個人投資家の間でIPO投資の人気は高い。特に期待の集まる企業のIPO案件の競争率は激しく、なかなか買えない。投資をするならまだ未上場の有望なスタートアップだろう。

未上場のスタートアップに投資を行い、上場や買収などエグジットで高い値がつくことは投資家にとって嬉しいものだ。それは「利益が出るから」という理由だけではない。まだ市場に広く知られていない企業に目を付け、「この企業は評価に値する」「成長する」「成長して欲しい」と込めた思いが周囲から認められたということでもあるからだ。

シリコンバレーにはそうしたいわゆる「エンジェル投資家」がたくさんいる。GoogleやPayPalに初期投資を行ったロン・コンウェイ氏、Facebook、Airbnbなどに初期投資を行ったレイド・ホフマン氏、UberやTwitterなどに初期投資を行ったナヴァル・ラヴィカン氏などが有名だ。彼らはシリコンバレーの誰もが注目する「時の投資家」だ。

日本では未上場企業への投資をしようと思っても、一般の投資家には情報や機会がない。それを解決すべく、株式投資型クラウドファンディングサービス「エメラダ・エクイティ」が今日11月7日から始まる。野村證券とゴールドマン・サックスを経てエメラダ株式会社を創業した代表の澤村氏は、「未上場の成長企業をサポートする『次世代オンライン金融機関』になり、その一つの施策として拡大版エンジェル投資家を生み出したい」という。澤村氏にサービスの概要や狙いをうかがった。(構成=濱田 優・ZUU online編集長)

澤村帝我(さわむら・たいが)
共同創業者 兼 CEO(最高経営責任者)。1985年生まれ。2008年慶應義塾大学総合政策学部を卒業、野村證券入社。その後転じたゴールドマン・サックス証券も含め一貫して企業買収や資金調達の助言業務に従事。2016年に退社してエメラダ株式会社を創業、代表取締役社長に就任。現在に至る。エメラダ: https://emeradaco.com/

「日本版エンジェルリスト」で未上場企業への投資機会を創出する

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(画像=Webサイトより)

−−11月から株式投資型クラウドファンディング「エメラダ・エクイティ」のサービスを始めるそうですが、どういうサービスなのでしょうか?

11月7日にサービスローンチしましたが、われわれはこれを「日本版エンジェルリスト」と呼んでいます。

「エンジェルリスト(AngelList)」はご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、2010年にシリアルアントレプレナー(連続起業家)のナヴァル・ラヴィカンらが創業した米国のサービスです。サービス内容は主に2つで、スタートアップとエンジェル投資家のマッチング、スタートアップと採用候補者のマッチングです。毎年多額のエクイティがファイナンスされている、米国で一番普及している株式投資型クラウドファウンディングサービスです。一定以上の収入や資産を持った投資家であれば、Webサイトで主にアーリー・ミドルステージのスタートアップに対して投資できます。

有名なところでは、昨年、自動運転のセンサー部品を作っているスタートアップ・クルーズオートメーションがエンジェルリストで資金調達をした後、GM(ゼネラルモーターズ)に10億ドルで買収されています。

米国では既にそういう生態系ができています。オンラインを通じて一般の個人投資家に、そういう未上場のスタートアップに早い段階で投資をする機会が出てきているということだと思います。

−−御社のサービスの概要はどういったものでしょうか。

サービス名は「エメラダ・エクイティ」で、個人がスタートアップに対して最大49万円まで投資できます。投資対象は証券です。MakuakeやCAMPFIREなどのように、プロジェクトが成功したら商品がもらえるという購入型クラウドファンディングとは異なります。そうではなく、IPOもしくはM&Aをした場合には投資家がリターンを得られるという仕組みです。49万円は1社に対しての上限で、複数のスタートアップに投資することも可能です。投資単位は、サービス開始時点では14万円、35万円と49万円という3段階を用意しています。

−−50万円よりもっと投資したいという声があった場合は?

