするには、言葉だけでなく、ときには身振りも使いながら、一つひとつの動作を丁寧に行いましょう。

高野孝之
スマートライン株式会社代表取締役社長兼CEO