要旨
- 中国の消費者がインターネットを通じて日本から商品を購入する「越境EC」の規模は、2016年で前年比30.3%増の1兆366億円と、インバウンド消費(買物代)を大きく上回り、1兆円を突破した。越境ECによる日本からの購入額は直近3年間でおよそ3倍にまで増加しており、米国の消費者の越境EC購入額のおよそ2倍の規模に相当している。
- その背景には、経済、政策面の影響に加えて、中国人消費者の越境ECの増加の一端に、海外旅行におけるインバウンド消費によるプラスの効果も出てきている。経済産業省によると、越境ECを利用する理由に、「海外で購入した商品のリピート購入」が35.0%を占めた。
- 海外旅行の主力は一人っ子世代の20~30代であり、彼らはインターネットやスマホが生活の重要なツールとして定着しているミレニアル世代(M世代)でもある。最新の高機能家電や機器は、生活においてある程度揃ってきていることから、越境ECでの消費は、日々の生活をより快適に、より豊かにする日常使いの用品に重点が移っている。購入した商品の支払いは、第三者決済であるアリペイなどを活用することができ、利便性も高い。
- 中国の2016年のショッピングサイトなどのネット通販における小売総額は、およそ4兆7000億元(約79兆円)と推計されている。これは2016年の社会全体の消費品の小売額33兆2000億元のおよそ14%を占めることになり、ネット通販が生活に根付きつつあることがわかる。
- 一方、2016年の越境EC(小売輸入)は、およそ2,200億元(約4兆円)と推計されており、EC小売輸入額全体のおよそ2割を占めるとされている(図表6)。越境EC(小売輸入)は、2018年に5,000億元を超えるとの予測もあり、インバウンド消費と両輪で、更なる成長が期待されている。
中国向け越境ECは直近3年で3倍、1兆円規模に拡大
ゴールデン・ウィークも明け、昨今の「爆買いの一服」もあって、中国人旅行客のインバウンド消費の動向が気になるところである。観光庁によると、2016年は、中国からの旅行客による旅行消費額のうち、買物代は7,832億円と前年より3.2%減少した。
一方、中国の消費者がインターネットを通じて日本から商品を購入する「越境EC(1)」の規模は、2016年で前年比30.3%増の1兆366億円と、インバウンド消費(買物代)を大きく上回り、1兆円を突破した。越境ECによる日本からの購入額は直近3年間でおよそ3倍にまで増加しており、米国の消費者の越境EC購入額のおよそ2倍の規模に相当している(図表1)。
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(1)越境EC:インターネット通販サイトを通じた国際的な電子商取引を指す。消費者は自国にいながら気軽にスマートフォンなどで海外の商品を購入できる。企業側もコストや経営リスクを抑えて海外進出に踏み出せるメリットがある(出典:日本経済新聞)。
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インバンド消費からのリピート買い、M世代の需要増加などの波及効果
その背景には、これまでの人民元安の進行、税制上の優遇措置、それによる越境ECサイトの増設、高額商品の通関での追徴課税など経済、政策面での影響があろう。海外旅行に出かけて、旅先で買う高額商品の割安感は低下し、通関での手続きを考えると消費者側の利点は低くなったといえよう。
加えて、中国人消費者の越境ECの増加の一端に、海外旅行におけるインバウンド消費からの波及効果も出てきている。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、越境ECを利用する理由に、従来の品質の保証、価格、中国国内で入手できないというプレミアム感などに加えて、「海外で購入した商品のリピート購入」が35.0%を占めた。海外で体験した商品の品質、機能性、値ごろ感など自身の「実体験」による波及効果も考えられる(図表2)。
海外旅行の主力は一人っ子世代の20~30代であり、彼らはインターネットやスマホが生活の重要なツールとして定着しているミレニアル世代(M世代)でもある。最新の高機能家電や機器は、生活においてある程度揃ってきていることから、越境ECでの消費は、日々の生活をより快適に、より豊かにする日常使いの用品に重点が移っている。訪日旅行客本人のみならず、旅行先からのSNSを通じた情報や、お土産としてもらった際の使用実感、口コミを通じて、情報は瞬時に幅広く広がるであろう。上掲の調査によると、中国人消費者の越境EC利用における売筋商品は、中国人旅行客が日本で購入した商品との親和性が比較的高い(図表3-1、3-2)。
越境ECの売筋商品には、消費の主力となるM世代の特徴も垣間見られる。例えば、個性の表現を重視するかれらは、そのツールとして自身のファッションを大切にし、アパレルやアクセサリーなどへの需要が高い。また、結婚、出産などライフイベントの時期にあたる点からベビー用品、子供向け商品の需要も高い(日本からは粉ミルク、紙おむつなどのベビー用品の需要が特に高い)。更に、社会の高齢化が進み、医療費の自己負担が高い点から健康関連商品などヘルスケア分野の商品への関心も高いのであろう(図表3-2)。
支払いの7割は「アリペイ」など、第三者決済サービスを活用
越境ECが急成長している背景には、2014年以降、越境EC関連の政策整備に伴い、専門のショッピングサイトが急増している点も挙げられる。例えば、2014年には、中国最大手のECのプラットフォームを提供するアリババ・グループ傘下の「天猫国際(Tmallグローバル)」、海外の化粧品などコスメブランドに強みを持つ「衆美 極速免税店(JUMEIグローバル・ストア)」、フラッシュセールサイトとして急成長した唯品会傘下の「唯品国際」、2015年には中国大手ポータルサイト網易(ネットイース)による「網易考拉海購(ネットイース・コアラ)」などがある。
中国のリサーチ会社ii Media Reserchによると、2016年の越境EC(小売輸入)において、各サイトの販売額ベースの上位3サイトは、首位が「ネットイース・コアラ」(21.6%)、次いで「Tmallグローバル」(18.5%)、「唯品国際」(16.3%)となった(図表4)。いずれも新規参入のサイトが多く、その競争は引き続き激しくなるであろう。
また、購入した際の支払として、電子決済が社会に浸透しており、決済における利便性が高い点も成長を側面的に支えているであろう。越境ECの決済で最も利用されているのは、アリババ・グループなどが本来は自社の通販における商品、サービスの購入のために開発した「支付宝(アリペイ)」(71.8%)で、第三者決済サービスである(図表5)。オンライン取引での商品の破損や詐欺を回避するために、売り手と買い手の間に第三者を介し、商品と金銭のやり取りの安全性を確保する決済方法であり、越境ECにおいてもその役割を大いに発揮している。
中国の2016年のショッピングサイトなどのネット通販における小売総額は、およそ4兆7000億元(約79兆円)と推計されている。これは2016年の社会全体の消費品の小売額33兆2000億元のおよそ14%を占めることになり、ネット通販が生活に根付きつつあることがわかる。そのうち、ショッピングサイトなどを通じた企業―消費者間の取引(BtoC)は、およそ全体の55%を占める2兆6000億元(約44兆円)と市場規模も大きい。
2016年の越境EC(小売輸入)は、およそ2,200億元(約4兆円)と推計されており、EC小売輸入額全体のおよそ2割を占めるとされている(図表6)。越境EC(小売輸入)は、2018年に5,000億元を超えるとの予測もあり、インバウンド消費と両輪で、更なる成長が期待されている。
片山ゆき(かたやま ゆき)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部
研究員
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