人口減少・低金利競争などで銀行、とりわけ地方銀行は激しい競争にさらされている。また金融庁が打ち出したフィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)により従来の経営方針も見直しを迫られている。
こうした環境で合併・提携・他府県への新規出店で活路を見出す銀行も少なくない。ただ中には独自の取組みで注目を集めているユニークな銀行も存在する。ここではその中から3行を紹介したい。
ユニーク銀行の先駆け 大垣共立銀行
ユニーク銀行といえば、大垣共立銀行 <8361> を思い浮かべる方は多いだろう。同行の取組みはキャッシュコーナーの年中無休稼働・移動ATM・ドライブスルーATM・不妊治療関連ローンなど幅広い。また取組みだけでなく、日本経済新聞の顧客満足度ランキングでも上位に名を連ねている。2017年は6位で、メガバンク・ネット銀行を除くとトップレベルだ。
こうした取組みができた背景には土屋嶢頭取の存在が大きい。2012年3月のITmedia ビジネスオンラインによると、土屋頭取は「我々は金融業ではなく、サービス業だ」と掲げている。つまり事業を再定義することで各行員の変革を促したと言えるだろう。変革の結果、行員のアイデアから生まれた商品もある。
前述の不妊治療関連ローン以外にも、『離婚関連専用ローン』『シングルマザー応援ローン』『「デキル」をふやす女性専用ローンStar★Day』は女性行員のアイデアから生まれたものだ。また手のひらだけで取引できる『手のひら認証ATM「ピピット」』のように全国初のサービスもある。
なぜここまで変革できたのか。一つには土屋頭取がオーナー家の出身であり、トップの意向が反映されやすい企業文化があったといえる。(土屋頭取の父・祖父もまた大垣共立銀行頭取)また同じ岐阜県内に十六銀行という強力なライバルがいたことも関係しているだろう。今後も同行からユニークな取組みが出る可能性は高い。
リテールバンキングへの転換 スルガ銀行
次の例としてスルガ銀行 <8358> を紹介したい。スルガ銀行は大垣共立銀行と共通点が2つある。一つは岡野取締役会長がオーナー家出身であり、トップの意向が反映されやすい企業文化であろうこと。もう一つは静岡銀行・横浜銀行という強力なライバルがおり、独自色を打ち出す必要があったことである。
スルガ銀行は柔軟な審査をすることで知られている。法定耐用年数を超えた期間での融資、担保評価を最大120%としているなどだ。他行にはない審査基準を導入することで、リテールバンキングを強みとしている。
リテールバンキングへの転換を行った契機を岡野取締役会長は自社HPで1986年と語っている。ちょうど各銀行が法人取引に注力していた頃だ。しかし高度経済成長が終わりを迎えて次のビジネスモデルが必要と判断、リテールバンキングへと転換した。
また転換に伴い、企業文化の改革にも着手している。顧客に最も近い行員の経営への参画や「頭取」から「社長」への変更はその代表だ。その結果先述した柔軟な審査や、ロードバイクローン・ダイバーズローンなどの商品、足湯併設のユニークな支店が生まれたと言えるだろう。
スルガ銀行は純利益を5年連続で過去最高を記録している。またブルームバークは2017年7月5日、国内金融機関の中で平均年間給与が810万円とトップにあることを報じた。マイナス金利下で苦しい経営が続いている銀行がある中でこの業績・給与は異質といえるだろう。今後も業績を伸ばしていくのか注目したい。
目利き力で生き残り 広島銀行
最後に広島銀行 <8379> を紹介したい。広島銀行は大垣共立銀行やスルガ銀行と違い、オーナー一族が頭取(社長)を務めているわけではない。広島銀行は銀行の本業とも言うべき法人取引で生き残りを図っている。
ディスクロージャー誌にも記載があるが、広島銀行では「目利き力」がキーワードとなる。目利き力で取引先の事業把握を行い、それを必要資金の融資・事業承継・経営コンサルティングにつなげようというわけだ。
週刊ダイヤモンド2015年9月19日号によると、広島銀行は取引先をより把握するために2010年から100問のヒアリングシートを導入している。また2012年には経営者の定性面調査、さらに取引先支援の一環として1000項目にも及ぶ調査を実施している。
こうした調査を行うには取引先企業の業界をよく知らなければならない。広島銀行はマツダ <7261> のOBを採用したりすることで、取引先をより深く知ろうとしているのだ。その結果非金利収入が売上高の約3割を占めているのである(2015年9月19日時点)。
前述の週刊ダイヤモンドで池田頭取はこの調査を「まだ発展途上。人事の分野などにも広げていきたい」としている。今後ヒアリングシートから更なる提案が生まれてくるだろう。(沖見 傑、元銀行員)