要旨

株式市場,展望,投資戦略,日経平均
(写真=PIXTA)

日経平均株価は10月13日に2万1,000円を超えた。終値で2万1,000円を回復するのは1996年11月29日以来の約21年ぶりとなる。北朝鮮問題など地政学リスクへの懸念が払拭できないなか日経平均はどこまで上値を追えるのか。今後の株式市場を展望し、投資戦略を考える。

ポイントは以下の3つ。アベノミクス前と比べて日本企業の“稼ぐチカラ”(=1株あたり利益)が過去最高に増えたのだから、株価が最高値を更新するのは当然である。2万1,000円は身の丈に合った水準で、まだ割高とはいえない。

しかも、世界的に好調な景気や円安を背景に、日本企業の業績は一層の改善が見込まれる。その結果、日経平均の適正水準は2万2,000円~2万3,000円に引き上がる可能性が高い。

北朝鮮問題や米国株急落などのリスクはあるが、単に市場心理の悪化で株価が下落したときは「買いどき」とみていい。ただし、米景気の腰折れや軍事衝突など業績悪化が見込まれる場合は慎重な見極めが肝心だ。

ポイント

1.2万1,000円は通過点に過ぎない
2.まだ割高ではないうえ、日本企業は一層の業績改善が見込まれる
3.市場心理の悪化で株価が下落したときは「買い」のチャンス

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はじめに

日経平均株価は10月13日に2万1,000円を超えた。終値で2万1,000円を回復するのは1996年11月29日以来の約21年ぶりとなる。国内では衆院選を控える一方、海外では米トランプ政権や欧米の金融政策の先行き、さらに北朝鮮問題など地政学リスクへの懸念が払拭できたとはいえない。日経平均はどこまで上値を追えるのか、今後の株式市場を展望する。

きっかけはトランプと北朝鮮

1万9000円台で足踏みが続いていた日経平均が上昇基調に入ったのは9月11日だった。きっかけは、それまで株価の重石となっていた米トランプ大統領と北朝鮮という皮肉な格好だ。米国では連邦政府の債務上限問題が警戒されていた。債務上限問題とは、簡単にいえば米政府は新規の借り入れを法律で制限されており、10月にも資金が枯渇する恐れがあった。実際に資金不足となれば国民への年金支給や政府機関職員の給与支払いに支障をきたすほか、米国債の元利金を支払えず米国政府が債務不履行(デフォルト)に陥る可能性すら指摘されていた。

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この問題を回避するには債務上限を引き上げる法案を米議会が可決することが必要だが、ロシアゲート疑惑や人種差別発言などでトランプ政権と議会の溝は一向に埋まらずにいた。ところが9月6日、急転直下で野党・民主党と12月中旬まで債務上限を引き上げる案で合意した。8月下旬に米国を襲った巨大ハリケーンの被災地支援を名目に、トランプ政権が支持率回復を狙ったものと推測される。

一方、北朝鮮問題を巡っては、9月9日の建国記念日に軍事的挑発行為を行うのではないかと懸念されていた。北朝鮮が再び挑発行動に出れば円高・株安といった市場の反応が想定されたため、積極的に買いづらい状況が続いていた。しかし、北朝鮮が具体的な行動を起こさなかったため市場の警戒感が和らいだ。

さらに、9月19~20日に開かれた米FOMC(連邦公開市場委員会)で金融政策の正常化(FRB資産の圧縮)が予想どおり決定されたことに加えて、今後の利上げについてもFRB(連邦準備制度理事会)が前向きな見通しであることが判明した。これにより金融政策の先行きに関する不透明感が薄らいだと同時に、米国の経済指標は良い内容が相次ぎ発表されたため米国の金利と株価が上昇 → 円安・日本株上昇という好循環が生まれた。

日本国内でも衆議院解散・総選挙という材料はあったが、もっぱら外部環境が好転したことで、元々、企業業績に対して割安だった日本株を素直に評価しやすい環境が整ったということだろう。

2万3,000円も射程圏内に

◆2万1,000円回復は当然の結果

ところで、日経平均は10月13日に終値で2万1,000円を回復した。約21年ぶり、もちろんアベノミクス相場が始まって以来の株高は大きなニュースとなった。一部には「高値に警戒」といった論調もあるが、本当にそうだろうか?

