お金の教養を身につけるのにうってつけのマンガ『インベスターZ』のエピソードを引用しながら、投資の基本と本質、そのおもしろさについて解説していきます。『インベスターZ』は、とある進学校にある秘密のクラブ「投資部」を舞台にした投資マンガです。
投資の先輩として上から目線で主人公の孝史にアドバイスするヒロイン美雪。何かやり返せないかと思案した孝史は、美雪が着けている高級時計に目をとめ、「投資家としては三流だ」と言い捨てます……。
(本記事は、三田紀房氏、ファイナンシャルアカデミー・渋谷豊氏の著書『せめて25歳で知りたかった投資の授業(星海社新書)』の中から一部を抜粋・編集しています)
高級時計には「広告費」が上乗せされている
企業の株価を説明するときに、高級腕時計はいい材料になります。男性でも女性でも、ファッション誌に100万円、あるいはそれ以上の値段の時計が載っているのを見たことがあるのではないでしょうか。たとえばロレックス、オメガといったブランドもそうですし、カルティエ、シャネルなどもそうです(このお話には「マニュファクチュール=自社一貫生産」で生産される最高峰の高級時計はふくみません)。
さて、高級腕時計は機械式というゼンマイを軸にした内部機構で動いているので、作りが複雑です。職人による専門的な工程を幾つも経て製品になるため、相当なコストがかかっています。とはいえ、それだけで数百万円の値段にはなりません。ファッション誌への広告費、スポーツ大会への協賛費用もかかっています。また、著名な俳優やスポーツ選手と年間契約してモデルに起用していますから、その費用もふくまれています。
そう考えると、腕時計の「適正価格」はいくらになるでしょうか。「モノ」自体の値段で言えば、もっと低いかもしれません。孝史はそこを指摘し、「その時計が高いのはほとんど広告費だ」と言い放ったのです。時計以外でも、この手の話はゴロゴロしています。たとえば、ポストに投函される新築マンションの広告。5000万円、1億円――ここにも、広告費やモデルハウスの値段がふくまれています。高級車もそうですし、高級ホテルもしかりです。
投資家たるもの「適正価格」を意識せよ
世間で「ブランドビジネス」と呼ばれるものの多くは、こういった値付け構造を持っていますが、本当の値打ちはいかほどか? このことを真剣に考える人は多くありません。
むろん、わたしはブランドビジネスが間違っていると言いたいのではありません。モノと情報が行きわたった現代で「売れる」ためには、利便性やスペックだけでは足りません。信頼や格式、あるいは商品のバックにあるストーリーが決め手になることは多い。
しかし、投資家たるもの、その付加価値をふくめて適正かを常に気にとめる必要があります。たとえば、IT企業が新規で株式を公開する(IPO株)ときは、実際の実力以上の値段になる場合が多くあります。これは、企業の未来への期待を反映した数値で、これだって付加価値です。みんなが拍手を送っているときこそ、冷静に見つめて欲しいと思います。
三田 紀房
漫画家。岩手県生まれ。大手百貨店勤務などを経て、30歳で漫画家デビュー。高校野球を監督の視点から描いた『クロカン』や、『甲子園へ行こう!』で人気作家に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)。
渋谷豊
ファイナンシャルアカデミー
ファイナンシャルアカデミー執行役員。熊本県生まれ。大学卒業後、邦銀を経て慶應義塾大学大学院にて経営学を学ぶ。その後に外資系銀行に舞台を移し富裕層向けの資産運用を担当。海外勤務中にリーマンショックを経験し、激動期を乗り切る。為替・金融に精通し、現在はファイナンシャルアカデミーの教壇に立ち、金融リテラシーの向上に努めている。
【『25歳で知りたかった投資の授業』シリーズ】
(1)『インベスターZ』に学ぶ投資の本質 リスクの正体とは?
(2)『インベスターZ』に学ぶ投資の本質 「歴史は、何度でもくりかえす」
(3)『インベスターZ』に学ぶ投資の本質 「高級腕時計とIPO株の共通点」