そこは金融商品取引業法の制限があります。50人以上の投資家に未上場の株を勧誘することは制限されていますが、第一種少額電子募集取扱業者であるエメラダは、オンラインによる勧誘であれば50人を超える多数の個人投資家に対して行うことが許されています。ですが、1件50万円以下という制限があります。今後は、より柔軟な投資ができるような制度の在り方について、金融庁、関東財務局、日本証券業協会などと協議をしていく必要があると考えています。

−−株式投資型クラウドファンディングの利用を促すための規制緩和によるものですね。

はい。ただし、スタートアップは一社当たり年間発行総額1億円未満、個人投資家はスタートアップ一社につき年間投資額50万円以下という制限があります。投資金額の制限は投資先一社当たりの制限ですので、個人投資家は、複数社に投資をすることができ、結果としてスタートアップへの投資ポートフォリオ残高は50万円を上回ることができます。

プロが目利きして実際に投資している案件のみ紹介する

(写真=ZUU online編集部)
(写真=ZUU online編集部)

−−米国のエンジェルリストをはじめとして、海外には類似サービスはあると思いますが、エメラダ独自、御社ならではのサービスの部分はどこですか?

われわれは、個人投資家に、プロの目利きを通過している案件のみを提供します。スタートアップを経験している、あるいはその業界のプロフェッショナルなど、投資の目利きができるエンジェル投資家が投資している、もしくはベンチャー・キャピタルが投資していること。これを前提条件にしています。米国の株式投資型クラウドファウンディングでも、こうした「先行投資家」の有無がお金を集める上での重要なポイントになっています。

われわれはある意味で“スタートアップの未上場証券取引所”になっていくわけで、個人投資家をそこに招待する以上、参加するスタートアップについては一定の基準を設ける必要があると考えています。

なぜこのプロの投資家による投資が前提条件になるかというと、成長にコミットする姿勢、IPOやM&Aといったエグジットというものをある時点までにしっかりと意識するガバナンスが整っているかどうかが重要だからです。外部の投資家が入るということは、いつかどこかのタイミングで現金化をする機会を見据えて、しっかり経営層が自社の成長にフォーカスしているはずです。

今回「エメラダ・エクイティ」での資金調達を決めた Far Yeast Brewing社 (FYB社)には、複数のエンジェル投資家が出資をしています。一例でいうと、FYB社に出資をするネットキャピタルパートナーズは、メルカリが2017年2月に買収を発表したザワット社へのアーリーステージ出資などもしていました。

逆に外部の投資を受け入れていない未上場企業は、そもそもIPOやM&Aに関心がないかもしれません。もしそういう未上場企業が誤ってエメラダのようなサービスを使うと、せっかく投資いただいても、お互いに望ましくない状態になってしまう可能性があります。

−−投資先の業種はどういうところが想定されますか?

業種については特に制限を設けていませんが、想定しているのは大きく3種です。

まずやはり多いのはテクノロジー関係ですね。アプリケーションやWebサービスで新しい領域を切り開いている会社です。現在、多くのテクノロジー領域のスタートアップ様に「エメラダ・エクイティ」の活用をご検討いただいています。

次に、既存産業で新しいトレンドを取り入れてるスタートアップです。たとえば米国では、クラフトビールが一大ブームになっていて、クラフトビールメーカーがIPOしたり、大手メーカーに買収されたりしている。消費財というのは本来古い産業ではあるものの、そこにクラフトといった新しいトレンド要素を入れているスタートアップ企業はたくさんあります。今回「エメラダ・エクイティ」での資金調達を決めたFar Yeast Brewing社はまさにこのカテゴリーです。

3つ目のセグメントは、ハードウェアのスタートアップです。ハードウェアメーカーは最初資金がかなり必要です。まだ製品がないこともあって銀行などからはお金を借りにくいものの、ハードウェアは市場で需要があればものすごく成長する領域でもあります。実際、このジャンルのスタートアップでも多くが上場したり、M&Aされたりしています。たとえばIoTやVRなどの機器を作っていらっしゃるメーカーなどが考えられます。