図2は日経平均株価と日経平均ベースの予想EPS(1株あたり予想利益)の推移である。野田首相(当時)が党首討論で衆議院解散を宣言した2012年11月14日と比べて、日経平均株価は2.4倍に値上がりした。一方、同じ期間にEPSは2.2倍に増えた。EPSが増えたということは企業業績が改善した、すなわち日本企業の“稼ぐチカラ”が増えたのだから株価が上昇するのは当然である。

しかも、図2で株価とEPSのグラフがぴったり重なっているときはPER(株価収益率)が15倍であることを意味する。PERとは企業業績に対する株価の割高/割安を判定する伝統的な指標のひとつで、14倍~16倍が適正水準の目安とされる。9月以降、株価が急上昇したとはいえ足元のPERは15倍弱なので、少なくとも業績面から割高感は無い。日本株が実力どおりに評価されてきただけだ。

つまり、「21年ぶりだから」とか「アベノミクス始まって以来の高値を更新したから」というのは科学的・理論的根拠のない単なる感情的なものに過ぎない。株価の根幹をなすのは企業業績なのだから、株価の絶対水準ではなく企業業績と比べて考えないと割高/割安の判断を誤りかねない。

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◆来春には2万3,000円も視野に

この先も緩やかな株価上昇が期待できる。間もなく本格化する3月決算企業の中間決算(2017年4~9月期)で、通期見通しの上方修正が相次ぐことがほぼ確実視されるからだ。図3は2000年度~2016年度において、企業自身による業績予想を期初予想=100として指数化したものだ。中間決算時点で通期見通しを引き上げたのは過去17年間のうち12回に及ぶ。日本企業の業績予想は保守的と言われる様子がデータでも確認できる。

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逆に下方修正となったのはリーマンショック(08年度)、東日本大震災(11年度)、ITバブル崩壊(00年度)など5回だけで、特殊な年に限られる。今期もいまのところ世界的な経済ショックは起きていないこと、図4のとおり主要企業の多くは想定為替レートを1ドル=105~110円と実勢よりも円高に置いていること等を考え合わせれば、例年通り中間決算時点での上方修正は間違いないだろう。ちなみに図3には掲載していないが、年度末の実績が期初予想を上回ったのは過去17年のうち13回であった。

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実際に通期見通しが上方修正されると、日経平均の適正水準は2万2,000円~2万3,000円に引き上がることが想定される。その根拠は図5のとおりだ。17年度のEPS(1株利益=企業の稼ぐチカラ)は9月末時点で1,414円(前期比9.2%増)だった。これが12.0%増の1,450円まで上方修正されると仮定する。業績改善が確認されると投資家心理も和らぎ、PERが15倍強に切り上がることが期待できる。その結果、22,000円(=1,450円×15.2倍)程度が適正水準となるだろう。仮に想定以上に業績が良く、EPSが1,500円(前期比15%増益)まで上昇した場合は、2万3,000円が視野に入ってくる。久しぶりに株価の先高感を描きやすい状況といえよう。

もっとも、9月以降の株価上昇が急ピッチだったことや、心理的な節目となる2万1,000円を回復したこと、そもそも株価の割安感が薄れてきたことで目先は上値が重くなる可能性が高い。当面は2万1,000円を挟んだ展開が続き、中間決算が出揃う11月中旬以降、年度末に向けて徐々に上昇するイメージだ。

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当面の重要なリスク要因と投資戦略

◆2大リスク要因は「北朝鮮」と「米国株の急落」

前述のように向こう半年程度を見通せば株価の先高感が強いものの、年度末まで一本調子で値上がりすることはないだろう。一時的に円高・株安となるリスク要因は少なくないからだ。

日本株にとっての2大リスク要因は「北朝鮮」と「米国株の急落」と考える。北朝鮮については、本当に軍事衝突になると考えている人は少ないだろう。だが、北朝鮮リスク自体が無くなったわけでもなければ、軽減されたわけでもない。ここ数週間は北朝鮮が具体的な挑発行動を取っていないため北朝鮮リスクに対する警戒感が和らいだだけで、いつ再燃するか予断を許さない状況が続く。むしろ、いずれ確実に再燃すると思っておいた方が良いだろう。

