昨年成立したDC法改正では、個人型DCの加入範囲拡大が注目されることが多いが、それ以外にも多岐にわたる改正が盛り込まれている。DC加入者が運用商品を選択しやすい環境を整え、積極的な運用商品選択を促すための措置も、その一つだ。この措置については、法改正に伴う政省令案や通知案がこのほど示され、来年5月に施行が予定される。しかしながら、施行によってDC運用の商品選択がすぐに改善されることはなさそうだ。

個人型DC
(画像=PIXTA)

企業年金連合会の調査によれば、企業型DCでは、資産全体に占める元本確保型商品の割合は2015年度時点で58%と大半を占める。掛金ベースでも54%と、元本確保型商品への投資割合は高い。全ての加入者が同様の資産構成となっているのであれば問題視する必要もないが、元本確保型商品のみで運用する加入者が、全加入者の約4割を占めるという実態もある。元本確保型中心の運用が十分な運用知識のもとで積極的に下された判断であれば問題ないが、十分に吟味されているとは言えないような調査結果も多数報告されている。こうした状況を放置すれば、今後、政府・日銀の目標に向かって物価が上昇する場合には、利率が0%に近い商品のみでの運用されるDC資産の価値は、物価上昇に追随できないばかりか、リスクをとって運用する加入者との間で格差が拡大することにもなりかねない。状況の改善を図る上では、加入者が積極的に運用指図する環境を整えることが重要との認識が、運用商品選択に係わる環境整備が改正法に盛り込まれた背景にある。

運用商品を選びやすくするための具体策としては、商品提供規制の見直し、提供商品数の上限設定、継続投資教育の努力義務化が挙げられる。商品提供規制の見直しでは、1本以上の元本確保型商品を含む3本以上の商品提供という義務を、元本確保型商品の提供を義務の対象から外し、リスク・リターン特性の異なる3本以上の商品提供に置き換えられることになった。長期運用においては安全性よりも効率性が重要とのメッセージが込められた改正であり、これをもって運用改善を促進する狙いがある。しかしながら、現行でもリスク・リターン特性の異なる3種類以上の商品を提供するプランが大勢を占めるなか、法改正によって商品ラインナップに大きな変化が生じるとは考え難い。

提供商品数の上限設定では、従来制限のなかった提供商品数について、35本という上限が新たに設けられることになった。米国の401kでは、商品提供数が多いほどプラン加入率が低いという分析結果も報告されており、提供商品数の増加が商品選択の煩雑さを招き、加入者が運用選択しなくなる可能性が高まることに配慮した制限である。具体的な上限の設定にあたっては、運用商品提供数が36本以上となると不指図率が極端に上がるとの厚生労働省による企業型DCに関する分析結果に基づいている。しかしながら、運用提供商品数が上限を超えるDCプランについては、上限超過分につき施行から5年以内に商品の除外を行わなければ法令違反となる点に配慮したものであり、多くの加入者にとって運用選択が可能な本数という観点のみで決定されているわけではない。厚生労働省の分析対象となった1万1千件余りのDCプランの99%は、運用商品提供数が上限35本以下におさまっており、上限規定によって提供商品数を減らす必然性がないことを踏まえると、運用商品を選択する環境が、少なくとも商品提供数の面で改善されるとは限らない。

継続投資教育の努力義務化は、従来の配慮義務から義務のレベルを引き上げる改正である。従来から努力義務とされてきたDC導入時の投資教育は、2013年度時点でほぼ全ての企業で実施されている。これに対して、継続投資教育の実施は5割強に留まる。義務のレベルを引き上げることで、継続投資教育の実施率の向上を促す改正である。しかしながら、投資教育の実施については罰則規定があるわけではなく、どの程度実施率が高まるかは予断を許さない。仮に実施率が高まったとしても、形式的な投資教育の実施にとどまり、実効性が限られる可能性もある。

残念ながら、法令が施行されても直ぐにはDC運用の商品選択が改善されることはない。しかしながら、DC制度提供者等の取り組みによって、状況を変えることは可能だ。関係法令の施行に伴う通知案では、加入者にとって必要なものに限って運用商品が提供されるよう運営管理機関と労使が十分に協議・検討するとともに、定期的に見直すことが必要とされている。上限まで余裕があるからといって闇雲に新たな運用商品を追加するのではなく、商品の除外を含めた継続的な商品ラインナップの吟味を求めている。また、仮に提供商品数が現状から大きく減らないとしても、提示の仕方を工夫することで、運用商品の選びやすさを改善することもできる。今年6月に公表された「確定拠出年金の運用に関する専門委員会の報告書」では、パッシブ商品を基本的な運用商品として、アクティブ商品を応用的な運用商品として示したり、運用商品リストの中で手数料等を示したりすることが例示されている。こうした取り組みを通じて、加入者が商品を選びやすい環境を作り出すことは可能だろう。

また、通知案では、「運用の指図は加入者自身が 自己の責任において行うこと」、「長期的な年金運用の観点からは分散投資効果が見込まれるような運用が有用である場合が少なくないこと」が、投資教育の内容として追加されている。投資教育には限界があるとの見方もある一方で、現行における加入者のDC制度への関心の低さを考えると、継続的な投資教育の実施により、加入者の意識や運用知識のレベルを一定程度高めることはできるだろう。結局のところ、DC制度の提供者が、加入者にとって運用選択しやすい環境が創出されるよう前向きに取り組むことが大切ということだ。加入者の立場に立った創意工夫により、加入者による合理的な運用商品選択が広がっていくことに期待したい。

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梅内俊樹(うめうち としき)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 年金総合リサーチセンター 企業年金調査室長

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