−−公開時には分かると思いますが、それぞれの投資規模はだいたいどれくらいになりそうでしょうか。

5,000万円前後の調達を希望している企業が多いですね。まずは1件ずつ案件を公開していき、個人投資家の皆様とコミュニケーションを取りながら、徐々に案件を増やしていきたいと思います。

【参考】
Far Yeast Brewing株式会社募集ページ

未上場の成長企業をサポートする「次世代オンライン金融機関」になる

(画像=Webサイトより)
(画像=Webサイトより)

−−未上場企業への投資はIPOなどが成功すればリターンは大きいですが、上場できないかもしれないなど、リスクもあります。読者にはマチュアな投資家もいれば、これから投資を本格的に始めようという方もいます。株式投資型クラウドファンディングに投資する際の注意点などを教えていただけますか?

スタートアップに限らず、投資リスクの把握という意味では、おっしゃるように「すべての投資が100%お金が返ってくるわけではない」ということは忘れてはいけません。債券ではないので、戻ってくることが約束された投資ではありません。

さらに、株式投資といっても上場企業とは違います。スタートアップへの投資は流動性も低く、最初に入れたお金はしばらく寝てしまう可能性がある。たしかにうまく行けば何倍、何十倍になる可能性もある一方で、ゼロになってしまう可能性もあります。

一般的にスタートアップへの投資というものは、例えば10件投資をして、その中で数件がエグジットすることで投資金額全体の元本を上回って回収することを期待するというものです。

だから分散投資が極めて推奨されている投資セグメントです。どこか1社だけに投資するよりは、たくさんの会社に分散して投資いただいたほうがいいかもしれません。

——ある程度なれた方のほうがいいのでしょうか。どういう投資家に参加してほしいですか?

これはわれわれの思いですが、個人投資家の皆様には投資先の企業を応援していただきたいと思っています。スタートアップにはビジョンがあり、優秀な経営者がいる。それをサポートするプロの投資家もいる。ただ、大きくなっていくためには、事業を早くスケールさせる必要があって、それには「点」だけではなく「面」のサポートが必要です。

——「面のサポート」ですか?

そもそも、優秀なエンジェル投資家やベンチャー・キャピタルは、過去から蓄積される経験、人脈、知識等を活用して、スタートアップがミスなくスケールするためのサポートをします。

Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏は、ある有名なインタビュー番組で著名ベンチャー・キャピタリストのジョン・ドーア氏と初めて会った時の話を回顧しています。ジョン・ドーア氏は、米著名ベンチャー・キャピタルのクライナー・パーキンスの投資責任者で、Amazonへの投資もしました。創業間もない時に、ジョン・ドーア氏はジェフ・ベゾス氏に対して「成功するスタートアップは、貴重な初期の調達資本を活用して、リスクを組織的に排除するものだ(“what start-up companies do is they take their precious early capital dollars and systematically eliminate risks”(※原文))」と言ったそうです。

要は、革新的なサービスの普及は市場選択とタイミングがすべてで、スタートアップはミスしなければうまくいくという話なのですが、ジェフ・ベゾス氏ですら、アーリーステージで様々な意思決定のミスを犯したものの、結局は市場選択とタイミングが良かったからAmazonは成功したという認識を持っています。でも逆を言うと、アーリーステージのスタートアップは、いかにリスクを組織的に排除するかという点がカギになるのではないでしょうか。

私はエンジェル投資家でもなければベンチャー・キャピタルを運営している身ではありません。ですが、スタートアップがミスなく初期ステージを乗り切る安定装置がエンジェル投資家やベンチャー・キャピタルに求められているのだと思います。そういう意味で、プロの投資家の存在は本当に大切ですし、今後も必要とされ続けるでしょう。

ただ、投資者はより高いレベルで、付加価値を提供できると私は考えています。われわれが提供する株式投資型クラウドファウンディングなら、スタートアップは数百人の投資家、サポーターを得られます。エンジェル投資家やベンチャー・キャピタリストなどのごく少数の人の英知が求められる部分もあれば、多数の個人、すなわち「面」のサポートが求められる部分があるはずです。プロのお金と多数の個人のお金は補完的になるはずです。