特に警戒されるのは12月17日の金正日(前総書記)の命日だ。というのも、前総書記は「朝鮮半島を核武装せよ」という遺言を残しているそうだ。その心は、核を保有していれば米軍などに空爆されずに済むうえ、外交上の交渉を有利に進められるという狙いがあるのだろう。息子(金正恩)は父の教えを忠実に実行していると考えれば、北朝鮮が核を放棄する可能性は低い。むしろ、今後も折に触れて核を保有していること、そして長距離ミサイルで米国をも攻撃できることを世界中にアピールすることになろう。その有力候補が12月17日というわけだ。

一方、上昇を続ける米国株は割高感が否めない。米国企業の業績改善が見込まれているとはいえ、将来1年間の予想利益に基づくPERは18.0倍だ(S&P500)。日本(TOPIX)の14.3倍、欧州(STOXX600)の15.1倍と比べても高すぎる水準といえよう。背景には言うまでもなく米国景気の好調さもあるが、米国の金融政策が株式市場に優しいことも挙げられる。米FRBは金融政策の正常化に向かっているものの、正常化のペースは株価に悪影響を及ぼさない程度のゆっくりとしたものになるだろうと期待されているからだ。

いわば米株式市場は「心地よい適温相場が続く」とタカをくくっている状態だが、次期FRB議長の人事を巡って転機が訪れるかもしれない。近いうちに決まるとされる次期議長が利上げに積極的なタカ派であれば、市場から資金を吸い上げるペースの拡大と米景気の腰折れを懸念して、米国株は急落する可能性がある。次期議長が実際は市場に優しい人物であっても、大事なのは「市場がどう受け止めるか」であるし、これまでの株価上昇で十分に利益が出ている投資家が絶好の“売り時”とみなすかもしれない。米国株が急落すれば、当然ながら日本株も煽りを受ける。いくら日本株の先高感が強いといっても、米国株急落の影響は避けられないだろう。

◆株価下落の要因を見極めて、基本は「下がったら買い」

問題は、北朝鮮リスクや米国株急落リスクが顕在化したときに、日本株の投資家がどう対応するべきかで、最も重要なポイントは1つと考える。

仮に北朝鮮のミサイルが日本の上空を通過(日本の東側の公海上に落下)したり、北朝鮮国内で核実験を実施して日経平均が下落した場合は「買い」で対応すれば良いだろう。なぜなら、ミサイル通過や自国内での核実験が原因で日本企業の業績が悪化するとは考えられない。つまり日経平均の適正水準(EPS=1株利益)は変わらないので、市場心理の悪化(PERの低下)で株価が下がったことになる。この場合はPERの低下は一時的と考えられるので、下がったところで買えば“株価の戻り”で利益を狙うことができるはずだ。

米国株の急落が原因の場合も同様に考えれば良いだろう。すなわち、米国株が急落すると、グローバルな投資家が保有する日本株を早めに売却したり、ニュースを知って「とりあえず売ろう」という投資家が増えることが予想される。しかし、これも単なる市場心理の悪化(PERの低下)に過ぎないので、やはり「下がったら買い」と考える。

ただし、本質的な理由で日本株が下落した場合は別の話だ。考えたくないが、たとえば北朝鮮が自暴自棄を起こして(1)グアム方面にミサイル発射、(2)米国や国連軍と軍事衝突、(3)日本の領土を攻撃するなどのケースだ。(2)や(3)のような直接的な軍事行動が無くても、グアム方面に発射したらステージが変わるかもしれない。米国の出方が分からなくなるので、完全に下げ止まるまでは手を出さない方が無難だろう。

米国株についても、急落の原因が単に「金融政策スタンスが変わるかもしれない」という心理的な市場の反応でなく「米景気の腰折れ」の場合は日本企業の業績にマイナスの影響が及ぶ可能性が高まるので注意が必要だ。

井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

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