2045年、ほとんどの仕事はAIが代替する時代に

神野元基,AI時代,なくなる仕事,生き残る仕事
(写真=The 21 online)

変化の激しいこれからの時代、生き抜くための新しいスキルが必要なのは、私たちよりむしろ子供たちの世代である。今小学校6年生の子供が40歳になる2045年頃には、多くの仕事がAIに替わると予測するのは、海外でのビジネスを経てAI教材で教える学習塾を立ち上げた神野元基氏。子供に何を教え身につけさせるべきか、未来予測とともに、詳しくうかがった。《取材・構成=村上敬》

AIでなくなる仕事、生き残る仕事とは?

2045年には、「シンギュラリティ」(技術的特異点)を迎え、人工知能が人間の能力を超えることで、人間には未来予測ができないほどのスピードで社会が変革する時代がやってくると言われています。

その頃には、既存の職業の多くが人工知能(AI)やロボットに代替されています。今ある職業が残っていても、その職業に求められるスキルは大きく変わっているはずです。そのような時代の到来に備えて、子供たちに何を教えるべきでしょうか。

個別の職業の未来については後述するとして、まずは全体の傾向をお話しすると、肉体労働や単純作業などの仕事はほとんどがAIに代替され、人間がやるべき仕事ではなくなるでしょう。逆にその時代にも残るのは、圧倒的な能動思考を求められる仕事――つまり自分で社会の問題点を見つけて解決しようとしたり、自ら新しいものを生み出そうとしたりする仕事です。

たとえば、起業家はその一つです。社会の問題点を見つけて、それをビジネスで解決しようと行動するのが起業家ですが、こうした活動は人間だからできることです。また、かつて起業家が解決策を実行するときには、一緒にやってくれる人を集めて組織を作らなくてはなりませんでした。しかし、今後は人工知能がサポートしてくれるので、人材をハンティングする必要もない。起業のハードルは下がり、起業家は増えていくでしょう。

子供には「好きなこと」をとことんやらせていい

人工知能時代に第一線に立つために重要な「圧倒的能動思考」を身につけるためには、子供の頃からの考え方が重要になってきます。残念ながら受動思考で育った人が能動思考に変わるのはとても難しいことです。受動的でいることがその人にとっての成功体験になっているので、思考を変えられないのです。

そこで、もしお子さんに能動思考を身につけさせたければ、家庭でそのように教育する必要があると言えます。そのために大事なのは、好きなことをとことんやらせることだと考えます。具体的には、子供が関心のあるものを聞いて、目標を設定させて、目標を達成するために必要なことを考えさせ、PDCAを回していく。それによって目標を達成したり、近づいた実感を得られれば、子供は自信とチャレンジ精神を手に入れて自ずと能動思考になっていきます。

関心の向く先が、たとえばソーシャルゲームやYouTubeであっても構いません。今四十代くらいの人は、親から「漫画ばかり読んではダメ」と言われて育った人もいると思いますが、漫画から学ぶことは多いということも同時に知っているのではないでしょうか。

それと同じで、子供たちは親世代にはわからない新しいやり方で頭の大事な部分を鍛えています。自分の世代の常識で測ってはいけません。好きなことをとことん極めさせてこそ、未来を生き抜ける人になれるのです。

学校では教えてくれない検索リテラシーが重要に

能動思考は、あくまでもマインドの話です。では、スキルとしては何が必要になるのでしょうか。

共通して求められるのは、情報を調べる力です。何かを解決したいという思いが強くても、そのやり方がわからないという人が少なくないからです。

具体的には、検索リテラシーを磨くべきです。どのようなキーワードで調べれば、役に立つ情報にアプローチできるのか。また、SNSでの情報収集力も重要です。今や一国の大統領でもSNSで発信する時代ですから、一流の人の発信を見るだけでも世の中の動きがわかります。

多くの仕事で必須になる「STEM」とは?

ビジネススキル以前の根本的な能力としては、STEMが今後は必須になるでしょう。STEMとはScience(サイエンス)、Technology(テクノロジー)、Engineering(エンジニアリング)、Mathematics(数学)の頭文字から作られた造語で、ハイテク産業で求められる知識やスキルを指します。

なぜSTEMが欠かせないのか。前提として、シンギュラリティを迎える頃には、世界中でベーシックインカム(最低所得保障)が導入されると予想します。支給額は月7~8万円程度かもしれませんが、さまざまなことが機械化されて生活コストが下がるので、それで十分です。たとえば漁業では船が勝手に漁に出かけて、ドローンが魚を運び、ロボットが調理してくれる時代になります。よって、この時代に必要とされるのは、一連のシステムを作る力であり、システムを作る力を育むのがSTEM教育というわけです。

STEMの中でもとくに重要なのは、エンジニアリングの一つであるプログラミングです。先ほど漁業の例を挙げたように、今後すべての産業がテクノロジーによって変貌を遂げます。最先端のテクノロジーによって自分の業界がどう変わっていくのかわからないと、時代から取り残されるばかりです。

もっとも、人工知能時代の仕事のうち、機械化や自働化に関する仕事は6~7割くらいです。最低限の生活が保障される時代になれば、人々の関心は物質より精神の充足に向かいます。その結果、残りの3~4割は精神や頭を満たすサービスで占められるようになります。こちらの仕事で生きていく人は、STEMよりも、人間とは何かと探求していく教育が必要になるでしょう。

もうすぐ、外国語を学ぶ必要がなくなる!