たとえば投資してもらったスタートアップ側から個人投資家に連絡があって、「われわれはこういう事業を今後やりたいと思ってる。こういう人を探しています。採用したいと思っている」とか、「こういう企業を紹介して欲しい」、「こういう情報をSNSとか身の回りで拡散して欲しい」といったお願いがあるかもしれません。そういう採用や顧客紹介、PR、こういう観点でサポートをして欲しいと思っています。

——応援したほうが投資家にとってもメリットになりますね。

サポートが投資先企業の早期の成長につながるわけですからね。そういう応援、サポートを是非していただきたいです。こうしたことはオンラインでできます。企業とサポーター(投資家)がオンラインでコンタクトをとることを、われわれのほうでもサポートさせていただくことも検討しています。

−−サポーター同士はお互いにその存在が分かるのでしょうか?

今のところ、サポーター同士がお互いに分かる仕組みにはしていませんが、スタートアップによってはそれを共有する可能性もあるのではないでしょうか。

−−投資家、サポーターはみんな「この会社いいな、伸びて欲しいな」と思ってる気持ちは同じですからね。

そうですね。会社によってはたとえばイベントや交流会を開くかもしれない。結構、個人投資家の気持ちや行動がある、熱のある投資だと思うんです。アーリーステージであるからこそ、個人のサポートがすごく大事で、それが「熱量」になっていくのだと思います。

−−株を買った企業の商品を応援するつもりで買うという投資家もいますが、大企業より小さい企業のほうが、応援する行為、誰か紹介するとか、TwitterとかでPRする行為一つひとつの持つ意味は大きいですよね。

おっしゃる通り大きいですね。自分の貢献が占める割合が10,000の1なのか、100の1なのかで、気持ちは全然違いますよね。そしてそのサポートが自分にも返ってくる。そういうマインドセットを持ってる人に投資をしていただきたいです。

−−今回始める「エメラダ・エクイティ」のほかにもレンディングサービスを準備されているとうかがいました。そちらはどういったものでしょうか。

レンディング事業も含めてわれわれが目指しているのは、今後の日本を支える「未上場の成長企業の成長をサポートする次世代オンライン金融機関」になることです。

われわれのコア顧客は、3種あると思っています。㈰立ち上がったばかりのスタートアップ、㈪IPOやM&A手前のミドル・レイターステージのスタートアップ、そして㈫上場とかM&Aをやる事は考えてはいないもののちょっとずつ成長したい成長中小企業です。「エメラダ・エクイティ」は、立ち上がったばかりのスタートアップを対象としたもので、ミドル・レイターステージのスタートアップや成長中小企業には柔軟な借入れ機会を提供したいと思っています。

それぞれ違う悩みがあるわけですが、ただ既存の金融機関が対応しきれていないというところがあります。いずれの企業も経営者で多いのは30代くらい、続くのが20代や40代くらいですが、いずれの方もオンラインを使った合理的なコミュニケーションを好む世代です。われわれの強みは、いかに合理的に、オンラインで効率的なコミュニケーションを企業と取るかです。そして、個々の企業ニーズに合った金融商品を提案できるかということ。簡単な領域ではないですが、やりがいがある領域です。

未上場の世界における情報の非対称性を解消したい

−−証券・投資銀行から起業されたわけですが、「なぜやるのか」というところのきっかけを教えてください。

私の根本的な問題意識は、「いかに未上場企業の経済活動に必要なお金の流れを効率化するのか」ということです。

私はゴールドマン・サックスやその前の野村證券で8年強、投資銀行業務に従事していました。M&AやIPO、株や債券の発行のお手伝いをしていましたが、基本的に顧客は大企業でした。大企業の資金の流れというのは効率的な市場なんですね。情報が対称なマーケットなんですよ。

