米国ではここ数か月、仮想通貨による資金調達(Initial Coin Offering、ICO)についての大量のニュースや投資家向け記事がメディアや投資サイトに出ない日はない。相次ぐICOの成功例や、ICOの可能性が大量に紹介されている。このようにして話題が話題を呼ぶ形で、注目度は日々上がってきている。
ほんの短い期間内にICOで目標の巨額資金が集められる実態に、「従来型の進取的なベンチャーキャピタルや社債・株式発行による事業の資金調達が霞んで見える」と報じられている。だが、投資した資金がいつでもどこでも取引可能な仮想通貨商品として価値を持ち、その価格が上下するだけに、ICOのリスクに関して注意を呼び掛ける論調も強まってきている。
最大の特徴は当局の規制がないこと
金融版ウィキペディアとして知られる米インベストペディアの定義によると、「ICOとは、(新しいビジネスモデルを開発し、ごく短時間のうちに急激な成長と売却を狙う事で一獲千金を狙う人々の一時的な集合体である)スタートアップが、ベンチャーキャピタル投資家や銀行によって基準が高く設定され、しかも当局の規制を受ける資金調達のプロセスをバイパスするために使う手段である」とされる。
つまりICOでは、高い取引安全基準や政府の規制を回避できるため、スタートアップがより短い期間で目標の金額を調達できる可能性が大きくなるわけだ。これが人気の最大の理由だ。ICOは当局の規制を受けていないために株式などのように特定の取引所に限定されることなく、いつでもどこでも売買ができる。
インベストペディアによると、ICOで資金を集めるスタートアップは事業計画である「白書」を公開するのが普通だ。白書にはプロジェクトの目的や内容や期間が説明され、最終的にプロジェクトはどうなるのか、事業完遂にどれだけの額が必要か明記される。
さらに大事なのが、投資家が支払った現金あるいは仮想通貨に対してスタートアップが発行するプロジェクト専用の仮想通貨のうち、どれだけの割合をスタートアップ側が保有するのか、どういった種類の現金や仮想通貨が当該のICOに使えるのか、に関する開示である。
注目されるのは、ICOの成功を測る基準だ。インベストペディアは、「資金を調達したスタートアップ側が投資家に対して発行した仮想通貨の価値が、プロジェクトの開始時より高くなった時に、ICOは成功とみなされる」という。
一番身近なICOの成功例は、それ自体が仮想通貨プラットフォームであるイーサリアムだ。イーサリアムは2015年にICOで1800万ドル相当の仮想通貨ビットコインを調達した。その際に支払い手段としてビットコインを指定したが、当初は1イーサに対して40セントの価値がついた。これが2016年には1イーサが14ドルとなり、時価総額は10億ドルを超えたのである。
ICOの有力な仮想通貨の支払い手段であるビットコインの価値が上がり、その価値で支えられた仮想通貨のイーサリアムも価値が上昇するという、「仮想の価値が、さらなる仮想の価値を膨らませてゆく」構図が出来上がっている。6月には900近い仮想通貨が流通しており、仮想通貨ニュースサイト『コインテレグラフ』によれば、ICOが開始されて以来、4億4000万ドルが調達された。