多摩地区に広がる、都心のベッドタウン・八王子は、人口約56万人という東京最大の市です。山地に行くとミシュラン三ツ星の観光スポット「高尾山」があるものの、都市部に何があるか思いつかない人もいるかもしれません。
そんな八王子で、芸者文化を通して観光客を呼び寄せようという動きがあります。かつて花街として賑わった中通りの活性化です。いま、じわじわ人気を集めている「八王子黒塀通り」の魅力を紹介します。
八王子は織物業で栄えた粋な街だった!?
最近でこそ多摩エリアでの存在感を立川に譲ってしまっている八王子ですが、かつては駅の周辺に大丸や伊勢丹、そごうなど、名だたる百貨店が建ち並ぶ「商いの街」として栄えていました。もともと江戸時代後期から昭和の前半まで、八王子は生糸産業の一大産地でした。国内外へ出荷する生糸業者や絹織物工場が集中しており、全国から生糸や織物を求めて商人が押し寄せていました。
商売が盛んな街には接待がつきもので、自然と夜の街が形成されます。全盛期の八王子には料亭や置屋が軒を連ね、お座敷に出入りする芸妓が200人以上も行き交う華やかな街でした。その名残は今も中通りの黒塀通りに見ることができます。
黒塀通りにはいまも芸者の歩く姿
現在20名となった八王子芸者はいまも活動しており、黒塀通りを歩く芸者さんの姿を目にすることができます。
1955年代後半からの織物産業の衰退は八王子の花街に打撃を与え、かつての賑わいは衰えていきました。一時は芸者が約10名にまで減り、花街の文化存続が危ぶまれたこともあります。そこで1999年、八王子の伝統文化の火を絶やさないため芸妓衆や商工会議所、地元有志によって結成されたのが「八王子黒塀に親しむ会」です。芸者さんたちが花街の文化を残すため芸を磨くことを再確認し、高尾山の節分会や八王子まつりなどのイベントに参加して知名度をアップすることに努めています。
芸者遊びってどんなもの?
八王子にはいまも「置屋ゆき乃恵」や「ゑん家」といった古くから続く置屋があり、市内の料亭や高級割烹に芸者を派遣しています。
芸者遊びには独特なシステムが残っています。客は芸者が在籍する置屋に直接申し込むのではなく、芸者の取り次ぎや送迎を行っている見番(八王子三業組合)に人数や時間、予算を相談します。グルメ予約サイトでは「芸妓さん手配可」の料亭や割烹店が登録されており、お店を通じて気軽にお座敷に呼ぶことができます。
芸者さんは単に酒のお酌や話し相手をするだけではありません。日頃から厳しい稽古によって磨かれた唄や踊りを三味線・太鼓とともに披露して華やかな時間を演出します。その後、お客さまも加わって「とらとら」や「金比羅船々」などの小唄に合わせたお座敷ゲームや、小振りな扇子を的に当てて点数を競う「投扇興」で盛り上がっているようです。
ちなみに、芸者さんへの玉代(ぎょくだい=代金のこと)は、2時間あたり1名1万4,000円前後。それとお車代(タクシー代)です。もちろん粋に遊ぶなら心づけも忘れずに。
花街の明るい未来
2016年、約50年ぶりとなる半玉(芸妓見習い)が誕生したことは、八王子の花街にとって明るいニュースでした。当時18歳のくるみさんは、中学卒業とともに2年の厳しい修業を続けてきました。初々しいくるみさんの姿は、八王子のお座敷で見ることができます。
また、市では花街文化をテーマとした集客施設のための土地購入も済ませていて、市長は黒塀通りを活性化していく活動を本格化することを公言しました。
ますます賑わいが期待できる八王子の黒塀通り。美しい芸者さんが街を歩く華やかな八王子に注目です。
(提供:JIMOTOZINE)