世界の株式市場は大きな調整もなく年後半を迎えている。
最大の山場とされていた仏大統領選挙を無事に乗り切り「反グローバリズムの流れ」に歯止めをかけたことが安心感につながった様子だ。
いまのところ世界経済の先行きに対しては楽観的な見方が多い中、ウォール街で「年後半のリスク」としてドル高とともに心配の声が多いのが中国経済である。そこで今回は、中国経済のリスク要因について整理してみよう。
「ハードランディング」のリスクは大きく後退
今年1~3月期の中国のGDP(国内総生産)成長率は前年同期比6.9%と2016年の6.7%から伸びを加速しており、長期的な減速トレンドから持ち直している。
こうした状況を鑑み、IMF(国際通貨基金)は6月公表の中国経済の年次報告書で2017年のGDP成長率の見通しを6.7%へと上方修正した。上方修正は1月時点では6.5%、4月時点では6.6%だった。同じく2018年の経済成長見通しについても、1月の6.0%から4月に6.2%、そして6月に6.4%へと引き上げている。
中国経済は当初の成長鈍化の見通しを良い意味で裏切っており、ハードランディングのリスクは大きく後退していると言えそうだ。
最大のリスク要因は「金利上昇の悪影響」
とはいえ、リスクがゼロになったわけではない。目先的に最も警戒されるのが「金利上昇による景気への悪影響」である。
IMFはここ数年、中国について「与信の拡大が金融不安を引き起こすリスクが高まっている」とたびたび警鐘を鳴らしており、今年4月には「急ピッチで拡大する信用の伸びを抑制しない限り、中期的には経済を阻害する恐れがある」と警告していた。さらに6月の報告書では、短期的なリスクは後退しているとしながらも「債務で膨らませた景気拡大から抜け出すためには成長鈍化を伴っても経済改革を継続すべき」としている。
この点については、中国政府も認識しているようで金融機関のレバレッジに対する取締りの強化に動いている。ただ、気掛かりなのは、その影響で金利が上昇していることだ。たとえば、1カ月物の市場金利は昨年11月以降に大きく上昇しており、それまでの2.5%近辺から6月には4%台後半へと強含んでいる。
金融機関は短期資金を低金利で調達し、それを長期で高金利の理財商品などに投資して運用してきたが、理財商品にデフォルトが発生した場合、その影響が金融システム全体へと連鎖的に波及する恐れがある。
この金融システムのリスクを防止するために、中国政府は銀行に対してレバレッジを低下させるよう指示しており、その影響で銀行間での資金供給が縮小し金利の上昇を招いている。
銀行の資金調達コストの上昇に連動して企業の資金調達コストも上昇しており、民間企業の資金調達が困難になっている。すなわち、金融システムの安定化を目指した脱レバレッジの動きが実体経済に対する金融引き締め効果となっている恐れがあり、この影響がどの程度の広がり見せるのかが警戒されている。
理財商品の「デフォルトリスク」も警戒
また、金利の上昇は景気の減速リスクとともに、企業のデフォルトリスクも高める恐れがある。特に警戒されるのが「理財商品」のデフォルトだ。
理財商品とは投資信託のような商品で、高利回り商品として人気だが、その分リスクも高いことで知られている。
理財商品は地方政府による不動産開発投資にも回っており、景気の減速で不動産開発が停滞するとデフォルト懸念が強まることになる。
金利の上昇は、中国政府が金融政策の軸足を景気の下支えから住宅バブルの抑制に転換したことも影響している。このため不動産開発投資も減速しており、理財商品への不透明感も強まっている様子だ。
「住宅価格の低下」で地方政府の財政悪化?
中国政府は住宅価格高騰による国民の不満を和らげるために、昨年後半から断続的に住宅価格の抑制策を導入している。この影響もあり、住宅価格は昨年末をピークに鈍化傾向が続いている。
この秋の党大会を見据え、住宅市場への介入は継続されると見られていることから、年内の住宅価格は伸び率の低下が続く見通しだ。
ただ、住宅バブルの抑制は国民にとっては朗報だが、地方政府の財政悪化という新たな懸念を浮上させている。
中国の地方政府は財源を土地の使用権譲渡収入に依存しており、この収入は周辺の不動産価格と連動するため、不動産価格が下落すると地方政府の財政が悪化することになる。したがって、住宅価格が低迷すると債務の返済やインフラ投資のための財源が不足する恐れがある。
秋の党大会に絡んだ思惑も
中国ではこの秋、5年に一度の党大会を迎えるが、13億人の頂点に立つ政治局常務委員7人のうち習近平主席と李克強首相を除く5名が入れ替わる見通しだ。最高指導部が大幅に入れ替わることから、政治的に安定した2期目を迎えるために経済的な安定は不可欠と言えるだろう。
したがって、当面は景気の失速を招くような経済面での構造改革が断行されるとは考えづらく、金利の上昇で成長が実際に鈍化した場合には「金融リスクの安定化」から「経済成長の安定化」へと軸足を移すことになるだろう。
とはいえ、信用の拡大を通じた高成長が持続可能とも考えづらく、構造的な歪みが拡大する恐れがある。中国の企業債務の対GDP比率は既に日本のバブル期を上回っており、5月にムーディーズが格下げを発表していることからも伺えるように、過剰債務問題が先送りされていることは明らかだろう。
したがって、中国経済は景気の失速を防ぎつつ膨張した債務を削減するという難しい舵取りが続きそうな雲行きだ。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)