大手IT企業と自動車メーカー間で自動運転車開発競争が熾烈化する中、各社それぞれの戦略で市場にアピールする商品の完成にラストスパートをかけている。
現時点では研究に10億ドル以上を費やしたというGoogleが、ライバルを一歩リードしているという印象が強い。テスラのセミトラック、BMWの「iNext」なども興味深い。排気ガス検査不正スキャンダルで世界を揺るがしたフォルクスワーゲン(VW)は、次世代自動車開発に再起を賭け、340億ユーロ(約5.6兆円)を投じる。
Google 初の完全自動運転車発売まで秒読み? 一般のテスト走行車も募集
「空想の世界でしか存在しなかった自動運転車を現実の世界に」というコンセプトで、世界を驚かせてから7年。2014年には試作車で初の路上テストを実施。これまでに10億ドル以上を研究に投じ、常に自動運転車開発の先端を独走してきた。
2016年に自動運転車開発部門を分社し、新会社Waymo(ウェイモ)を設立。最新の開発状況報告では、「テスト走行・地図化済みの地域では、安全に自動走行可能なレベルに達している」という(フィナンシャル・タイムズ紙より )。フロントシートに人間のアシスタントを乗せず、都市で路上テストを行っている唯一のメーカーだ。
Googleの強みのひとつは、すでに多数のロケーションで走行テストを実施している点だ。ウェイモのサイト によると、現時点で合計300万マイルを走行。毎週2.5万マイルという距離を継続的にテストしている。
最近では社内テストの枠組みを超え、将来の利用者となる地域の住民がテスト走行に参加できる「アーリー・ライダー・プログラム」 を実施。カリフォルニア州マウンテンビュー、テキサス州オースティン、ワシントン州カークランド、アリゾナ州フェニックスなど、国内が中心だ。
テスト走行に利用しているのは、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)のミニバン「パシフィカ」の改造版。
Googleの開発達成レベルを4だとすると、「フロントシートに人間のアシスタントを乗せてテストを行っている」というアウディなどライバルの到達レベルは3とされている。
Apple 独自の自動運転車計画はお蔵入り?システム開発に専念
Appleが自動運転車の開発正式発表を行ったのは2015年 。前年から市場参入の可能性について報じられていた。
「Project Titan」を立ち上げ、自動運転車に賭ける壮大な野望を明かすものの、昨年辺りから風向きが変わり始めた。
当初Googleと競う次世代自動車として、ハンドルもアクセルペダルもない完全自動運転車を設計から開発まで手掛けるという構想だったが、ソフトウェアによる半自動運転技術の開発計画が飛びだし、いつの間にか本社間をむすぶ自動運転シャトルバスの開発と、驚くほど小規模に縮小していた。(GIZMODOより)。
こうした経過から「iCar(Appleが完成すると期待されていた自動運転車の仮称)」は幻のプロジェクトとの見方が強まっていたが、ここにきて、突然動きがでてきたようだ。
今年10月、自動運転システムを搭載した試験車が、目撃されているのだ 。目撃者のマカリスター・ヒギンズ氏自身が、自動運転技術企業Voyage(ヴォヤージュ)の設立者—つまり専門家であったことから、かなりの関心とともに動画と技術的な説明をTweitterに投稿している。
ルーフトップに巨大なハードウェアが設置されており、LiDARセンサーが合計6基設置されているという。ヒギンズ氏曰く、このハードウェアには大部分のコンピューターが収納されている。
ほかの自動運転車ではトランクに配置するハードウェアを、あえてルーフに配置するという発想が面白い。ルーフに直接ボルト付けすれば車内に大量の機器を設置する必要がないため、「どのような車両でも自動運転車に改造しやすい」。
6月にはティム・クックCEOが自ら「自律システム」の開発を優先することを、ブルームバーグのインタビュー で認めており、ここには自動車運転システムも含まれてるようだ。
やはり独自の自動運転車開発するという計画は少なくとも当分おあずけ。しばらくの間はシステム開発に専念する可能性が高いものかと思われる。
テスラ 「最も安全度の高い自動運転車メーカー」で1位に AI用半導体も開発?
