生まれた街や地縁のある街への住民税の一部納付と、魅力的でラインナップに富んだ返礼品から「ふるさと納税」が注目されて数年が経つ。納税者が希望した自治体に納税できる制度は長年、望まれていたものだ。2008年に制度が開始してから利用者は数年右肩上がりで増加しており、2013年の約13万人、2014年の約43万人と増加し、2015年には約130万人と一気に拡大した。ただ「今年は少し余裕ができたから、お世話になった街へはじめて納税してみようかな」と思ったときに、既に一般に浸透しているため、今さら手続きを聞くことができない。そこで今回、ふるさと納税を基本の「き」からを徹底解説する。手続き順序にふるさと納税制度を考えてみたい。

目次

  1. まずどの自治体に納税するか決める
  2. 次に自治体に納税手続きを進める
  3. ワンストップ特例とは
  4. 確定申告を行う場合の手続き
  5. これからはじめる人はどのような点に気をつければいいのか

ふるさと納税
(写真=PIXTA)

まずどの自治体に納税するか決める

「納税」と聞くと不慣れな人にとって、とても煩雑な手続きを要すると思いがちだ。ただ、ふるさと納税は簡単な簡単な手続きでメリットを受けられる「寄付」の扱いになる。自治体への寄付のうち、自己負担額2000円を超える部分が、翌年の所得税所得割のおおむね2割から控除される。ふるさと納税の具体的な手続きを順番に見ていこう。

ふるさと納税はまず、どの自治体に納税するか決めるところから始まる。出生地や過去に住んでいた街に限らず、地縁のある街以外も対象とすることができる。納税という言葉を使っているが、自身で選択した自治体への「寄付」という言葉がより正確だろう。

かつ、ふるさと納税の大きな特徴は、各自治体がゆかりのあるものをラインナップした「返礼品」だ。各自治体が特産品として誇る農作物や海の幸などを返礼品として設定している。これは納税者にとって、2000円の自己負担額では通常、まず購入できない返礼品を入手できることが魅力になっている。また、長野県内の自治体は精密機械の工場を抱えているため、テレビやパソコンといった高価な家電を返礼品として設定しているケースもある。これらの返礼品選定は自治体の産業をアピールするブランディングのほか、製造企業の地元雇用を促進する効果も期待できる。これら返礼品をどのようなものにするかは自治体によって定められており、上限下限が決められていないため、自治体によって大きな差がある。本来は返礼品次第ではなく、税金を希望した自治体にて活用してほしいという希望から自治体選択がされるべきだという考え方が制度の本質なのだ。

ただ、現実には納税をする自治体を「納税すると何が貰えるかという返礼品ありき」で決める人も多いため、返礼品の過剰競争になっているという指摘もある。ふるさと納税に反対している専門家の意見にも「返礼品ありきの自治体選びは税収入以上に自治体の財政を圧迫し、困窮する」とする指摘が目立つ。自治体のなかには「返礼品ありきの納税制度ではない」と、返礼品の取りやめを表明した自治体もある。年々、返礼品が豪華になっている点については、本来の目的から乖離しているとして最近、見直しが論じられている。ただ、本来は希望した故郷などの自治体に「自由に」税金を納めることのできる魅力的な制度だ。返礼品ありきのふるさと納税バブルが今後収斂し、今後は自治体の財務状況を踏まえたうえで、身の丈に合ったものになってくることが考えられる。

ふるさと納税できる自治体は、日本で自治体を対象に収受されている「地方税」のため、すべてが対象になる。また、本来住民税が納められるはずだった納税者の居住地からは、納付税額の減少から住民サービスに十分な予算を割けなくなるのではないかという危惧がある。実際に東京23区や首都圏近郊の自治体は、ふるさと納税反対を表明しているほどだ。確かに東京や大阪といった都市部の自治体はふるさと納税制度によって住民税が減少することが多く、歓迎すべき施策ではないだろう。もちろん、東京の各区を対象にふるさと納税制度を利用することもできる。