「情報が対称」というのは、資金が必要な企業とそれを提供する金融機関(証券会社や銀行)の間には情報格差がないということです。資金ニーズのある大企業には財務部長やCFOが居て、この人たちはその道で長い経験があって判断能力もあります。一方の金融機関側も、いろんな金融機関がこぞって1つの会社に様々な提案をしているので、選択肢がある。

判断できる人が居て、いろいろなバリエーションがあって、そこから最適な判断をするという世界。だから効率的なんです。

一方で、未上場企業の世界は極めて情報が非対称で、効率性がない。そして私は、この効率性がないからこそ日本経済の次代を担うエネルギーが欠けていると思います。ここに効率性をもたらすためには、企業にちゃんと判断できる人をそろえるか、いろいろな選択肢の金融商品を提供することが必要です。ただ残念ながら立ち上がって間もない企業が、経験豊富な財務部長やCFOを必ず採用できるとは限らない。

だからこそ、選択肢を新たに提供して、それを分かる形で企業、起業家に伝える必要がある。そこでわれわれが新しい金融商品をつくり、オンラインでコミュニケーションを取っていきます。

やはり単純に既存の金融機関だけではダメで、やっぱり新しい、滑らかなインターフェースで、合理的な形で、新しい付加価値をオンラインで提供していかなきゃいけないと考えています。これが、「未上場の成長企業の成長をサポートする次世代オンライン金融機関」になるという考えの背景です。

「ど真ん中」でやりたい/金融に足を踏み入れたきっかけはマネックス証券でのバイト

−−その問題を解決するために、いろいろなやり方がおそらくあったと思います。その中でもこのやり方を見つけるに至った理由は何ですか?いくつかの選択肢から比較検討されたのでしょうか?

最終的には起業するかしないかは「勘」なのですが、ゴールドマン・サックス証券時代にアメリカに行く機会もあったので、海外の世界では日本よりも圧倒的に速く、大規模に、オンラインを活用したサービスが生まれていることを知りました。自分のバックグラウンドを生かしながら、日本の環境をよりよくすると考えたときに自然とこのサービスに思いが至りました。

−−昔から「いつか起業したい」という意欲はお持ちだったんでしょうか?

そういう気持ちはすごく強かったです。それまでは「ど真ん中のど真ん中をやりたい」と思っていました。

「ど真ん中」ってどういう事かというと、法人のお金の流れって経済のど真ん中だと思うんですね。規模も影響力も大きいです。ここを変えるには、投資銀行しかないと思って、日本の最大手で一番日本のお金を動かしている野村證券に入りました。ゴールドマンに移って同じ仕事をしたのも、グローバルなお金の流通に関わり、知りたかった。「日本のど真ん中」から「世界のど真ん中」に移ったつもりでした。

そして今目指している新しいど真ん中はテクノロジー、フィンテックです。今後、金融はどう変わっていくのかと考えたとき、間違いなくテクノロジーに頼っていくわけです。これは「新しいど真ん中」だと思います。

企業金融において「日本のど真ん中」を見て「世界のど真ん中」を見た。その2つのど真ん中の軸が、テクノロジーによってシフトしていくと思いました。ずっと「真ん中」に関わり続けているのは、それこそが、「自分が本当に世の中のためなる」と思えるからです。

−−ご自身の中では、起業も、フィンテックの道を選んだのも当然の流れだったんですね。あまり迷うようなことはなかったのでしょうか。

そうですね。ただ「そもそもなんで金融だったのか?」というのは、大学時代にマネックス証券でアルバイトをしていて、松本大さんのそばで働かせてもらう機会があって、松本さんの背中を見て、「金融って面白い」と思ったというのがきっかけですね。マネックス証券に行ったのは、社会人の先輩から誘われたふらっと、という偶然なんですが (笑)。

−−金融業界に就職したいからマネックス証券にバイトに行って経験やネットワークをつくろうと思っていたわけでは?