今年2017年11月、自動運転も可能なセミトレーラー型トラック「テスラセミ(Tesla Semi)」を公開したばかりのテスラ。2019年に生産開始を予定している。
一度の充電で500マイル(約800キロ)の走行が可能で、自動運転機能「エンハンスド・オートパイロット(Enchanted Autopilot)」が搭載される。加速性能は0→60mph5秒と驚くほど速い(Tech Crunchより )。左右に設置されたモニターにはさまれるようにして、中央に運転席がある。
電気自動車(EV)産業のリーダーとしてトップを独走してきたテスラだが、開発した自動運転技術をすでに実用化しているという点でもライバルメーカーに差をつけている。またテスラの全車両に自動運転車対応ハードウェアが搭載されている。
テスラセミにも搭載予定の「エンハンスド・オートパイロット」は、交通状況に応じて自動でスピードを調節するほか、車両の流れに沿って移動、車線変更などを巧みに操作できる。高速の乗り継ぎや駐車、車庫入れまで、運転手の手をわずらわせることなく難なくこなす。
テスラはイスラエルのモービルアイのオートパイロットシステムを採用していたが、昨年5月にモービルアイのシステムを装着したモデルSが衝突事故を起こし、運転手が死亡。
その後の米国家運輸安全委員会の調査から、車体には欠陥がなかったことが証明されているものの、「ハンドル操作や路上に対する注意をしないですむ環境を、長時間にわたり許容した」とし、事故の潜在的な要因のひとつとして報告書に記載されることなどが報じられていた。
テスラはこの事件を機に安全性をめぐってモービルアイと対立し、提携を打ち切った。代わって半導体大手エヌビディアが新システム向けの半導体を供給しているほか、AI用半導体をアドバンスト・マイクロ・デバイスと共同開発しているとも報じられている(CNBCより )。
今年10月に自動車購入情報調査会社エドマンズが実施した調査では、ホンダやボルボを抑え、「最も安全性の高い自動運転車メーカー」の1位に選ばれている。定速走行・車間距離制御装置(ACC)、自動駐車、死角検知機能(BSD)、車線逸脱警報(LDW)などの安全装備度が評価基準となっている(ブルームバーグより)。
フォルクスワーゲン 再起を賭けたVWの次世代自動車戦略からは
「自動車産業最大のスキャンダル」となった2015 年の排気ガス検査不正プログラムから2年。フォルクスワーゲンは「再起は次世代自動車にかかっている」といわんばかりに、猛烈な投資戦略を繰り広げている。
2018〜2022年にかけて、EVや自動運転車の開発、新モビリティー・サービス、デジタル化などに340億ユーロを投じる。ミュラー会長は「2025年までに次世代自動車分野で世界一になるための基礎を築く」と強調している。
具体的にはこれまで進めてきた次世代自動車への投資を拡大し、乗用車から商用車まで幅広い展開を目指す。
傘下の商用車メーカー、エム・アー・エヌ(MAN)およびスカニアと共同で、隊列走行(複数の自動運転車を近接して走らせる自動運転技術の一種)実験の実用化を計画している。
同時進行中のEV戦略では、人気商用車「クラスター」のEV版となる「Eクラフター」を投入予定。2022年にはEVコンセプトカー「I.D.バズ(BUZZ)」の商用版も企画している。
またコネクトカー領域では運転手の通信、運転おぼよび効率分析、車両追跡などのサービス提供を開始予定だ。
BMW 2021年に自動運転車「iNext」を市場投入予定
6月に自社ブログで自動運転車部門の上級専門家、ダーク・ウィゼルマン博士が公表した開発状況によると、BMWは2021年に自動運転車「iNext」の市場投入を計画しているようだ。
インテルとモービルアイとの提携の元、7シリーズをベースとしたプロトタイプを2017年の終盤までに40台製造し、路上テスト走行の開始。
8月には自動運転車開発に辺り、フィアット・クライスラー・オートモービルズとの提携関係を発表している。
BMWは自動運転技術の開発に、早期段階から取り組んできた自動車メーカーのひとつだ。2014年には国内の高速道路で、長距離におよぶテスト走行を実施している。
さらには研究・開発プロジェクトを都市化が進む中国に拡大し、中国ネット検索大手、バイドー(百度)と提携し、北京および上海で「高度な自動運転が可能な自動運転車」のテスト走行を行う意向を示していた(ロイターより)。 EV開発・販売にも積極的な意気込みを見せており、年内に10万台販売が目標。「2025年までに全体の売上の15〜20%に押し上げる」と、ハラルド・クルーガーCEOが自ら宣言 している。
フォード 顧客と利用者経験を軸にした自動運転車開発を目指す
フォードは自動運転車の開発に対し、ユニークなアプローチを行っている。例えばドミノ・ピザと提携し、自動運転車でピザの宅配を行うという試みだ。自動運転車の性能だけではなく、自動運転車の利用に対する消費者の反応や関わり方を解明する意図である。
実験には自動運転機能搭載のフュージョン・ハイブリッドを使用。注文者は宅配者到着後、車体に取りつけられたピザの収納ボックスにコードを入力し、解除してからピザを取りだすという仕組みだ。この実験はミシガン州南東部アン・アーバー地域で実施された。
自動運転・電気自動車部門のヴァイス・プレジデント、シェリフ・マラクバイ氏は、自社の関心が技術的な開発のみに留まらず、顧客や利用者経験を軸に捉えたテクノロジーに基づいて、自動運転車を商品化していく意向を明らかにしている。
こうした実験を行う一方、着実に開発も進展している。今年8月には、2021年までに完全自動運転車の量産を開始する計画を発表。配車サービス向けの供給から始める。
それと同時に関連技術への投資を拡大する。レーザー光センサー企業、ベロダインに7500万ドルを出資したほか、今後5年にわたりAIスタートアップArgo AI に10億ドルを投じると発表した(ニューヨークタイムズ紙より )。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)