当初は出身地や、以前暮らしていた自治体に納付している人が多かった。最近は、天災などで甚大な被害を受けた自治体への応援として、ふるさと納税を活用する動きがある。自治体への負担にもならないため、お勧めしたい動きだ。もちろん、過剰にならなければ返礼品の魅力による自治体選びも盛り上がるべきだ。自治体にとっては特産品のアピールとなり、来訪客の増加にもつながる。オリジナリティーのある返礼品を提供すると、SNSによる拡散効果が期待でき、自治体の知名度も上昇したうえで観光効果も見込めるだろう。

また、自治体によっては寄付の用途を表明しているところもあるため、より寄付の実感を持てるようになる。現在注目されている、クラウドファンディングに意味合いが近い。自治体により、具体的には以下の用途が発表されている。

北海道猿払村 マイクロバスの購入
長野県大町市 北アルプスなど山岳観光都市としての事業費用
兵庫県豊岡市 コウノトリの養殖保護費用
滋賀県近江八幡市 「安土城跡」をはじめとした歴史文化遺産の保護
山口県長門市 自然保護費用の原資

このように使い道がはっきりしている、いわゆる通常の自治体財政とは「別財布」となっていると、納税者も応援しやすくなる。今後、用途を定める動きはさらに広まるのではないだろうか。

また当初は予定されていなかったものだが、2016年に発生した熊本地震が発生した自治体や、九州を中心とした大雨によって甚大な被害を受けた自治体に対してふるさと納税をしようとする動きが広まっている。2011年の東日本大震災から、義援金としてふるさと納税を活用する動きが広まったといえる。義援金は非継続的な支援のため、集まったお金の使用プロセスがはっきりしなかったり、他の用途に使われたりという事例は後を絶たない。その点、ふるさと納税はまさに行政予算となるため、明示化はともかく、行政組織で議論をしたうえで使い道が決まる、制度を活用したケースといえるだろう。また、災害からの復興は、多大な費用がかかる場合が多く、全国からの善意ある寄付金が復興の馬力になる。まさにふるさと納税の制度を利用した素晴らしい取り組みだ。

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次に自治体に納税手続きを進める

納税する自治体を決めると、その自治体にふるさと納税の意思を示す。所定の手続きを進めると自治体から返礼品が届き、追って寄付を証明する受領書寄付金受領証明書が送られる。

この証明書が翌年2月から3月の「確定申告」の際に必要となる。寄付者の収入によって上限額が定められるため、その金額を持って納付金額を決めるのもひとつの方法だ。自治体の多くは納付税額に合わせて段階的に返礼品のグレードを定めているため、どちらを重視するかは寄付者に委ねられている。

寄附金上限額の目安は以下の通り。

年収 目安となる上限額夫婦と子どもがいる場合
300万円 1万1000円
600万円 6万円
1000万円 15万6000円

細かい計算式に関しては自分で計算するのも、確定申告をする最寄りの税務署に問い合わせるのもひとつの方法だが、インターネットでふるさと納税を解説しているサイトで計算をすることができる。Googleで「ふるさと納税・計算」と検索するとすぐに計算することが可能なため、手間もかからないお勧めの方法だ。

ワンストップ特例とは

とはいえ、不慣れな人にとって確定申告は抵抗感の高いものだ。そこで、ワンストップ特例という制度がある。この特例は、ふるさと納税の寄付金の自治体数が5つまでの人が利用できる、税額控除の手続きが簡素化できる制度だ。寄付者は自治体へ手続きをする際に「ワンストップ特例申告書寄付金税額控除に係る申告特例申請書」と「マイナンバー提供に必要な本人確認書類番号確認と身元実在確認の書類」を提出する。自治体側は寄付者の居住する自治体に連絡し、翌年の住民税から控除する手続きが進む。

寄付者にとっては確定申告の必要はなく、かつ寄付手続きのみの「ワンストップ」で納税が完了する特例はとても使い勝手のいいものだ。寄付先が5つまでという人は、積極的に活用するようにしたい。

