正社員の副業を禁止している企業が多いが、政府が人手不足解消と多様な働き方容認の両面から副業を推進している。長時間労働や労災などの観点から、企業の副業容認も進みにくいと考える。副業ならバイトのような雇用型でなく委託型を活用すべきだろう。
雇用型以外のほうが副業バレしにくいメリット
サラリーマンの住民税は通常、給与から毎月天引きされる。ただ給与所得にかかる住民税だけ天引き対象とし、給与以外の所得にかかる住民税は自分で納めることも可能だ。
所得税や住民税を計算する上での所得分類では、いわゆるアルバイトのように雇用契約によりもらえる収入は給与所得だが、副業が委託契約であったり株・FXのような投資であったりすれば給与所得にはならない。
その意味では雇用契約以外で副業を行うことにより、会社には住民税課税明細書から副業(の所得)がバレにくいメリットがある。もっとも副業が雇用契約でも、給与以外の所得にかかる住民税を「自分で納付」と確定申告か住民税申告で選択すれば、(自治体の対応によるが)副業分の給与所得が会社に知られることはない。
割増賃金が本業・副業どちらで発生するかの問題
ここまで雇用型を避けたほうがよいと述べたのは、副業が勤務先に知られないようにする観点からであった。政府が副業推進にかじを切ったからには、勤務先に認めてもらう上で副業形態を考える必要があるが、やはり雇用型は避けたほうが良い。
雇用型は拘束時間に応じて給与が支払われる特徴がある。例えばA氏が本業B社で週40時間、副業C社で週10時間働くとした場合、法定労働時間週40時間を超えて働くことになる。
このような場合、労働基準法38条やそれに基づく行政通達によれば、A氏は10時間分の割増賃金(残業代)がもらえることになる。C社が割増分を払うと考えがちだが、もしC社は平日早朝6~8時に、B社は平日9時~18時(昼休み1時間)に勤務するような場合は、後に勤務するB社が割増賃金を払うことになる。
残業代未払問題には、労働基準監督署も厳しくなってきている。このようなややこしい問題を抱えてまでB社は副業を認めるかが問題である。もし副業が雇用型でなければ、労働時間通算や割増賃金の問題は生じない。
労災給付が本業・副業どちらに基づいてもらえるかの問題
もう1つ、C社は早朝6~8時に、B社では残業があって9時~21時(昼休み1時間)に勤務するようなケースを想定しよう。
月100時間前後は時間外労働していることになり、このような状況が3カ月続いて過労死もしくは脳心臓疾患・精神疾患に至ったら、労災認定もされるレベルである。労災保険の給付自体は国からもらえるが、労災給付額は給与額に基づくため、B社・C社どちらに原因があるかで労災給付額が変わる。
業務中にケガしたというケースなら複雑な問題ではない。B社では月30万円、C社では月5万円給与をもらっていたとして、C社でケガしたケースではB社でのケースに比べて労災給付額が約6分の1になる。なお2017年5月2日の日経新聞では、複数職場分の給付に拡充検討とも報道され、今後はB社・C社両社分もらえるような形も考えられる。
しかし過労となると、そもそもどちらに責任があるか特定するのも難しくなり、こちらも勤務先が複雑な問題を抱えてまで雇用型副業を認めるかが問題である。
労災給付は、本業・副業に関わらず雇用されている労働者に対してなされるものである。逆に委託型であれば、委託報酬は労災の計算基礎となる賃金ではないため、労災給付とかかわりが無く、副業が委託型だけであれば複雑な問題は生じない。
雇用型副業は本業での信頼関係維持が厳しいのでは
以上雇用型副業を巡る複雑な問題を見てきたが、従業員の長時間労働防止や健康維持も政府から企業側に強い要請があり、だからこそ副業解禁には二の足を踏む企業もある。
ネットを用いて行われるクラウドソーシングの多くは委託型であり、委託型の副業に適した働き方と言える。また、株・FX投資も広い意味での副業と言える。これらの副業も許可が必要な企業はあるが、複雑な問題は回避できるものではなかろうか。当然、健康維持には副業を行う本人が主体的に気をつける必要はある。(石谷彰彦、ファイナンシャルプランナー)