お金の教養を身につけるのにうってつけのマンガ『インベスターZ』のエピソードを引用しながら、投資の基本と本質、そのおもしろさについて解説していきます。『インベスターZ』は、とある進学校にある秘密のクラブ「投資部」を舞台にした投資マンガです。

投資部キャプテンの圭介は、直近の株価の動きと過去のデータを照らし合わせ、まもなく株価が「ドカン」と下がることを予測します。証券取引がはじまって以来140年もの間、コツコツ上がってはドカンと下がるを繰り返してきたという日本の株価。今回も歴史が繰り返されると踏んだ圭介は、部員全員に「売れ!」の大号令を出すのでした。

(本記事は、三田紀房氏、ファイナンシャルアカデミー・渋谷豊氏の著書『せめて25歳で知りたかった投資の授業(星海社新書)』の中から一部を抜粋・編集しています)

大暴落「暗黒の木曜日」を予想した天才投資家のテクニック
――「ウォール街のグレート・ベア」ジェシー・リバモア

インベスターZ
(画像=『インベスターZ』5巻 credit.41「いつか天動説は消える」より)

巨大で複雑な株式市場の未来を100%予測することはできませんが、実は、歴史上名高い金融大パニックを予測した投資家がいます。ジェシー・リバモア、アメリカの投資家です。

彼は1929年の「暗黒の木曜日」(ウォール街大暴落。ブラック・サーズデーとも呼ばれる)を予測し、巨額の利益を得ました。

まず、暗黒の木曜日の中身から解説していきましょう。この大事件が起きた当時のアメリカは、第一次大戦と第二次大戦の間。「永遠の繁栄」と呼ばれた時代で経済は絶好調を迎えていました。「狂騒の20年代」とも呼ばれた時代です。

映画『華麗なるギャツビー』(監督 バズ・ラーマン、2013年)はこの時代を描いた作品ですが、富裕層は豪勢なパーティに夢中。投資家は多額の借金をしてでも株にお金を回し、銀行も融資(企業にお金を貸す)を差し置いて、株に多くの資金を投下していました。株式市場の株価は、1924年から5年間ずっと上がり続けていましたので、「まだ上がるぞ」「この流れはずっと続く」と誰もが確信してやみませんでした。

しかし、そんな狂騒は暗黒の木曜日をきっかけにドン底に突き落とされます。木曜日に株価暴落が起きると、金曜、月曜、火曜と、破滅的な暴落劇が続きます。以降3年にわたって株価の下落は続き、ダウ工業平均と言われるアメリカの株式指標は89%も下落しました。(ちなみに100万円投資していると、11万円まで目減りする下落幅です)

多くの投資家が財産を失うなかで、ジェシー・リバモアは「空売り」と呼ばれるテクニックを駆使し、自らのお金を増やしていきます。空売りとはリスクが高く上級者向けのテクニックなので、ここでは説明は省きますが、株価が下がる局面で利益をあげられる手法です。暗黒の木曜日による下落幅は極めて大きく、空売りの効果も絶大でした。

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「人間の本性は変わらない」歴史を学ぶべき理由

なぜジェシー・リバモアは、「狂騒の20年代」の終わりを予見できたのか。そのヒントはこんな言葉のなかにあります。「ウォール街に、あるいは株式投資・投機に新しいものは何もない。ここで過去に起こったことは、これからも幾度となく繰り返されるだろう。この繰り返しも、人間の本性が変わらないからだ」

人間の本質が変わらない以上、歴史は必ず繰り返すと看破(かんぱ)し、準備をしていたジェシー・リバモア。繁栄を謳歌していた国家がドン底へと落ちる……これは、歴史上幾度となく繰り返されてきた出来事です。紀元前の地中海で最強だった古代ローマ帝国は、市民が「パンとサーカス」に夢中になったことで没落。その後、西と東のローマ帝国へと分裂しました。日本でも、空前(くうぜん)の権勢(けんせい)を謳歌(おうか)した平氏が権力を手にしたとたんに堕落。叩きのめしたはずの源氏に滅ぼされます。

人類が何度も経験してきたこの「盛者必衰(じょうしゃひっすい)」の理(ことわり)すら当時のアメリカ人の多くが忘れてしまっていたのです。

大きな危機が起きる際には、あとから冷静になって振り返ってみると、前兆のようなものが必ずあります。2008年9月のリーマンショックを例にとるなら、最初の前兆は1年前のヨーロッパで起きています。2007年8月、フランス最大手銀行BNPパリバ傘下のミューチュアル・ファンドが、投資家の解約申し込みを受けつけないという事態が起きました。その半年後、2008年3月、アメリカの五大証券会社の一つベア・スターンズが倒産。

それまでなら起こり得ないような事態が連続した最後に、リーマンショックがやってきました。突然来たように見える金融危機も、実は3つの段階を踏んでいたのです。人類・日本・各業界の歴史を学び、自分なりに未来を仮説立てできるようになれば、投資家としても成功をおさめることができるでしょう。

三田 紀房
漫画家。岩手県生まれ。大手百貨店勤務などを経て、30歳で漫画家デビュー。高校野球を監督の視点から描いた『クロカン』や、『甲子園へ行こう!』で人気作家に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)。

ファイナンシャルアカデミー 渋谷豊
ファイナンシャルアカデミー執行役員。熊本県生まれ。大学卒業後、邦銀を経て慶應義塾大学大学院にて経営学を学ぶ。その後に外資系銀行に舞台を移し富裕層向けの資産運用を担当。海外勤務中にリーマンショックを経験し、激動期を乗り切る。為替・金融に精通し、現在はファイナンシャルアカデミーの教壇に立ち、金融リテラシーの向上に努めている。

【『25歳で知りたかった投資の授業』シリーズ】
(1)『インベスターZ』に学ぶ投資の本質 リスクの正体とは?
(2)『インベスターZ』に学ぶ投資の本質 「歴史は、何度でもくりかえす」
(3)『インベスターZ』に学ぶ投資の本質 「高級腕時計とIPO株の共通点」