元プライベートバンカーで、現在はフィンテック企業の経営者として金融情報に精通する著者が、その知識と経験を初めて公開する 『プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?』 がついに発売! この連載では、同書の一部を改変して紹介していきます。

今回は、プライベートバンクと顧客の顧問税理士が衝突した場合に何が起きるのか、を見ていきます。

富裕層のお抱え税理士が外されるとき

冨田和成,プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?
(写真=ダイヤモンド・オンライン)

事業承継や資産の適正なアロケーション(配分)は経営者にとって大きな関心事であるにもかかわらず、プライベートバンク側から見てしばしば障害になるのが、その経営者と長い付き合いのあるお抱え税理士の存在です。

特に地方の富裕層になると、お金回りのことについては特定の税理士1人に全幅の信頼を寄せているケースがよく見かけられます。そういった富裕層に対してプライベートバンクが、たとえば事業承継のスキーム構築の打診をすると何が起きるか。

まず、顧客はたいてい「そんな方法があったのか!」と好反応を示します。でも最後は「話が複雑だからうちの税理士とうまくやってくれ」と言うのです。

もちろん、そこでその顧問税理士とプライベートバンクが協調体制を取れれば理想的です。でも、実際には拒絶反応を示す税理士が多く、社長に対して「あんな危ないことをして国税に目をつけられたらどうするんですか」と無駄に足を引っ張るケースが多いのです。

日本のプライベートバンクが税理士事務所などと組んで提案する内容は、「シロ」であることを徹底的に確認したうえで練られたものです。大事な顧客にとってマイナスに作用するようなものを提案するわけがありません。

このような展開になるとプライベートバンクはアプローチを変え、業界用語で「税理士はがし」と呼ばれる作戦にうって出ます。

具体的には、ミーティングの場に顧客のお抱え税理士を同席させ、プライベートバンク側が用意した税理士が、そのお抱え税理士を徹底的に質問攻めにします。プライベートバンクが用意する税理士は資産承継を得意とする大手税理士事務所の精鋭ぞろいですから、たいていの場合、相手の税理士はタジタジになります。

というのも、世の中の税理士には、確定申告は得意でも事業承継や資産承継については不慣れな人が多くいるのが実情なのです。

あえて強めに仕掛けるのは、「顧客ファースト」という当たり前のことを顧客とその税理士に改めて理解してもらうためです。「懸念材料があるからやらない」ではなく、「懸念材料があるならそれを1つ1つクリアしていく」ことこそがプロのスタンスであるはず。そういった意識の違いを知ってもらう貴重な場になっているように思います。

これをおこなうと、多くの場合、社長お抱えの税理士はそのプロジェクトから降ります。文字にすると感じが悪いかもしれませんが、医師の世界に外科、内科、小児科、産婦人科などがあるように、税理士といっても専門分野はさまざまということです。

ただし、なかには税務の最適化の知識・ノウハウを持っているのに、あえてプライベートバンクのプランに反対する人もいます。

1つの理由は、プライベートバンクの提案をのむことは、その時点まで傍観していた自身の否定につながるから。もう1つの理由は、顧問契約料が年々目減りしている状況で、複雑な仕事はできるだけ避けたいと思うからです。後者については税理士業界のビジネスモデルが抱える課題だともいえます。