2016年の世界販売実績が4年連続で前年を上回り、レクサスの業績は絶好調だ。一方で導入から10年以上経過した国内では、ドイツ系プレミアムブランドに一度も販売台数で勝てていない。トヨタの技術の粋を集め最高品質を謳うレクサスが、国内で苦戦するのはなぜだろうか?
少ないモデルバリエーションが、選択肢を狭めている
ベンツの16モデル(smartを除く)BMWが15モデル(Mシリーズを除く)に対し、レクサスも10モデル(Fモデルを除く)を準備している。ところが、クーペやカブリオレ、ワゴンなどのボディタイプではベンツが28タイプ、BMWが23タイプに対しレクサスはモデル数と同じ10タイプしかない。
ターゲットとなる富裕層は、ビジネスやレジャーなどTPOに合わせクルマも複数台所有するケースも多く、ボディタイプのバリエーションの少なさは致命的だ。特に販売台数が見込めるコンパクトクラスには、2011年発売の古いハッチバックのCTだけ。高級大型車へのステップアップの期待が高い若年層の誘因を目的に、小型モデルを積極的に拡充するドイツ系におくれを取っている。
売れ筋のミドルクラスSUVにブランニューモデルのNXを投入し販売台数を押し上げたが、コンサバティブなセダン中心のラインナップが多様化するニーズに追いついていないのが現状だ。
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ユーザーはトヨタからのステップアップでレクサスを選ばない
レクサス導入に伴い、セルシオ→LS、アリスト→GS、ハリアー→RXなどトヨタからレクサスへのモデル移行が行われた。トヨタの高級モデルを乗り継いだ上得意客の多くは、トヨタディーラーの手厚いサービスやフォローに満足しており、来店型サービスが中心のレクサスへは行かなかった。
またトヨタ車から移行されたレクサスの各モデルも、独自の魅力を訴求しきれず、エンブレムを変えただけにしては割高なブランドと認識されてしまう。トヨタSAIのフロントとバッチを変えただけのHSの追加やモデル廃止だったハリアーの復活など、ビジネス面のみを優先したモデル戦略がレクサスの迷走ぶりを表している。
本来クラウンやマークX以上の金額をクルマに払えるユーザー層を、トヨタにとどめておくのがレクサスの重要なミッション。現状では、よりステイタスを求めるユーザーはドイツ系プレミアムブランドに流れ、トヨタでは最高級のクラウンだけでなく、レクサス並みに高額なアルファードやヴェルファイアが売れている。ユーザー囲い込みの面ではセルシオやアリストなど、ブランド価値の高いネームを活かしトヨタで売り続けていた方がよかったのでないかとさえ思える。
品質は高いが、最新技術でも劣勢
レクサスはJ.D.パワーが発表した2017年米国自動車耐久品質調査において6年連続で1位になるなど、トヨタ譲りの耐久性の高さや品質では高い評価を得ている。一方で、クルマの基本となるボディやエンジン、安全性能などではプレミアムブランドにキャッチアップできていないのが実情だ。
特に環境性能や高速燃費に優れたクリーンディーゼル、周波数帯域の異なる複数のレーダーとカメラを組み合わせ、クルマの全周をカバーする安全技術の装備化などで遅れが目立つ。
手放し運転はできないものの自動運転技術も搭載されており、得意のはずのハイテク技術で出遅れているのは大きな問題だ。カーボンやアルミなどを積極的に使用し、軽量で高剛性のボディ構造を作り上げる技術も、ドイツ系の後塵を拝している。塗装品質や組立精度などレクサスが上回る部分もあるが、内外装のデザインや見栄え、高級感の演出でも目の肥えた富裕層には物足り無く映るだろう。
常にトップクラスのクルマを作り続ける事でブランドになる
歴史と伝統がブランド力の根源であるならば、100年近い歴史をもつドイツ系に10年程度の歴史しかもたないレクサスが、舶来振興の強い国内市場で拮抗するのは困難だ。レクサスがドイツ系に勝つためには、デザイン性、走行性能、環境や安全面などでライバルを常に凌駕し続けるしかない。
そのためには、新世代ハイブリッド、燃料電池や自動運転などトヨタが誇る最先端の技術は、まずレクサスから導入するべきである。これまでのように、トヨタ車をベースに高級装備を付けるのではなく「トヨタ車はレクサスの廉価版」とするぐらいの改革を行わなければ、トヨタ系企業の重役と家族だけのブランドになってしまうはずだ。(ZUU online 編集部)
【お詫びと訂正】元の記事では「特に構造接着剤やレーザー溶接、カーボンなどを多用した新世代のボディ構造、環境性能や高速燃費に優れたクリーンディーゼル、周波数帯域の異なる複数のレーダーとカメラを組み合わせ、クルマの全周をカバーする安全技術など、ドイツ系ではミドルクラス以上で標準になっている装備や技術は採用すらされていない。」とありました。しかし、カーボンについては限定販売モデルに採用されていること、構造接着剤については使用率が低いものの採用されていること、レーザー溶接も特許の関係からドイツ車とは異なって面溶接、線溶接ではないものの、スポット溶接の延長として使われていることなどが判明しました。ここに訂正して関係者の皆様にお詫びいたします。