● 邦銀大手行の株価は低位圏での推移が続いている。地政学リスクの高まりと金利低迷で、なかなか上昇のきっかけはみえにくい。
● 一方、配当利回りは3~4%台後半と他業界に比べても高い。銀行は、儲からないながら資本比率は過去最高、不良債権も過去最低レベル。配当維持の確率は当面相当高い。
● マイナス金利深堀りは考えにくく、金利低下リスクも限定的。一株当たり利益も安定的に推移しそう。株価急上昇は当面望みにくいものの、高配当狙いの投資先としては有望。
軟調の邦銀株:他国の銀行株と比べても下落幅大
銀行株の予想配当利回りは商社、自動車と並び3%前後の高水準となっている(図表1。世界産業分類基準GICSによる)。それでも株価はじりじりと下落しており、東証全体の足を引っ張っている(図表2)。世界の銀行株も足元では強くはないが、とりわけ邦銀株の軟調ぶりが際立つ。低金利と地政学リスクが要因とみられる。
しかし、邦銀の財務力は過去最高
金融危機後、邦銀は、財務力の建て直しに注力した結果、財務力も過去最高となった。不良債権比率は現在の定義になってから最低水準まで低下しているし、資本比率も上昇している(図表3)。
また、金融危機の時に大きなリスク要因となった政策保有株式も、近年大幅に減少しており、市場株価が下落しても過去ほど大きな打撃は受けない構造になっている。設備投資の規模も総じて小さいため、余剰資本を株主還元に廻す余力は他業界と比べても極めて高い。
下値予想:アナリストの予想のほぼ下限に近い
このような財務力の改善を考えると、邦銀株は、これ以上下がったとしても、更なる下げ幅は限定的と思われる。邦銀株の目標株価を公表している証券会社は、銘柄によって8~14社あるが、現在の株価は、これらの目標株価のうちで最も低い株価にかなり近い値となっている(図表4)。レンジの上値まで上昇するのは(あるとしても)かなり先の話になるだろうが、下値も限定的と思われる。
見通し:株価の大幅上昇には距離はあるが、配当利回りの魅力大
金利が低迷する中、銀行株の大幅上昇のきっかけはみえない。しかし、上記の通り安定性については改善している。金利も引き上げはほど遠いながらもマイナス金利深堀りの可能性は消えており、これ以上の金利低下は考えにくい。
更に、近時各行ともに、利鞘の低下への対応として、コスト構造改革を打ち出している。国内の預貸収益は、今後も年間2~3%程度の下落が懸念され、有価証券運用益も手数料収益も市場次第であるが、コストカットだけは自力で進められる。
これらを反映し、図表5の通り、予想一株当たり利益は、殆どの銀行で今後徐々に増加するとみられる(みずほFGと三井住友FGは減少予想だが2、3%の小幅減)。このため、図表に挙げた邦銀大手行の減配リスクは当面極めて低く、高配当狙いの投資先として魅力的だと思われる (特に、あおぞら銀行、りそなHD、三井住友FGは、利益見通しと配当のバランスから要注目)。
大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券
チーフ・アナリスト
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