一家の資産管理は、
一般人は、口座に資産を入れっぱなし
小金持ちは、自分の会社で家族を雇う
大富豪は、資産管理会社を立ち上げる

(本記事は、冨田和成氏の著書『大富豪が実践しているお金の哲学』(クロスメディア・パブリッシング 2016/5/2)の中から一部を抜粋・編集しています)

お金持ちの税金対策

大富豪のお金の哲学,冨田和成
(写真=PIXTA)

大富豪にまつわるニュースで「資産管理会社」という言葉を聞いたことがあると思います。

普通の人には実態が分からないので、なにやらグレーなイメージがつきまといますが、決して怪しいものではありません。資産運用の額が大きくなると銀行から「資産管理会社を立ち上げませんか?」と打診がきます。

それくらい普通のことで、自分の資産管理会社を持っていることは大富豪の証です。資産管理会社の目的はずばり、税金対策です。名目上は「不動産投資や株式投資などの管理を行う会社」となっていますが、個人として資産を保有するより法人が所有する形にしてしまったほうが税制上のメリットが大きいため、わざわざ資産管理会社を立ち上げるのです。

そのメリットをいくつか紹介したいと思います。ちなみに資産管理会社には「管理・運営」のみを行う形態と、資産を丸ごと「保有」する形態がありますが、前者は税金対策のメリットが少ないので、後者を前提に話をすすめます。

・法人税への切り替えによる税金対策
個人で不動産投資をしていると個人所得税がかかります。最高税率は住民税と合わせ55%。しかし、それを法人の保有に変えれば収入にかかる税金は法人税に変わります。現在、実効税率で約41%です。また、ご存知の通り、政府は企業の国際競争力をあげるためにここ数年、法人税を下げる方向で推移しています。上昇傾向の所得税・相続税と、下降傾向の法人税。その差を利用しない手はありません。

また、法人にすれば個人のときでは適応されなかったさまざまな経費を計上できるようになり、さらに税金を抑えることができます(もちろん法人の運営のための経費であれば)。役員報酬や退職金はもとより、自宅の家賃の一部を社宅補助という形で経費にする方もいますし、会社で契約する保険料の一部なども経費にすることが可能です。

・役員報酬による生前贈与
資産管理会社の大きなメリットは、所得を家族で分散できることです。両親、奥さん、子供などを「役員」にして報酬を払えば、個人ひとりで稼ぐより所得税の面で有利です。

家族を役員ではなく従業員として雇って所得分散をしている中小企業経営者が大勢いますが、勤務実態と報酬額が不釣り合いだと税務署から指摘を受ける可能性があるので注意が必要です。

「実務能力がない人間を役員にするのはどうなのか」という声も聞こえてきそうですが、もし資産管理会社が乗っ取られたら家族の資産ごと取られます。それを防ぐために役員に血族を据える判断は至極真っ当でしょう。

それに家族に役員報酬の形で収入を分配しておくことで、生前贈与の効果もあります。報酬はキャッシュですので、相続税を払うときに残された家族が資産の現金化に奔走する心配もなくなります。

・法人ごと継承することによる相続対策
個人で保有する不動産を相続する場合は、その不動産の価値によって相続税が決まります。一方で法人ごと相続する場合、その会社の株式価値を元に相続税を算出します。そして、その評価基準は「類似業種比準方式」と「純資産価格方式」の2種類があります(厳密には3つで、「配当還元方式」も存在しますが、あまり使われることはないため省略します)。

かなりの専門知識を要するので詳しくは解説しませんが、あえて簡単に言えば、前者は企業の純利益を中心に決める方式で、後者はその会社が保有する純資産をもとに算出する方式です。不動産しか持っていないような法人の場合は後者が適応されてしまい、税金を考えるとむしろ不利になりますが、税理士のアドバイスをもとに資産の割合を調整すれば前者が適応され、さまざまな手段で資産を圧縮して、実際の不動産価値よりも安い評価額で法人ごと資産を継承することもできるのです。

これらの手法は非常に複雑なので、専門家の助言なしではできません。必ず税理士資格を持ったプロの判断を仰ぐようにしてください。

『冨田和成氏の著書『大富豪が実践しているお金の哲学』(クロスメディア・パブリッシング 2016/5/2)』画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
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お金持ちの誰しもが海外移住を考える理由

相続税を払いたくないから、
一般人は、資産を使い切る
小金持ちは、頑張って圧縮する
大富豪は、シンガポールに移住する

ここでは究極形を紹介しましょう。それは家族ごと海外に移住して相続税を回避することです。海外には相続税がかからない国がいくつも存在します。アジアならシンガポール、香港、タイ、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドなど。

日本の法律では被相続者と相続者ともに海外に5年以上住んだ時点で、海外資産は相続税の対象ではなくなります。そのため国内で保有する資産を整理して海外に移し、さらに人間も移動すれば合法的に資産を守ることができます。さらに、これらの国の大半はタックスヘイブン(租税回避地)であり、株を売却した際に得られる売却益に対して税金がかかりません。

たとえば、ソフトバンクの孫正義会長の資産は1兆円を超えると報道されていますが、単純計算するとその55%を国に納めたとしたら5500億円です。日本の年間ODA予算(5400億円。平成27年度)に匹敵します。そのため価値の高い株を大量に保有するオーナー社長であれば、誰しも一度は海外移住について考えるものです。

日本の大企業のトップで例をあげれば、バルスの高島社長は香港、HOYAの鈴木CEOはシンガポール、ベネッセの福武会長はニュージーランド、サンスターの金田元会長はスイスに移住されました(本社もスイスに移転)。

ヨーロッパの富裕層に人気の移住先は、以前はモナコでしたが、他のヨーロッパ諸国からの突き上げが厳しくなってきたため現在はスイスが人気です。

高級ブランドの創業者一族や欧米の芸能人、トップアスリートなど、そうそうたる顔ぶれが集まるスイスの2015年度富裕層ランキングで堂々の1位に君臨するのも、イケア創業者でスウェーデン人のイングヴァル・カンプラート氏の一族です。本人は2014年に祖国へ帰国したものの、スイスに残るカンプラート家の資産は440~50億スイスフラン(約5兆円)と推測されています(Bilan「Les 300 Plus Riches de Suisse」より)。

世間で「資産フライト」などと言われているこの手法、日本政府は資産流出を防ぐために2015年7月から「出国税」の課税を始めました。この出国税やマイナンバー制度の導入によって、海外移住による税金対策効果は減ることが予想されますが、資産防衛の最大効果を狙うなら、海外移住は今後も有効な手立てであることは論を待ちません。

冨田和成(とみた・かずまさ)
神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。

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