景気ウォッチャー調査(17年7月)~盛夏商材の売れ行きが好調も、九州北部豪雨の影響で景況感は小幅の悪化~
8月8日に内閣府から公表された2017年7月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は49.7と前月から▲0.3ポイント低下し、4ヵ月ぶりの悪化となった。小幅の悪化であり、景況感は前月から変わっていない。改善が続いていた企業関連が悪化したものの、雇用関連は高水準を維持しており、家計関連は底堅く推移していることから、景況感は持ち直しつつあるといえる。なお、内閣府は、基調判断を「持ち直しが続いている」に据え置いた。
今回の調査では、家計関連は、例年より気温の高い日が多く雨も少なかったため、小売店を中心に飲料水やエアコンなどの盛夏商材の売れ行きが好調だったことが景況感を押し上げた。また、自動車販売も新型車効果もあり好調を維持している。企業関連は、増加基調にあった受注量に伸び悩みの動きがみられる。なお、景気の現状判断DI(季節調整値)を全国11地域別にみると、7月上旬の豪雨の影響を受けた九州地方は前月から▲3.7ポイント(6月:50.0→7月:46.3)の大幅悪化となり、全体の景況感を押し下げた。
盛夏商材の売れ行きが好調
現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差0.0ポイント)は横ばいだったが、企業動向関連(同▲1.4ポイント)、雇用関連(同▲0.4ポイント)は悪化した。家計動向関連では、小売関連(前月差▲0.2ポイント)、飲食関連(同▲0.4ポイント)、住宅関連(同▲0.6ポイント)が悪化したが、サービス関連(同+0.8ポイント)が改善した。
コメントをみると、 家計動向関連 では「例年以上の暑さにより、シャツの買い足しや、夏用のスーツや礼服など、夏物需要が非常に喚起されている。来客数も増加しており、順調に推移している」(東北・衣料品専門店)や、「気温が高く、アイス、飲料、酒類が好調である。来客数は前年を下回っているが、客単価は上昇しており、売上は前年を上回っている」(東北・スーパー)、「気温の上昇に伴い、エアコンを中心とした季節商材の販売が伸びている。また、高付加価値商品の販売に注力することで利益も確保されている」(近畿・家電量販店)など、例年より気温の高い日が多かったため、盛夏商材の需要増加が小売店の客数や販売量の増加に寄与したほか、客単価を押し上げる効果もあったようだ。また、「ボーナス商戦では、お中元商品は厳しいものの、単価の高い海外ブランドや宝飾、時計が好調に推移している。インバウンドによる需要も化粧品を中心に好調が続いている」(東海・百貨店)などインバウンド需要は引き続き好調のようだが、百貨店を中心にインバウンドに言及するコメント数はやや少なかった。また、「7月の売上は前年の9割となり、前年並みに戻ってきている。ただ、例年であれば、ボーナス翌月の7月は景気が上向くが、今年はそうした影響を感じにくかった。価格を下げた方が客の動きが良くなる傾向がみられる」(北海道・高級レストラン)など、期待外れに終わったボーナス商戦や消費者の節約志向に言及するコメントもみられた。「新型車効果があり、新車販売が好調である。今年に入ってから多くの新型車が連続して投入された。7月は来客数も前年を上回り、業績は堅調に推移している」(九州・乗用車販売店)など、自動車販売は好調を維持しているようだ。
住宅関連 では、「分譲マンションのモデルルームを訪れる客の購入決定までにかかる時間が長くなってきている」(北海道・住宅販売会社)や「客の動きはコンスタントにあるが、契約件数と契約額共に横ばいである。新規客の商談件数は増えておらず、現在の状態が続きそうである」(北陸・住宅販売会社)など住宅の購入に慎重な消費者が増えているようだ。
企業動向関連 では、製造業(前月差▲1.6ポイント)、非製造業(同▲1.5ポイント)ともに悪化した。コメントをみると、「取引先工場等の稼働率が回復してきている様子で、受注量が増えてきている」(南関東・その他サービス業[廃棄物処理])など受注の増加に言及するコメントが引き続きみられたが、「ここ3か月の受注量が極端に減ってきている。毎年、夏の需要は減る傾向にあるが、想定以上に減少している。周囲からも良い声は聞こえてこない」(近畿・出版・印刷・同関連産業)や、「既存取引先の受注の落ち込みが大きく、新規取引先からの案件でカバーしきれない」(北関東・一般機械器具製造業)など、受注の伸び悩みを指摘するコメントも目立った。
