0月末から11月初頭の急上昇ののち、日本の株価は不安定な動きが続いている。マネックス証券では、今後企業収益等から日経平均株価は3万円に向かっていくと考えている。
ただ、企業収益の拡大時にも、株価は、ショックイベントによって引き戻されてきた。特に、日本は、経済構造が外需依存であることや、過去のバブル崩壊のトラウマから、米国に比べても海外のイベントに対して変動幅が大きい。図表1の通り、過去20年間でも、ITバブル崩壊、サブプライム、欧州財政問題、人民元ショックやBREXITなど、主に海外発のショックが引き金になって市場の腰折れが続いてきた。
日経平均の上昇は、こうしたリスクを回避できるかどうかにかかっている。では、今の市場にはどの程度のリスクが潜んでいるのだろうか。
リスク要因1:「2京円」に近づく世界の債務
世界の債務総額は2017年3月末時点で、164兆ドル、1京8,000兆円に上る。リーマンショック以降、約4割、5000兆円も増加した(図表2)。大いに心配になる数字であり、IMF(国際通貨基金)やBIS(国際決済銀行)も一昨年来、警鐘を鳴らしている。
ただ、債務が問題になるのはその絶対値の大きさではない。返済能力が追いついているかどうかが勝負の分かれ目である。
これを判断するには、債務膨張のペースをGDP(国内総生産)の成長ペースと比較する必要がある。このところ、GDP対比での債務の膨張速度は落ち着いている。因みに主要国の中で、GDP比で最も速いペースで民間債務が膨張した過去を持つのが日本である。1980年代、バブル期の日本の民間債務はGDPの2.2倍に上り、膨張ペースはGDP成長率をはるかに上回った。
相対的にみて、債務膨張速度が最も懸念されるのはやはり中国である。債務膨張のピッチは、2015年には日本のバブル期を上回り、BISに「3年以内に3分の2の確率で金融危機が発生しうる国」リストの筆頭格に挙げられた。しかし、その中国についても、政府の債務抑制の舵取りで、ピークの2015年以降鎮静化しており、直近データでは、日本のバブル期よりはかなりまともな数字になっている。
課題だったシャドーバンキング資産も6月末でGDP比83%と、ピークだった昨年の87%から低下した 。先月の共産党大会を受けた規制強化で今後も抑制されるとみられる。一時期懸念されていた外貨準備も、資本規制強化で増加に転じている。一党独裁で規制の小回りが利くという点が、危機時の対応が後手後手に回った日本と違う"救い"である。
その他の国々で、債務がスピード違反で膨張している国は特に見られず、足元では債務のGDP比の伸び率は総じて落ち着きつつある。
リスク要因2:住宅価格バブルの崩壊
世界的な低金利を受け、主要国の住宅価格は、1995年からの20 年余りで3倍近くまで上昇した(図表4)。住宅価格の上昇は国民生活を圧迫し、景気を減速させる要因になる。
しかし、アメリカ、欧州諸国、日本などの住宅価格の上昇率は、GDPや賃料収入の上昇率と整合的である。たとえば米国の住宅価格は、2010年からの7年間で38%と猛烈に上昇したが、家賃も3割程度上昇している。ある程度、雇用状況、労働者数などの実需に基づく上昇であると解釈できるだろう。
一方、ニュージーランド、カナダ、北欧などでは、実体経済に比べて明らかに住宅価格の上昇率が高い。しかし、幸いこれらの国は、相対的に経済規模が小さく、個人向けローンも国内の金融機関でほぼ完結している。住宅価格が下落に転じたとしても、世界経済を腰折れさせる規模感ではないだろう。
リスク要因3:米国のイールドカーブのフラット化
米国では長短金利の差が小さくなる「イールドカーブのフラット化」が進行している。さらに来年FRB(米国連邦準備制度理事会)が金利を2~3回程度引き上げれば、再来年ごろには、長短の金利が逆転する「逆イールド」が発生する可能性が高い(図表6)。
しかし、逆イールドは、それ自体が脅威なわけではない。イールドカーブの逆転は、短期金利が引き上げられれば、その分、中長期の経済成長予想が引き下げされ、中長期ゾーンの金利が下がるという自然な現象を表しているにすぎない。
しかし、最初に逆イールドが発生してからも株価はしばらく上昇から高止まっており、株価が下がり始めるまで、2年程度かかっている。ということは、イールドカーブ分析上は、米国の株価下落までにはあと4?5年はあるということになる。過去も、逆イールドの発生後しばらくすると、景気は減速に向かった。景気を冷やすために政策金利を引き上げるのだから、いずれそうなる。
なお、日本の金融政策に関しては、来年、日本銀行総裁が交代しても続投でも、緩和的な金融政策は維持されるとみて間違いないだろう。一部で、金融緩和の弊害がささやかれているが、時期尚早の引き締めには安倍晋三政権も否定的とみられる。日銀の緩和的な金融政策が、安定的な為替相場と株高を支える材料の1つとなるだろう。
リスク要因4:株価の過熱感
11月初頭の連騰局面では、「日本株に過熱感」という声も聞かれた。しかし、前述のとおり、株価の上昇率は企業の増益と一致しており、まったく違和感はない。さらに、需給的には、個人投資家は上昇の波に乗り切れておらず、海外投資家も上昇時に多少増やしたものの、まだ日本株のウェートに引き上げ余地があるもようだ。いずれも、次の買い場を狙っているとみられる。
これらは金融関連のリスク要因である。一方、昨日から再び懸念が増してきた北朝鮮のリスクなどの地政学リスクは当面収まりそうにない。来年春までにはイタリアの総選挙も控える。しかし、米大統領選前の昨年前半や、その後の欧州選挙ラッシュを控えていた昨年に比べれば、不確実性は低い。しかも、こうした政治要因は一時的なものであり、経済の足腰が強いかぎり株価はまた回復してくると思われる。
とはいえ、こうした不安があるかぎり、株価は当面不安定な動きが続くだろう。上がったり下がったりを繰り返し、徐々に企業の順調な収益を反映していくことになると考える。
大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト
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