新しい運用商品が登場することによって、最適な運用内容が変化する可能性もある。先ず、最も分かり易いのは、確定拠出年金の運用商品ラインナップの中に、新しい、より魅力的な商品が追加された場合だ。

(本記事は、山崎元氏著『確定拠出年金の教科書』日本実業出版社(2016/6/9)の中から一部を抜粋・編集しています)

より魅力的な商品が追加されたときは

(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)
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例えば「国内株式」或いは「外国株式(先進国株式)」のインデックス・ファンドで、これまでよりも手数料の安い商品が追加されたとする。

確定拠出年金のスイッチングは、基本的には手数料が掛からない。これまで、リスク内容が概ね同じでより手数料の高い商品に投資していた場合は、新しい低手数料商品にスイッチすることが適切な行動になる。

もう一つの潜在的な可能性としては、確定拠出年金の「外」での魅力的な商品の登場が、確定拠出年金の「中」での選択にも影響を与える可能性がある。

例えば、現在、「国内株式」ではTOPIX連動型のETFの運用管理手数料が10ベイシスポイント前後であり、確定拠出年金の中にラインナップされている「国内株式」、「外国株式(先進国株式)」のインデックス・ファンドの手数料が20ベイシス前後であることが多い。この場合、「国内株式」をTOPIX連動型ETFの形で、NISA口座など確定拠出年金の外の口座で保有し、「外国株式(先進国株式)」は、そのバランス上、確定拠出年金の中で保有することが全体として「最適」になる場合が多い。

「確定拠出年金の運用選択肢は、先ず、外国株式(先進国株式)のインデックス・ファンドから考えよう」とご紹介した行動原則の背景にあるのは、以上のような事情だ。

ここで仮に、確定拠出年金の外で、「外国株式(先進国株式)」がTOPIX連動のETFよりも安い手数料で提供されるようになれば、「外国株式(先進国株式)」を確定拠出年金の外の口座で持ち、「国内株式」を確定拠出年金の中で持つような入れ替えを行うことが最適になる場合があり得る。

こうした手数料の高低で運用商品の選択を変える考え方に対して、「細かいなあ。そこまでやらなくてもいいのではないか」と思われる読者もおられるだろう。筆者も、その考え方に、強くは反対しない。

現在のインデックス・ファンドの手数料水準であれば、「おおよそ最割安」な商品をはじめに選んで投資しておくなら、「最新の商品」が登場しても、そう大きな差はない。気が付いた時に、且つ気の向いた時に、入れ替えを行うことで十分だ。

大事なのは、手数料の高いアクティブ・ファンド(本書の第4章では「地雷」と表現した)を選んだり、税制上のメリットが十分活かせないバランス・ファンドを選んだりするような、「大きな間違い」をしないことだ。

小さな手数料差なら大勢に影響はない。はじめに安い手数料の商品を選んでいるはずの本書の読者は大らかに構えていてよいはずだ。但し、企業型の確定拠出年金を利用している読者の場合、企業及び運営管理機関によっては、相当に「残念な」商品ラインナップになっている場合がある。

確定拠出年金の内外の運用商品の変化に気を付けておくことで、明らかな改善のチャンスを見つけることが出来る場合があるはずなので関心を持っておこう。

シンプルな方法で「プロ並み」の成果を

既存のカテゴリーの商品以外に、資産運用における新商品についてどう考えるかを、整理しておこう。手数料が十分割安で、リスクの内容が「投機」でなく「投資」に該当するものであれば(例えば、対象が金や商品相場でなく、株式・不動産や債券)、分散投資の拡大と利回りの追求の観点から、追加を検討していい場合がある。

今後、検討対象に上る可能性がある商品カテゴリーとして考えられるのは、例えば、「外国株式(新興国株式)」、「REIT(不動産投資信託)」、「外国債券(新興国債券)」などの、低廉な手数料のインデックス・ファンドが登場した場合だ。手数料が安い事は絶対に必要な条件だ。真によい商品が新たに登場した場合、例えば、リスク資産への投資の中で、「国内株式」或いは「外国株式」を5%ないし10%程度減らして、こうした商品に投資を拡大する余地はある。

但し、現在、新興国の株式と先進国の株式は非常に連動性が高く、分散投資の効果を得にくいし、加えて、国内株式も外国株式と連動性が高い。また、現在、新興国株式や新興国債券、REITなどに投資する商品の手数料は、国内株式や外国株式(先進国株式)に投資する商品よりも高いものが多い。

従って、本書では、あれこれと運用選択肢のメニューを増やさずに、「国内株式」と「外国株式(先進国株式)」への投資に割り切ることにした。シンプルな方法だが、プロでもこれを確実に上回ることは簡単でない。

将来、新しいカテゴリーの商品を運用対象に加えることは、読者自身が投資対象についてよく分かって行うのであれば問題ないが、それ以前に、ともかくは「ダメな商品」を避けることが肝心なのだと申し上げておく。わが国には、耐久消費財を買う場合などに、「最新型」や「新製品」を無条件に良いものだと思ってしまう消費者が少なくない。

確かに、家電製品などの場合、技術の進歩が反映した新型が次々と出て来る。しかし、運用商品の場合、運用の内容そのものが改善するようなイノベーションは滅多に起こらない。

新商品の「99%」は投資家が無視して良い

筆者の経験から言って、運用商品の新製品の99%は投資家が無視していてもいい商品であると同時に、むしろ積極的に無視した方がいい商品だ。また、本書では詳しく書いていないが、金融機関の職員の勧めを聞くとろくなことはない。

彼らに「相談」することは、たとえ無料相談であっても止めた方がいい。彼らは、顧客から手数料を稼ぐことが仕事なのだし、市場を予測する能力など全社を挙げても持ってはいない。運用は自分で決められるだけの事を決めて、あとは運を天に任せる、というくらいの気分で行うのがいい。他人を頼ってはいけない。

「運を用いる」と書いて「運用」というくらいのものなのだ。筆者自身が金融ビジネスに関わりながら、こう言うのは少し残念なのだが、「運用商品の新製品など、いちいち気にする必要はない」そして「金融マンに運用の相談をしてはいけない」。

山崎元
経済評論家。専門は資産運用。楽天証券経済研究所客員研究員。マイベンチマーク代表取締役。1958年、北海道生まれ。1981年、東京大学経済学部卒業、三菱商事入社。野村投信、住友信託、メリルリンチ証券など12回の転職を経て現職。雑誌連載、テレビ出演多数。