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日本
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企業負担考慮した無理ない政策

長時間労働の改善のための考察-その1 – 新たな政策の無理な実施より既存の制度の定着を –

要旨

  • 日本で長時間労働による弊害と過労死が社会的に注目され始めたのは1980年代後半からである。日本における長時間労働やサービス残業は、終身雇用制や年功序列制度、そして企業福祉主義等の日本的経営が行われていた当時の状況を考慮すると、日本の雇用者にとっては会社への忠誠心を表す当たり前の行動だったかも知れない。
  • 2014年6月には「過労死等防止対策推進法」が成立され、2014年11月から現在に至るまで施行されており、2016年10月にはこの法に基づき、「平成28年版過労死等防止対策白書」が公表された。
  • 今年の2月24日からは、長時間労働の是正と個人消費の喚起を狙い、月末の金曜日は、早めに仕事を終えて豊かに過ごすという行動を官・民が連携して創り出す目的で「プレミアムフライデー(Premium Friday)」が実施されており、7月18日には第1回「大人と子供が向き合い休み方改革を進めるための『キッズウィーク』総合推進会議」が開催され、「キッズウィーク」の導入に対する議論が行われた。
  • 例えば、他の要因を固定して、既存の完全週休2日制と有給休暇の取得を完全に企業に定着させた場合、年間約232時間の労働時間を短縮することができる。
  • 新しい政策の実施による企業の負担を考慮し、新しい政策の実施のみならず、既存の政策を企業に定着させることも考えながら、労働時間短縮に立ち向かうべきではないだろうか。

長時間労働に対する今までの取り組み

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(写真=PIXTA)

日本で長時間労働による弊害と過労死が社会的に注目され始めたのは1980年代後半からである。当時の日本人の労働者一人当たりの平均総実労働時間は2,100時間程度で推移しており、他の先進国を200~300時間も上回る高い水準であった。このような長時間労働やサービス残業は、終身雇用制や年功序列制度、そして企業福祉主義等の日本的経営が行われていた当時の状況を考慮すると、日本の雇用者にとっては会社への忠誠心を表す当たり前の行動だったかも知れない。

過労死が国際的にも「Karoshi」として知られる等、マスコミの関心も高くなった結果、1988年6月には、過労死に関する電話相談窓口「過労死110番」が初めて設けられ、同年10月には、「過労死弁護団全国連絡会議」が、1991年には「全国過労死を考える家族の会」が結成され、電話相談やシンポジウムを開催する等、過労死防止の重要性が社会に訴え続けられた。その後、2011年に結成された「過労死防止基本法制定実行委員会」は、55万人の署名を集める等、国会や地方議会へ立法への働きかけを行った。その結果、143の地方議会における意見書の採択や国会において法制定を目指す議員連盟が結成される等、立法への気運が高まり、2014年6月に「過労死等防止対策推進法」が成立され、2014年11月から現在に至るまで施行されている。この法律はその施行目的を「近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与すること」としており、国、地方公共団体、事業主その他の関係する者の相互の密接な連携の下で実施することを強調している。

厚生労働省は、過労死等防止対策推進法に基づき2016年10月に初めて「平成28年版過労死等防止対策白書」を作成し、公表した。同白書では、過労死等の現状等を紹介するとともに、過労死等の防止のためのこれからの目標を、(1)2020年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合(2015年現在8.2%)を5%以下まで引き下げる、(2)2020年までに年次有給休暇取得率(2014年現在47.6%)を70%以上に引き上げる、(3)メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合(2014年現在59.7%)を80%以上に引き上げると設定している。