ではないですね。当時は慶應義塾大学の総合政策学部に所属していて専攻が国際関係、中国研究だったんです。ある意味それも「世の中のど真ん中」だと僕は思ってたんですけど。

フィンテックは文化の衝突だ

−−人材採用や組織運営について教えてください。

採用や組織運営にあたっては、フィンテックが異なる文化の衝突だという認識をもって臨んでいます。既存の金融業界で活躍してきた人と、テクノロジー側の人がいます。既存の金融業界で活躍してきた人の中でも、バックグラウンドが営業の方もいれば管理の方もいます。大枠だけイメージして突き進む人もいれば、石橋を叩く人もいる。テクノロジー業界で活躍してきた人の中でも、スタイルは異なります。20代や30代の人もいれば、50代や60代の人もいます。めざすゴールに対する考え方、期待値、アプローチの仕方の衝突だと思います。

われわれの存在価値は、既存のレガシー金融機関のもとでうまれた金融というものを、いかに滑らかにするか、いかに合理的なものに落としてこみ、顧客である企業に提供していくかです。そこにはテクノロジーの力が必要ですし、金融業界に居なかった人間を巻き込みながら、どういう風にしたら滑らかにできるか、どういう風にやったら合理的・機能的にものをつくりかえられるか、どうやったら付加価値を提供することができるかを議論し、実行していかなければいけません。

これは言うほど簡単な作業ではありません。レガシーの人たちには「こうあるべきだ」というものがある。その中で、残さなきゃいけないところは残し、テクノロジーの分野から引っ張って残さないほうがいい部分もあります。そこで文化の衝突が起きるわけです。

その文化の衝突をあえて起こしながら、そこに方向性を見出していきます。苦労する瞬間もたくさんありますが、ここは興味深く取り組んでいます。方向性は示し、妥協はできません。会社の文化をそういう形にしていきたいですね。

−−企業経営者に求められることはいろいろあると思いますが、一つは、社会問題を見つけ、それを解決することでわれわれは社会の役に立つんだという、「これは成し遂げたい」「これを成し遂げよう」というビジョンを掲げること。そして、社員同士のコミュニケーションやぶつかり方も含めて組織をマネージメントすることも求められると思います。澤村さんはどういったタイプの経営者だとご自身を評価されていますか?

私はどちらかというと感覚的に「これだ」と思うビジョンを掲げて、そこに向かって猪突猛進するタイプですね。あんまり全体のバランスまでは気にしていません。意図的な場合もあれば、意図的でない場合もありますが、社内で文化の衝突を起こしているということはあります。

もっと穏便にやろうと思えばできるかもしれません。何か、誰かを対立させるのではなく、すぐに折衷案を提示したり、どっちか側に極端に寄せたりすればいいわけだし、それぞれに丹念にコミュニケーションをとって解決する方法もありますからね。

でもそうすると、そこで生まれたものってつまんないものになってしまうのではないかという強い危機感があります。根本的には、われわれのサービスは、顧客のためのものであり、われわれが気持ちよい状況で世の中に出すものであってはいけないと感じています。

−−なるほど。先ほど「滑らか」という表現を使われた一方、フィンテックは「衝突」とおっしゃった。そのあたりの語感に何か込めた意味があるのではないかなと思いました。

「滑らか」にしたいのは、あくまで顧客にとってのサービスですね。顧客にとって不自由が少ないとか、すごく親和性を感じるだとか、心地良く思ってもらえる。そういうサービスでありたいと思っています。

逆に組織の中は「衝突」ですね。あえてそれを楽しんでもらえるような人が集まってると思います。エネルギーが必要ですけどね。

日本は「拡大版エンジェル投資家」が変えてゆく

−−この事業で、または御社で、ゆくゆくは成し遂げたい状態、つくりたい社会があると思います。ずっと先なのか、「5年後10年後までにはこうしていたい」なのか分かりませんが、そういう目標について教えてください。

ある企業の経営者が居たとして、その人がわれわれのインターフェースに対して「こういう経営問題に悩んでるなー」ってつぶやいた瞬間、その問題点に関してあらゆる分析がなされて、それに対する最適なお金の動きを提案され、それがわれわれのシステム内で完結できる——。こうなったらいいなと思います。これは5年10年では終わらない話かもしれませんが。

