老後が不安という人がほとんどであろう。テレビや雑誌などでよく「ゆとりある老後には1億円必要」というショッキングな見出しもしばしば見かけることもあり、なお一層不安になってしまっている人が多いのではないだろうか。老後に1億円がかかるのが事実だとしても、実はその数字は大事な部分を考慮していない。では、1億円の根拠は何なのか? 実際はどれくらいあればいいのかを具体的に考えてみよう。

1億円必要の根拠とは

老後資金,貯める,資産形成
(写真=PIXTA)

生命保険文化センターがおこなった「生活保障に関する調査」(平成28年度)によると、ゆとりある老後の必要資金は34.9万円であった。仮に90歳まで老後の生活があると仮定し、その前提で計算するとこのようになる。

35万円(一ヶ月の生活費)×12ヶ月=420万円(1年間に必要なゆとりある老後生活資金)420万円×26年間(65歳から90歳まで)=1億920万円(老後必要なゆとりある生活資金)

単純に生命保険文化センターの調査をもとに計算をすれば、老後必要なゆとりある生活費は約1億円という計算になるのだ。しかしこの数字には、老後に受け取ることのできる「年金」が考慮されていない。また、「ゆとりある」老後資金として計算しているので、衣食住に不自由ない老後を過ごすのであればそこまで必要ないともいえるのである。

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最低必要な老後資金は1600万円で問題ない

ゆとりある老後を送るために必要な総額は1億円であったが、衣食住に不自由ない生活をおくるとしたらどれくらい必要なのであろうか?

生命保険文化センターの調査によると「最低必要な老後資金」としての結果は、22.0万円であった。

この場合、
22万円×12ヶ月=264万円
264万円×26年間=6864万円となるので、最低必要な老後生活資金はゆとりある老後生活と比べると約4000万円も少なくなる。どのような生活をしたいかで老後に必要な資金はかなり異なるということなのだ。

こちらもゆとりある老後資金の1億円と同様、老後に受け取ることのできる年金は考慮されていない。そこで老後に受け取る年金を考慮して計算してみよう。厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2015年)によると、平均総所得は年間297.3万円となっている。しかし、このうち年金収入は67.6%の200.6万円のみだった。

最低必要な老後年間生活費は264万円なので、年間年金収入の200万円を差し引くと年間64万円不足することになる。65歳から90歳までの26年間の不足総額を計算すると64万円×26年間=1664万円。

こうみると意外と少ないのではなかろうか?

この不足金額を35歳から65歳までの31年間で準備するとすれば、毎月必要な積み立て額は、1664万円÷(31年×12ヶ月)=4万4731円となるが、無理のない金額ではないだろうか?
マイナス金利の影響により、現在は金利が低いので確定拠出年金や、投信積み立てなども活用しながら積み立てればもう少し少ない金額で済む。

ちなみに、平均総所得297.3万円のうち年金以外の収入としては働いて得た収入である「稼働所得」が20.3%で60.2万円、不労所得である「仕送り・企業年金・個人年金・その他の所得」が5.6%で15.3万円となっており、年金以外の収入も必要であることがわかる。

また、この調査では高齢者世帯では、「公的年金・恩給」が平均で総所得の70%近くを占めている。その中で、生活意識が「大変苦しい」または「やや苦しい」「苦しい」と回答した高齢者世帯は合計で60.3%、「普通」が36.2%、「ややゆとりがある」または「大変ゆとりがある」の合計が2.8%となっていた。旅行や趣味を楽しみたいと思うなら、より早めに老後のための積み立てなど準備を始めたほうがよいであろう。

65歳以降も「働く」選択肢を視野に入れる

厚生労働省の「厚生労働白書」(平成26年版)によると健康寿命は男性70.6歳、女性73.5歳であった。健康寿命が伸びている今、70歳まで働くのは身体的に苦ではなくなっている。老後は仕事をせずに暮らすとなると現役時代の老後の必要準備資金も多くなるが「働きながら老後を過ごす」という選択もあるであろう。ただし、老後はゆっくりしたいと考えるのが人間ではあるので、週3〜4で働くという視点もありではないか。

仮に60歳で定年を迎え70歳まで、知識と経験を生かし週3で働いた場合、手取りで月10万円をもらえたとする。その場合1ヶ月10万円×12ヶ月×10年間でトータル1200万円の収入になる。月額そう多くはない収入と思われるかもしれないが10年で考えるとこの収入の有無は大きな差だ。

しかし、老後資金を全く準備できていないのは問題で、生活のために働かないといけなくなる。1500万円は60歳までに準備し、60歳から70歳の期間に働いて得られるお金は、生活費の補てんとゆとりある老後費用に回すのはいかがだろうか。

老後を憂いていても何も変わらない。老後も働くことで、健康を維持でき社会的なつながりができるメリットもある。働き続けるという選択があることも視野に入れ計画的に準備をしたいものだ。

稲村優貴子
ファイナンシャルプランナー(CFP®)、心理カウンセラー
大手損害保険会社に事務職で入社後、お客様に直接会って人生にかかわるお金のサポートをする仕事がしたいとの想いから2002年にFP資格を取得し、独立。現在FP For You代表として相談・講演・執筆業務を行い、テレビ・新聞・雑誌などのメディアでも活躍中。 FP Cafe 登録パートナー。

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