こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

今回は、資源価格と為替レートの連動性について見ていきたいと思います。その例として原油価格とロシア通貨であるルーブル価格の関係を見ます。2つは高く相関してきた歴史があり、原油算出が多いロシアは原油高騰で好景気になる傾向があります。一方で、原油高騰で好景気になってルーブル高になるロシアは、オランダ病を引き起こしている可能性があります。最近は、少し状況が変化している様子が見られますが、欧州経済が安定してくれば、また元に戻る可能性があります。

原油価格とルーブル相場の比較

下図1は、2008年以降のWTI原油価格とルーブルレートの推移を示しています。2010年5~11月頃と最近半年ほどは少し異なる動きを示していますが、原油価格とルーブルレートが連動している様子が分かります。(原油が高くなるほどルーブル高になっています。)

直感的には、日本はロシアから原油を多く輸入しており、原油を輸入する際に支払いの為にルーブルを買う必要があるので、円が売られているということでしょうか。勿論、直接的に原油購入の為の国際決済に影響が出なくても、「原油高になった」というシグナルだけで相場が動く事もあります。いずれにせよ、原油価格とルーブル相場には関係がありそうです。

図1:WTI原油価格とルーブル/円レートの推移 出典:世界経済のネタ帳より作成

注:左軸はWTI原油価格(米ドル/バレル)、右軸はルーブルレート(円/ルーブルレート)。

原油高騰で経済が好調になるロシア

現時点で原油が極めて重要なエネルギー源である以上、少し高くなったくらいでは他の資源に需要が移らず、原油を買わざるを得ません。(ロシアは石油が経済的枯渇〈採掘コストが高くなり過ぎて掘っても商売が成立せず、流通しなくなる状態〉を迎えた後に主流になると見られる天然ガスの産出量も多いです。)

こうした状況から、ロシア経済は原油価格で大きく左右される構造になっています。図2は、WTI原油価格とロシアの実質経済成長率の推移を示しています。2009年の経済成長率と原油価格の落ち込みはリーマンショックによる経済停滞と資源価格の減少が同時に起きているので擬似相関の可能性がありますが、図の丸で囲んだ部分を中心に、原油価格の変化に経済成長率が敏感である傾向が見られます。

図2:WTI原油価格とロシアの実質経済成長率の推移 出典:世界経済のネタ帳より作成

注:左軸はWTI原油価格(米ドル/バレル)、右軸は実質経済成長率(%)。

資源国家ロシアの悩み:オランダ病

資源価格が高騰している時は経済成長率が高い傾向があるのですが、経済成長率が高い時でも問題があります。

資源国家にとって共通の悩みであるのですが、前述した通り、資源価格が高い時に自国通貨が高くなり、製造業が育ちにくいという傾向があるのです。資源国家の一つの目標として、「モノカルチャー経済からの脱却」というものがあり、資源輸出だけでなく、製造業など高付加価値の産業を育てていく事が志向されています。資源価格は不安定である故、永遠に算出されるわけではないからです。

しかし、経済成長率が高くて資本投下に余裕がある時に、皮肉にも通貨高になって製造業の競争力が下がるという現象が起こるのです。これを一般に「オランダ病」といいます。

実質実効為替レートで見れば傾向が変化している

先に、対円ルーブルレートとWTI原油価格を比較しましたが、もう少し厳密に比較する為にWTI原油価格と実質実効為替レートを比較してみましょう。その比較が図3ですが、図1よりも高く連動している様子が分かります。

しかし、少しずつルーブル安の傾向になっていき、最近は原油価格とは逆の動きも示しています。

図3:WTI原油価格と実質実効為替レート 出典:世界経済のネタ帳より作成

注:左軸はWTI原油価格(米ドル/バレル)、右軸は実質実効為替レート指数。実質実効為替レート指数は高いほど通貨高。

欧州経済の安定化で元のトレンドに戻る可能性

この現象をどう解釈するかは難しいので断定的な事は言えませんが、一つの要因に欧州ソブリン危機によって売られ過ぎたユーロが買い戻され、相場がルーブル安に戻ってきている事があるのではないかと思われます。実際、図4のルーブル/ユーロレートを見ても、過去5年で2010年5月頃(欧州ソブリン危機の時期)にルーブル高のピークを迎え、そこからルーブル安に向かっている傾向が見られるからです。

図4:ルーブル/ユーロレートの推移 出典:XE.comより作成

注:縦軸はルーブル/ユーロ、横軸は年を表す。

今後、どうなるかは注視していく必要がありますが、欧州経済の回復によって、徐々に元のトレンドに戻っていくのではないでしょうか。また、長期的にはロシア経済が少しずつ産業が発達していく事によって、このトレンドが解消していくものと思われます。

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