AIが一般化しつつありますが、この流れが進んでいくことで、紙の書類で手続きをする必要も、人と話をする必要もなくなるかもしれない。面倒くさい手続きをすることなく、より適切な型でお金が流れていくような社会。そもそも人よりも正しい選択肢が提案される社会。もしかしたら人は意思決定に関わっていない形になっているかもしれません。ちょっと抽象的ですが、そういう世の中になっていったらいいなと思いますし、そうなるように尽力したいと思っています。

−−そうした社会や状態を実現するうえで、御社だからこそ、御社のサービスだからこそできることは何でしょうか。端的にいえば、御社の強みということですが……。

現時点で、この抽象度の世界に対して、「それを成し遂げる上での今の強みはこれです」と明確に提示できるテクノロジーやシステムはありません。ただ結局「企業文化」なのかなと思っています。

繰り返しになりますが、レガシーとテクノロジーを衝突させるというのはすごく大事だと思っています。「顧客のためにこんなことをやりたい」と思ったときに、そのスピード感やレベルについてこられない人も居るかもしれませんが、それは仕方ないのかもしれません。ある意味でどちらも正解なので、後は選択の世界です。

だから高いところを目標として設定するということ、それに向かってスピードとクオリティーをぶつけて、切磋琢磨をし続けること。そこに尽きると思いますし、それでないと結果につながらないと思います。

−−同じ業種やジャンルであっても、企業の文化によって出てくるプロダクトはまったく違いますからね。そうした社会ができたら投資はどう変わっていくのでしょうか。

(写真=ZUU online編集部)
(写真=ZUU online編集部)

ZUU onlineの読者層は30代から40代が多いとうかがっています。投資に関心があるスマートミレニアルといえる方々、またはその周辺の方々で、日本でこれから生まれるイノベーション、次の時代の日本をつくるイノベーションを支えるようなコミュニティーをつくることができたら面白いなと思っています。

先ほども触れた話ですが、投資の観点でいうと、われわれが提供するサービスは上場前企業への投資なので、「当たったらかなり上がります」でも「当たらないものも出てきます」という世界ではあります。

ただ投資にも「熱量」がある、熱く、あたたかい投資というものもあると思うんですね。投資家人がコミットする、サポートする、企業や人材を紹介する、何かをシェアをする……。そういうサポートが、投資がただお金を投じる行為にとどまらず、何か暖かさを持ったものになり、その暖かさが、新しいFacebookとかGoogle、もしかしたらメルカリとか、そういった大きく成長する企業の誕生につながるかもしれません。

われわれのプラットフォームで投資に参加していただくということは、そういうものを起こす、生み出すところに関われることに他ならないと考えています。投資家自身がイノベーションを支える主体になり、宣伝役になれば、そのコミュニティーの人たちが発する「熱量」はコミュニティー外の人たちにも影響するはずです。

今スタートアップへの投資ってエンジェル投資家といわれるごく限定された投資家がいるだけです。個人が投資できるのはIPOの後になってしまう。そこで私は、“拡大版エンジェル投資家”が必要だと思っています。すぐにリターンを求めるのではなく、アーリーステージの企業に投資をして、その人がその人なりに自分の経験や人脈を生かしてサポートをする。それができれば、これは(企業を)ゼロから0.1や0.2にする世界ではないかもしれませんが、0.1か0.2から0.5ぐらいに成長させるカーブをサポートすることになる。これが拡大版エンジェル投資家です。

その潜在的な数はものすごく大きいはずで、何十万人いてもおかしくないと思います。特に30代や40代で、すぐにリターンが必要なわけではない、でもある程度資金はあって、経験や人脈もあります。そうした方々に参加してもらえれば、すごく日本経済にとっていいことです。皆さんが拡大エンジェル投資家になり、日本の経済成長の立役者になってくれたらいいなと思っています。(ZUU online編集部)