テクノロジーが進むことで、逆に不要になるスキルもあります。たとえば英語をはじめとする外国語です。

今年1月、Google翻訳が劇的に進化しました。英語の論文なら、かなりの精度で正しい日本語になります。ニュースなどの堅めの文章も、助詞が多少間違っている程度で、実用には問題ない。口語はまだ難しいところがありますが、これも時間の問題。今の中学生が大人になるころには、言語の壁は完全に消えてなくなるでしょう。

10年後を見据えると、もはや単語や文法を教える英語教育は不要です。それよりも大切なのは異文化理解です。たとえば、日本では20歳以上であれば飲酒は自由ですが、飲酒を不道徳なものとしたり、禁止する国や地域もあります。外国人とコミュニケーションを取るときには、単語や文法を覚えるより、こうした文化や常識の違いを知ることのほうがずっと役に立ちます。

さらに長期的に見れば、外国語以外にも不要になるものはたくさん出てきます。世界的起業家のイーロン・マスクは、脳の中にチップを埋めてコンピュータを制御する「ニューラル・レース」の研究を始めました。この技術が実用化されれば、現在学校で行なわれている教育の大部分がいらなくなる可能性すらあります。

これから大人になっていく子供たちに対しては、テクノロジーの進展を踏まえた長期的な視点で教育を行ないたいものです。

今の子供たちがなりたい「あの職業」はどうなるか?

現在12歳(小学6年生)の子供たちが40代になるのは2045年。時代は大きく変わり、人の手によっていた仕事の多くがAIによって自動化され、なくなる職業も多数出てくると予測される。ここでは「将来就きたい職業ランキング2016年度版」(小学6年生対象/㈱クラレ調べ)でランクインしている仕事がその頃に存在しているかどうか、神野氏による分析をご紹介しよう。

【男の子に人気の職業】

1位 スポーツ選手
残る。仮想通貨によって世界中のファンが直接的にスポンサーになれる時代に。練習メニューや戦術にはAIが必須になる。

2位 研究者
残る。あらゆる分野の研究にAIが必須に。STEM領域に加え、人間の幸福を追求する社会学、哲学が再興する。

3位 エンジニア
産業の中心として大いに需要がある。AI、ロボット、VR、遺伝子工学などの分野も確実に伸びる。

4位 ゲームクリエイター
残る。ただしプログラミングは自動化され、企画立案などのプロデューサー的な仕事が中心に。

5位 医師
診断や手術の多くがAIの仕事になり、カウンセリングや心のケアが重要になる。人の命を救うには遺伝子工学等の研究者を目指す手も。

6位 教員
実技系の科目以外は「教える」ことは不要になる。ただし生徒のケアをするコーチとしての役割は残る。

6位 建築家
構造計算などはすべてAIに。人のライフスタイルを提案できるようなクリエイターとしての建築家は残る。

8位 会社員
フリーランスの時代になり、会社自体が縮小。最適な人材を見つけるAIも開発されるので、新卒一括採用はなくなる。

9位 宇宙飛行士
宇宙開発や宇宙探査の分野は残るが、この頃には人類は火星に降り立っている可能性も。

9位 鉄道・運輸関係
飛行機、鉄道からタクシーまですべて自動運転が基本に。経営者やメンテナンスのクルー、接客係だけが残る。

【女の子に人気の職業】

1位 保育士
残る。オムツ替えなどの作業はロボットの仕事に。保護者の相談に乗ったり、子供とコミュニケーションを取ることが主な仕事に。

2位 教員
男の子の6位参照。

3位 看護師
肉体作業はロボットが代替するようになる。患者の心のケアやコミュニケーションに特化した仕事に。

4位 薬剤師
大半がAIに代替される。新薬開発も、AIによって研究が行なわれるので、ほぼなくなる。

5位 動物園・遊園地
裏方作業は自動化されるが、動物を手なずける仕事や、エンターテイナーとしてのスタッフは残る。

5位 デザイナー
AIがマーケティングデータ等に基づいて自動的にデザインする時代に。ひと握りのカリスマ的なトップデザイナーを除いて激減。

7位 医師
男の子の5位参照。

7位 ケーキ屋・パン屋
狭き門。美味しいものを作ってもAIが解析し再現することが可能に。常に新しい商品を生み出すことが求められる。

9位 漫画家・イラストレーター
残る。ただし、VRによるエンタメも発達するので、ストーリーテラーとしての能力が今以上に重視される。

10位 マスコミ関係
ネット中心の時代になるので、動画撮影の技術があると良い。情報を整理するだけの編集はAIが代替するので、企画力が問われる。

神野 元基(じんの・げんき)〔株〕COMPASS CEO
慶應義塾大学在籍中、ラスベガスで行なわれたWorld Series Of Pokerにて19位。その後㈱PokerFaceを立ち上げ、自身も電子出版業界で年間4億円の売り上げを達成。シリコンバレーにて感情センシングサービスSmileBacks.incを設立。2045年に起こるシンギュラリティを考え、子供たちに未来を生きる力を身につけて欲しいとの思いから、12年より学習塾COMPASSを設立。人工知能型教材Qubenaを開発し、学校教育に比べ7倍の学習効果を実現。(『 The 21 online 』2017年7月号より)

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