また、長時間労働を削減するための法律の改正や制定による取組としては、「改正労働基準法」と「労働時間の短縮の促進に関する?時措置法」(以下、時短促進法)が挙げられる。1988?4月に施?された改正労働基準法では、週40時間制が明記され、1997年からは週労働時間40時間制が全面的に施行された(一部例外あり)。また、1992?には、法定労働時間の段階的短縮を円滑に進めるため、週休 2 日制の導入等に向けた労使の自主的な取組みを支援し、年間総実労働時間を1800時間まで短縮することを目標にした時短促進法が制定された。2004年度には年間総実労働時間が1834時間まで減少したものの、労働時間が短縮した主な原因は、労働時間が短い労働者の割合が増加した結果であり、正社員等の労働時間は依然として減少していなかった。一方、労働時間が長い労働者と短い労働者の割合が共に増加し、いわゆる「労働時間分布の長短二極化」が進展することにより、全労働者を平均しての年間総実労働時間1800時間を目標に設定することは時代に合わなくなってきた。そこで、時短促進法が期限を迎える2006年4月から、全労働者を平均しての一律の目標を掲げる時短促進法を改正し、労働時間の短縮を含め、労働時間等に関する事項を労働者の健康と生活に配慮するとともに多様な働き方に対応したものへと改善するための自主的取組を促進することを目的とした「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」が現在まで施行されている。

時間労働の改善ための最近の取り組み

政府は人口や労働力人口が継続して減少している中で、長時間労働・残業などの悪しき慣習が日本経済の足を引っ張って生産性低下の原因になっていると考え、最近、働き方改革に積極的な動きを見せている。

2015年には企業及び労働者が働き方改革に積極的に参加できるように「働き方・休み方改善ポータルサイト」を開設し、事業主等に対して自社の社員の働き方・休み方の見直しや、改善に役立つ情報(働き方・休み方改善指標等)を提供している。また、厚生労働省は、労働時間等の設定の改善により、所定外労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進を図る中小企業事業主に対して、その実施に要した費用の一部を助成する助成金制度を導入・実施している。

今年の2月24日からは、長時間労働の是正と個人消費の喚起を狙い、月末の金曜日は、早めに(一般的には午後3時)仕事を終えて豊かに過ごすという行動を官・民が連携して創り出す目的で「プレミアムフライデー(Premium Friday)」を実施しており、7月18日には第1回「大人と子供が向き合い休み方改革を進めるための『キッズウィーク』総合推進会議」を開催し、「キッズウィーク」の導入に対する議論を行った。キッズウィークとは、全国の地域ごとに小・中・高校生の夏休みなどの長期休暇の一部を別の時期に取得させる制度で、有給休暇の取得を促し、子どもが家族と過ごせる時間を増やすことが制度の主な趣旨である。政府は、早ければ2018年4月からキッズウィークを実施する計画であり、これが実現されると、たとえば、夏休みを5日分短くするかわりに、学期中の月曜日から金曜日を休日にすれば、前後の土日と合わせて9連休が可能となる。

政府の動きに影響を受けていたのか、企業はノー残業デーの設定、時間外労働の事前申告制や勤務時間インターバル制度の実施、フレックスタイム制の活用、テレワーク・在宅勤務の導入など労働時間短縮のために、様々な対策を取り組んでいる。さらに、経団連と連合は今年の3月13日に、働き方改革の一環として残業時間の上限を最大で月60時間(年720時間)までに制限するという、残業時間の上限規制について労使で合意し、安倍首相に合意文書を手渡した。

既存の制度の定着で労働時間の大きな短縮が可能

このように多様な政策が実施されているにもかかわらず、日本の労働時間は未だに大きな改善が見られていない。政府は、労働時間短縮のために次々と新しい対策を発表しているものの、既存の制度をより充実した形で実施するだけで労働時間の大きな短縮が期待される。ここでは主に二つの制度の効果について試みた。

最初に最も大きな効果が期待されるのが「完全週休二日制」である。労働者が法定労働時間、つまり1日8時間、1週間に40時間だけを働く場合は、「完全週休2日制」が適用されていると言える。しかしながら労働基準法では「完全週休2日制」を強要しておらず、企業によっては「週休2日制」を適用するケースも少なくない。「完全週休2日制」が、1年を通して毎週2日の休みがあることを意味することに比べて、「週休2日制」は1年を通して、月に1回以上2日の休みがある週があり、他の週は1日以上の休みがあることを表す。厚生労働省の調査結果(*1)によると2015年現在「完全週休2日制」を実施している企業の割合は50.7%で、「完全週休2日制」を実施している企業が少しずつ増えているもののまだ完全に定着しているとは言えないのが現在の日本の状況であるだろう。例え、今まで、週休2日制を実施していた企業が完全週休2日制を実施することになると、労働時間は年間157.8時間も減らすことができる(式1)。