確定申告を行う場合の手続き

自営業や住宅ローン減税の初年度などで確定申告を行う場合は、ふるさと納税の手続きもともに済ませることとなる。確定申告の手続きを説明しよう。

確定申告とは、会社員なら勤務先で行う所得税の算出を、税務署に申請することで行う手続きを指す。会社員のみのキャリアの人や、給与所得のみの人には、あまり馴染みのある方法ではない。ただ、毎年2月になるとテレビCMなどで大々的に宣伝しているため、これまで会社員の経験「のみ」の方も、確定申告という名前は耳にしたことは多いだろう。自営業のほかに、1年のあいだで何かしら所得がある場合や、所得税の控除制度を使用する場合は申請の必要が生じる。ふるさと納税の利用者は、後者の「控除制度利用者」に該当し、先述したワンストップ特例を使用しないため、納税した翌年の2月から3月にかけて確定申告を行う必要がある。

確定申告では1月1日から12月31日までを一くくりとし、その年の収入、費用を翌年の2月16日から3月15日までに最寄りの税務署に申告する。書面で申請する方法も、インターネット上で申請する方法もある。最近はクラウド会計サービスというインターネットを活用した画期的なサービスが利用されており、確定申告を数十分で完了することができる。積極的に利用したい。

確定申告は所定の申告書要旨を準備し、添付書類を準備したうえで税務署に提出する。ふるさと納税では、この添付書類として、寄付先の自治体から送られてくる受領書寄付金受領証明書が該当する。

そのほかに必要なものは、前年度の源泉徴収票、控除金受取用口座番号本人名義、印鑑、マイナンバーと本人確認書類だ。

所得控除のため、前年度の所得額を証明する源泉徴収票が必要となる。会社員の場合は前年1年間、勤務先を通じてあらかじめ見込み額で所得税を納付しているため、ふるさと納税を通して控除金が戻ってくる人も多い。この場合は、必ず本人名義の控除金受取用口座番号を準備して、振込先を税務署に指示することになる。

また2016年よりマイナンバーカードが発行されたため、既に作成している人は当該カード、まだ作成手続きを進めていない人は番号通知カードが申請の際に必要となる。紛失している場合の対応は自治体によるが、余計な手続きの時間を要する場合もあるので注意したい。また、印鑑や本人確認書類も忘れないようにしたい。

確定申告は手続きに不備がある場合、申請不受理となったり、思わぬ手続きのやり直しが必要となったりすることもある。不安のある人は、ワンストップ特例の利用ありきで進めることをお勧めする。

これからはじめる人はどのような点に気をつければいいのか

ふるさと納税の一連の流れをお伝えした。納税手続きは素人ではなかなか難しいものの、ふるさと納税はプロセスの少ない手続きのうえ、ワンストップ特例という確定申告さえ不要になる制度をしっかりと理解すると、障壁はさらに低くなる。納税者自身が希望した自治体に住民税を納付するという制度そのものはとても魅力的なため、今後も利用者が拡大基調となり、さまざまな点が改善されていくだろう。

ただ、返礼品ありきという流れには反発も強いため、今後は上限価格が定められたリ、「寄付金の何割」という制限が定められる可能性がある。ふるさと納税の本質から考えると健全なのだが、納税者側から考えると受け取りを見込んでいた返礼品がなくなるため、大きく利用予定が変わることにもなる。

現時点でふるさと納税の利用を考えている人は、早めに納付手続きを進めることをお勧めする。当然だが、一度送付された返礼品は自治体の方針、または制度の方針が変わったとしても、回収されることはない。ただ、本来は、これまでお世話になった自治体や義援金代わりとして、ふるさと納税制度の活用を考えていきたい。

工藤 崇
FP-MYS代表取締役社長CEO。ファイナンシャルプランニングFPを通じ、Fintech領域のリテラシーを向上させたい個人や、FP領域を活用してFintechビジネスを検討する法人のアドバイザーやプロダクト支援に携わる。Fintechベンチャー集積拠点FINOLABフィノラボ入居。執筆実績多数。

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