2011年に米国のクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」で正解を出して賞金を獲得したことでニュースになったIBMのWatson。2016年にマイクロソフトが開始した「Microsoft Cognitive Services」。いずれも大きな話題となったものである。

ここに共通して出てくるキーワードが「コグニティブ」という言葉だ。コグニティブとはいったい何なのか。それは人工知能(AI)とは違うものなのか。

コグニティブと人工知能とは違うのか

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(写真=agsandrew/Shutterstock.com )

「コグニティブ」という言葉を辞書で調べると、「認識」とか「認知」と書かれていることがわかる。IBMのWatsonに代表される「コグニティブ(コグニティブ・コンピューティング・システム)」は、従来のコンピュータのように与えられた情報を計算するだけでなく、自律的に自ら考え、学び、理解・行動するシステムである。そして、それは端的に言うと以下のような特徴を持っている。

・自然言語を認識し、理解する:日本語や英語といった人間の言語をそのまま理解することができる
・傾向やパターンの分析:利用者の持つ思考や趣味を分析で得ることができる
・学習能力と意思決定:システム自体が事例を通して学習し、最適解を提示する

ここで、はたと気づいた賢明な読者の方もいるだろう。「コグニティブは人工知能とどう違うの?」。これは実に良い質問だと言える。Watsonを開発したIBMでは、コグニティブと人工知能の違いは「人に対する立ち位置」であると考えている。IBM基礎研究所のバイスプレジデント、ダリオ・ギル氏によると両者の違いは次のようになる。

Watson(コグニティブ)……「人がより良い作業を行えるようにサポートするもの」:人が主体

人工知能(AI)……「人が行う作業をコンピュータが行うもの」:コンピュータが主体

つまりコグニティブと人工知能は同じようにコンピュータが自律的に考えて理解・行動するシステムではあるが、「コンピュータと人のどちらが主体か」という点で大きくアプローチが異なることがわかる。お分りいただけただろうか。

コグニティブは将来どこへ向かうのか

「人が行う作業をコンピュータが行うもの」という視点に立つ人工知能とは異なり、「人がより良い作業を行えるようにサポートする」という点で、あくまで人を主体としたコグニティブだが、将来はどのような方向へ向かい、どこを目指しているのだろうか。

例えばWatsonは医療分野における実証実験でも成果を出している。従来の治療でなかなか効果が上がらず、判断の難しいがん患者の治療方針を決めるにあたって、ものの10分で患者の状況を判断。従来の判断が誤りであることを突き止めて適切な治療方針を導き出した。それだけでなく、実際にWatsonの出した方針に従うことで高い治療効果を得たという事例もある。

さらにコグニティブの進歩と社会への普及が進むと、単純作業はコンピュータ任せで、人は今よりも労働に対する負荷を下げプライベートや家族との時間を大切にするなどワークライフバランスも向上できるかもしれない。これはある意味で、人類が数千年にわたり続けてきた労働から解放されるという画期的な変化をもたらすかもしれない。

このようにコグニティブは今後、私たちの生活を非常に便利にしてくれることは間違いない。もたらす未来の姿はまだまだ見えないところも多いが、想像を膨らませ期待をして待ちたいものだ。(ZUU online 編集部)