式1)
完全週休2日制を実施した場合の休日→ 52週×2日=104日
週休2日制を実施した場合の休日  → (40週×1日) +(12週×2日)=64日
休日の差→ 104日-64日=40日
40日を労働時間に換算すると 40日×8時間=320時間
320時間×49.3%(週休2日制を実施している企業の割合)=157.8時間

→ 週休2日制を実施した企業が完全週休2日制を実施することにより年間「157.8時間」の労働時間が短縮

次に二つ目の対策としては、有給休暇の取得率を引き上げることである。日本政府は長時間労働に対する対策として年次有給休暇の取得を奨励しているものの、有給休暇の取得率もあまり改善がみられない。図2を見ると、2015年の労働者一人当たりの年次有給休暇の取得率は48.7%で、2004年の46.6%と比べて大きな差がなく低水準にあることが分かる。また、2015年の年次有給休暇の平均取得日数も8.8日で、2004年の8.4日と大きく変わっていない。

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そこで、有給休暇の取得率を100%に引き上げると、2015年基準で9.3日の労働時間を減らすことが可能であり、これを労働時間で換算すると74.4時間になる(式2)。

式2)
有給休暇の平均付与日数-平均取得日数=18.1日-8.8日=9.3日
9.3日を労働時間に換算すると 9.3日×8時間=74.4時間

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(*1)厚生労働省(2014)「平成 26 年度 労働時間等の設定の改善を通じた「仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査」
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結びに代えて

本稿ではすでに実施されている二つの制度を日本に定着させることにより、労働時間をどのぐらい短縮できるのかを試みて見た。計算はあくまでも他の要因を固定したシンプルなものであるものの、既存の二つの制度を日本のすべての企業が実施した場合、年間約232時間を減らすことが可能であるという結果が出た。2015年時点の一般労働者の平均総実労働時間2,026時間から232時間が短縮された場合、一般労働者の労働時間は1,794時間まで減少する。同年のパートタイム労働者を含んだ平均総実労働時1,734時間に近づく数値であり、労働時間が短いオランダ、フランス等との差もある程度縮めることができる。

政府は労働時間短縮を目指して、今年の2月からプレミアムフライデーを実施しており、さらに今後キッズウィークの導入のための議論も行っている。政府の労働時間短縮に対する意志は理解できるものの、次々と実施される新たな政策に対する企業の負担は大きいと考えられる。特に中小企業は、資金や労働力不足に悩んでいるところが多く、新しい政策にすぐ対応できる体制作りが難しいだろう。例えば、日本生命が今年の8月に全国の企業を対象に実施した「ニッセイ景況アンケート調査結果-2017年度調査」によると、労働時間短縮のためにプレミアムフライデーを取り組んでいる企業は回答企業の1.4%に止まっている。さらに、企業規模別のプレミアムフライデーの実施率は、大企業が2.6%なのに対し、中堅企業や中小企業は両方とも1.2%で大企業の実施率を下回っている。また、同調査(*2)では、回答企業の64.3%が労働時間短縮を含めた働き方改革の実現に向けた、政府の最も重要な役割として「企業の負担を考慮した無理ない政策の設定」を挙げている。

政府は、新しい政策の実施による企業の負担を考慮し、新しい政策の実施のみならず、既存の政策を企業に定着させることも考えながら、労働時間短縮に立ち向かうべきではないだろうか。

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(*2)詳細は、金明中・白波瀨 康雄(2017)「ニッセイ景況アンケート調査結果-2017年度調査」。
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金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

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