リーマンショックやバブルの崩壊等の衝撃的な事象に加え、スマートフォンの普及とともに登場する新しい決済方法や、仮想通貨の浸透などのように、じわじわと世の中の常識を変えていくような現象もみられ、金融業界はまさに「事実は小説よりも奇なり」を地でいくような、スケールの大きな実話に溢れている。

だからこそ、それらの裏に隠された人間ドラマをも合わせて描き出すような小説が、面白くないはずはない。そこでここでは、読み逃す訳にはいかない5作品を紹介しよう。

『しんがり』 清武英利著 講談社2013年

金融小説
(写真=PIXTA)

戦いに敗れた軍の最後列で、追手の攻撃を迎え撃つ者たちのことを、「しんがり」と呼んでいる。

1997年11月、四大証券の一角を占めていた山一證券が自主廃業を発表した。「カネを、株券を返せ」と叫ぶ顧客が店頭に殺到する中、会社に踏み留まって清算業務に就いた一群の社員がいた。給与も出ないままに「しんがり」を買って出た彼らの中心にいたのは、会社幹部に裏切られながらも、業務の監査をしていた人間たちだった。

一生懸命生きていれば、きっと誰かがどこかで見ていてくれる。不安定な経済状況の中で、そうした「しんがり」達の生きざまは、生きることの価値を見失いがちな現代において、その価値を存分に再認識させてくれる作品だと言えるだろう。

『マネーロンダリング』 橘玲著 幻冬舎文庫2003年