韓国LCCの競争が激化している。
人口50万人の地方都市、浦項(ポハン)に拠点を置く「エア浦項」は2017年6月に国土部に運航証明を申請する予定で、年内の就航を目指している。江原道の襄陽(ヤンヤン)を拠点とする「フライヤンヤン」も6月中に国際航空運送事業者の免許を申請する予定だ。
ほかにも、ケイエア(清州)、エア大邱(大邱)、南部エア(密陽)、プライム航空(蔚山)の4社が2018年の就航を目指して航空機の購入と免許取得の準備をしており、すべての会社が就航すると、韓国のLCCは既存のジンエアー、済州、ティーウェイ、イースター航空、エア釜山と合わせて11社となる。
LCCの激化で飽和状態に
新規参入が増えると競争が激化する。LCC市場が形成されて、わずか5年ほどで大韓航空やアシアナ航空といった大型航空会社の独占構造がくずれ、2017年第1四半期の国内線のシェアはLCCが58.3%で、大型社の41.7%を上回った。トータルでもLCCの旅客シェアは45.0%と大型社の54.9%に迫っている。
航空会社の乱立で航空運賃が下がり、ソウルから釜山は5万2000ウォン台からとKTXの一般席5万9500ウォンを下回る。ソウルから済州島も大型航空会社の週末片道平均10万3700ウォンに対して、LCCは8万6000ウォンと17%ほど安い。
国土が狭い韓国で航空便のメリットを最大限活かせるのは済州島だ。韓国空港公社によると、1年間に済州空港を訪問する旅行客はおよそ2600万人で、トルコのサビハ・ギョクチェン国際空港の2829万人に次いで世界第2位である。1時間当たりの旅客輸送4196人は、トルコの3229人の1.2倍に達する。インフラの拡充がないまま6社が110あまりの便を運航しており、スロット(航空機離着陸容量)は飽和状態になっているという。
海外に向かうLCC
国内空港が飽和状態の韓国LCC各社は海外に向かうが、LCCは小型機材で運航するため、就航エリアは日本、中国、台湾などの近隣に限られる。
ソウルからの便は成田空港は韓国LCC5社のうち4社が就航しており(金浦便あわせると5便)、関西空港も4社、福岡や那覇は3社が就航する。韓国に就航している日本のLCCのピーチアビエーションや大型航空会社と合わせると最大7社が競合する路線もある。
訪日韓国人が増えるなか、韓国LCC各社は日本路線の拡充を目論むが、後発の会社はドル箱路線の成田空港や関西空港の発着枠は厳しい。ティーウェイ航空は成田便や関空便のほか、大分や佐賀といった地方空港に就航する。アシアナ航空子会社のエアソウルは、静岡、高松、広島、山口宇部などアシアナ航空が就航していない地方空港のみの就航だ。
日韓路線など、競争の激化で国際線価格も下がっている。仁川空港から成田空港や関西空港の航空券は片道10万ウォン前後で大型社の半額以下。仁川から福岡は平日には3万ウォンの航空券もある。国内線よりはるかに安く、ソウル市内から仁川空港のリムジンバス1万5000ウォンと比べても安さが際立っている。
安全は大丈夫か
LCCの乱立は消費者の利便性が増すが、安全面の問題が提起されはじめた。
特に航空人材の流出は深刻だ。育成に時間がかかるパイロットや整備担当者は、同業者間で人材を引き抜くことになりかねず、人材不足で航空安全に問題が発生するおそれがあるのだ。
急成長したLCCだが、経営状態に「赤信号」が灯りはじめている。毎日経済新聞の分析によると、2016年の営業利益率は5.4%と対前年比で1.3%ポイント後退した。2013年に黒字転換(営業利益334億ウォン)して以降、伸び続けていたLCC各社の成長率が、はじめてマイナスとなり大型航空社の利益率(7.9%)との格差が広がっているのだ。2017年第1四半期にジンエアー、済州、ティーウェイ、イースター航空、エア釜山の韓国LCC各社は、国内航空運賃を5~11%引き上げている。
韓国より内需が大きい米国や日本のLCCは7社にすぎない。狭い国内市場での無分別な乱立は共倒れにつながりかねないとLCC関係者は危惧している。(佐々木和義、韓国在住CFP)
【訂正】韓国から日本の空港への就航便数の紹介箇所で、発空港の記載がなく誤解を生じる表現となっておりましたので、ソウル発の便数である旨を明示しました。