タックス・ヘイブン=リッチな国というイメージが強いが、実際には多額の負債をかかえている、あるいは貧富の差が激しいヘイブンもある など、決してメリットだけではないようだ。

世界各地に拡散された総額21兆ドル(約2374兆8900億円)といわれる隠し資産が生みだす利益は、結局のところ富裕層や企業に還元されており、タックス・ヘイブンの本質的な経済発展に貢献していないとの指摘もある。

小規模な国・地域の海外資金誘致策、タックス・ヘイブン

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(写真=Thinkstock/Getty Images)

海外企業・富裕層誘致策として、税制上に優遇措置を戦略とするタックス・ヘイブン(租税回避地)。海外からの資金を自国に呼びこむ手段として、小規模な国・地域が中心となり実施している。

代表的なタックス・ヘイブンは、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリアといった欧州国から、アジアはフィリピン、マレーシアなど。さらには英領バミューダ諸島、ケイマン諸島、ヴァージン諸島、マン島、バハマ、ドミニカ、バーレーン、モナコ、パナマといった世界各地で、国際的な税基準の実施が不十分である点が指摘されている。

法人税の低さからシンガポールもタックス・ヘイブンと見なされているが、政府はそうしたレッテルづけを拒絶しているようだ。

近年社会問題として議論されることの多い貧富格差を、タックス・ヘイブンの存在が増長させているとの指摘も多いが、巨額の資産を保有しているはずのタックス・ヘイブンの裏側では、外側からは想像もつかない苦悩が繰り広げられているようだ。

実はタックス・ヘイブンには資金は流入していない?

タックス・ヘイブンの代表格、英領土ジャージー島の例を見てみよう。ジャージー経済の40%は金融に依存しており(ジャージー政府2015年データ )、そのほかの経済基盤は観光が4%、名産物のジャージー・ポテトが1%と、不自然なほど偏りが目立つ。

GDP (国内総生産)成長率およびGVA(粗付加価値)は、ともに2%。非金融セクターの生産性は3ポイント上昇したが、2007年と比較すると5ポイント後退している。

経済を支える金融セクターの生産性は4ポイント、GVAに基づいて算出した一人当たり全時間就労者の生産性は、0.2ポイント減。急成長中のインドのGVAが7.9%であったことなどを考えると(インド準備銀行2015年データ)、その差は歴然だ。

生産力が持続的な経済成長の基盤となることは、近年の世界各国の状況から十分推測できる。そもそも租税回避目的で流入したとされる資産は、回避地で流通するものではない。資産はあくまで海外に在住する個人、あるいは企業が所有しており、実際はロンドンの銀行口座や株式などに投じられているパターンが多い。

「Tax Justtice Net」はこうした実質のない隠し資産が、世界中に21兆ドル(約2374兆8900億円)眠っていると見積もっている。しかし「租税回避地」という名目を貸し出すだけでは、十分な国の利益にはつながらない。流入しているはずの資産が数字上だけのもので、国内に循環していないのであれば、財政が圧迫されるのも当然の結果だ。

債務を膨張させる非民主主義制度

また租税回避地の運営が、想像以上に高コストである点も指摘されている。ヘイブンというイメージを維持するため、政府は支出を惜しまない。その結果、政府債務残高がますます膨張していく。

アジアのタックス・ヘイブンとして知られるシンガポールの、2016年の対GDP債務は112%(Trading Ecomomicsデータ )。バミューダの政府債務残高も、年率10%を上回る勢いで上昇している。また2008年の金融危機直後に英国から経済的救済措置を受けたケイマン諸島、そしてジャージー島は、その余韻をいまなお引きずっている。

もうひとつ興味深い観点は、「タックス・ヘイブンには民主主義が存在しない」というものだ。英政治経済学者、リチャード・マーフィー氏 は、シンガポールが1959年以来、同じ政権によって統治されている事実を引き合いにだしている。またジャージーでは総選挙制度すら確立しておらず、ガンジーでは政党が存在しない。

民主主義が完璧な理想の制度というわけではないが、非民主主義制度では社会格差が拡大し、極端な生活水準に傾くリスクも高い。

実際、ケイマン諸島の貧困層の子どもなどは、チャリティー組織が無料給食を支給している状態だ。チャリティー組織がカバーしきれない学区では、給食を食べれない子どももいるという。

また富裕層から徴収できる税金が少ないため、必然的に住宅費が押し上げられる。ジャージーの3LDKの家の値段は52万7000ポンド(約7693万円)。マン島の不動産価格 は、英北西部の約2倍に跳ね上がるなど、一般庶民には手の届かない範囲に達している。

タックス・ヘイブンの役割については、賛否両論わかれるところだ。無税あるいは低税で海外企業を誘致している国・地域の多くが、自国を潤わすだけの産業を確立していない。つまりこれらの国・地域にとっては、タックス・ヘイブン自体が死活を賭けた自国産業ということになる。

パナマの法律事務所、モサック・フォンセカが作成した機密文書、「パナマ文書」や、OECDによる「ブラックリスト」 など、外部からの圧力が徐々に強まっている近年、タックス・ヘイブンを取りまく環境は徐々に変化しつつあるのかも知らない。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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