雇用関連 では、「新規求人数は増加が続き、人手不足対策としての正社員の求人も増加傾向となっている。企業からは、業績が好調との声も徐々に増えている」(近畿・職業安定所)など強まる人手不足を受けてより待遇の良い求人条件を提示する企業がみられる。一方で、「企業の採用意欲の低下が見られる。引き続き人員不足ではあるが、募集しても採用ができない期間が続いているため、繁忙期ではない時期には現存人員で業務を行えるように仕組化したり生産性向上施策に注力しているようである。採用に対しての積極性は低下している」(九州・人材派遣会社)など人手が確保できないなか、生産性の向上に取り組む企業もみられる。
なお、九州地方では「九州北部豪雨の影響で年度初めに予定されていた案件が延期になった。発注者が豪雨調査対策に追われ、出件の延期で売上も延期となる」(九州・金属製品製造業)や「7月上旬の九州北部豪雨により被災地周辺からの来客数減少と近郊地区住民の購買意欲の低下は明らかで、来客数、売上共に大きな打撃を受けた」(九州・百貨店(営業統括))など、豪雨の影響で企業活動に支障が生じたり、客足が遠のいている。
景気の先行き判断DI(季節調整値):4ヵ月ぶりの悪化も、節目となる50は上回る。
先行き判断DI(季節調整値)は50.3(前月差▲0.2ポイント)と小幅ながら4ヵ月ぶりの悪化となった。先行きの景況感は2017年度に入り持ち直しており、2ヵ月連続で節目となる50の水準を上回っている。先行き判断DIの内訳をみると、家計動向関連(同▲0.4ポイント)、企業動向関連(同▲1.2ポイント)が悪化したが、雇用関連(前月差+3.2ポイント)は大きく改善した。
家計動向関連 では、「2~3か月先は、旅行業界にとって秋の旅行シーズンとなり、法人、教育旅行、個人等全ての分野でピークを迎える。また、予約状況も良好と聞いている」(南関東・旅行代理店)や「秋口の旅行申込は順調で、特に国内団体客が好調である。社員旅行を始め創業記念旅行も増えてきており、企業には福利厚生に金をかける余裕が生まれている」(東海・旅行代理店)など秋に向けた観光需要の盛り上がりを見込むコメントが目立った。一方で、「春夏物に加えて秋物も入荷し、多少は良くなるだろうが売上は変わらないのではないか。来客数、販売量、客の動き等をみる限り、あまり変わらない」(四国・衣料品専門店)や「景気が上向きになる材料が地域経済に見当たらず、客の消費行動が変わる見込みは薄い」(中国・スーパー)など、今以上に景気の改善が見込めないとう慎重なコメントも目立った。
企業動向関連 では、「企業の業績改善を背景に、設備投資は増加傾向となっている。さらに、設備投資の中身はこれまでの維持補修関係の投資から、増産や合理化のための投資にシフトしつつある。ただし、賃金上昇や人手不足が引き続きの課題となっており、働き方改革を中心とした人材への投資が急務である」(北陸・一般機械器具製造業)や「化粧品容器、医療品容器の新規案件が引き続き入ってきているため、2~3か月後の完成を目指して設備投資に踏み切ったところである」(南関東・プラスチック製品製造業)など、増産や生産性向上に向けた設備投資に言及するコメントがみられた。一方で、「受注案件はあるものの、人手不足が解消されないため、仕事量の調整などの対応に苦慮している」(東北・金属工業協同組合)や「10月に最低賃金の見直しがあるので、人件費が高騰する。人手不足も重なり、募集単価の上昇が見込まれるが、既存の契約単価が上がらないので厳しくなる」(南関東・その他サービス業[ビルメンテナンス])など、人手不足やそれに伴う人件費高騰を懸念するコメントがみられた。
雇用関連 では、「人材不足を背景に、依頼内容を緩和したり職場環境の改善で定着を高めるなど、求職者にとって魅力的な材料が増えてきており、成約数の伸びが期待される」(南関東・人材派遣会社)や「人手不足感がより一層強まり、求人条件を見直す事業所も増えてきている。少しずつではあるが、労働条件の改善が見受けられる」(東海・職業安定所)など、人手不足が深刻化するなか人材を確保するため、求人条件を見直す企業が増えてきているようだ。
景況感は2017年度に入り、持ち直しの動きがみられる。先行きについても、これ以上の改善は期待できないという慎重な姿勢がみられるものの、設備投資の回復が期待できることに加え、人手不足が深刻化するなか人材確保に向けて求人条件を見直すなど雇用所得環境の改善が一段と期待できる。一方で、九州北部豪雨の影響は徐々に剥落していくだろうが、依然避難生活を送っている住民も多く、復旧作業は十分に進んでいないことから、今後も景況感改善の重しになるだろう。
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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
研究員
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