テクノロジーを不動産業に活用するReal Estate Tech(不動産テック)への投資が、2016年は米国で10億ドルに達した。2010年と比較すると30倍、急激に加速した2013年の2倍以上という成長ぶりだ。

すでにオンライン不動産ブローカーのコンパス(Compass)やオンライン不動産販売のオープンドアー(Opendoor)など、ユニコーン(時価総額10億ドル以上で上場していない企業)も誕生している。

Real Estate Techとは? 検索サービスから賃貸管理、住宅ローンまで

Real Estate Tech,不動産,投資
(画像=Thinkstock/Getty Images)

Real Estate Techとは、「テクノロジーを活用することで、消費者にとっても業者にとってもよりよい不動産業の仕組みを作りだす」という発想や試みを指す。

テクノロジーが飛躍的に発展したにも関わらず、顧客への対応から物件調査、価格査定、契約、広告、各種保険斡旋、書類作成、決済など、ほとんどの不動産関連業務がいまだに人間の手で行われているアナログな世界である。

Real Estate Techはテクノロジーの力で業務の効率化を図ると同時に、安全性やコスト削減も期待できる新たなアプローチだ。

Real Estate Techと一言にいっても領域は広範囲 にわたる。居住・商業物件向けの「検索サービス」「マーケットプレイス、流動性」「ブローカー」「賃貸管理」「物件管理」「データ、査定、分析サービス」「住宅ローン、融資」「エージェント関連サービス」「投資、クラウドファンディング」など、数えあげると切りがない。それだけに広範囲な成長が期待できる。

リーマンショック以前から活発化していたReal Estate Tech投資

FinTechと比べると一歩も二歩も出遅れた感が強いReal Estate Techだが、実は前金融危機(2009年)以前から投資自体は活発化していた。

Pitchbookが2017年9月27日に作成したデータ によると、2007年の投資は2.84億ドル、2008年は3.5億ドルを記録するものの、リーマンショックの衝撃をまともに受け、2009年には7000万ドル、2010年には3300万ドルまで急激に落ち込んだ。

復活の兆しが見え始めたのは2013年。前年から3.52億ドル増の4.31億ドルに達し、2015年にはその2倍に匹敵する9.51億ドルに。順調な伸びを維持し、2016年には10億ドルの大台に乗った。

取引件数自体は2014年をピークに約120件から100件にまで減っているため、投資額の大きな取引が増えているということになる。クランチベース(Crunchbase)のデータ を見るかぎり、シードステージへの投資が失速しているようだ。

最も投資が盛んな地域はカリフォルニアやニューヨーク

米国では西海岸地域、中部大西洋沿岸地域、南東地域での投資が最も活発化している。その中でもカリフォルニア(16.7億ドル)のReal Estate Techへの投資が圧倒的で、ニューヨーク(8210万ドル)、カリフォルニア北部(5840万ドル)、テキサス(4900万ドル)、ワシントン(2810万ドル)と続く。

最大の投資を受けたスタートアップはオープンドア とコンパスの2社で、数少ないReal Estate Techユニコーンに成長している。

オープンドアは2014年にサンフランシスコで設立されて 以来、4回の資金調達ラウンドで総額3.2億ドルを獲得。2016年12月のシリーズDラウンド にはノースウェスト・ベンチャー・パートナーズ(Norwest Venture Partners)やSVBキャピタル(SVB Capital)などが参加し、総額2.1億ドルを投じた。

ニューヨークで2012年に設立されたコンパス は、6回の資金調達ラウンド で総額3億ドルを獲得。設立同年のシードラウンドから始まり、2017年11月にはシリーズEラウンドで国際大手投資企業フィデリティ・インベストメンツやウェリントン・マネージメント・カンパニー(Wellington Management Company)からも資金獲得に成功した。

Real Estate TechをリードするAirbnb 設立から総額44億ドルを調達

市場でReal Estate Tech熱が再燃した背景には、Airbnbの国際的成功があるものと推測される。「シェアリング・エコノミー(共有経済)」の波にのり、民泊という観念を世界中に浸透させた。

今年3月にシリーズA調達ラウンド で4.5億ドルを獲得。設立から10年足らずで時価総額は3100億ドルに膨れあがっている(CNBCより )。

これまで12回の資金調達ラウンドで、セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)、TCV、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)、アルティメーター・キャピタル(Altimeter Capital)などから、総額44億ドルという巨額の資金を得ている。

Airbnbに続けとばかりに気勢を上げている、ユニコーン2社を含む注目のスタートアップを以下に紹介しよう。

オープンドア——「簡潔・低コスト・安心」に利用できる中古不動産販売プラットフォーム

オープンドアは単なる売り手・買い手間の仲介業務ではなく、直接中古物件の売買を取り扱っているという点が、既存の中古不動産販売のプラットフォームと異なる。

売り手がオープンドアに売りたい物件の情報を提供すると、オープンドアが市場データなどと照らし合わせて買取価格を提示する。売り手がその価格と手数料に合意した時点で、売買契約が結ばれる。支払いは数日以内に指定の口座に振り込まれる。

売却プロセスを極力簡潔化することで、「手間とコストのかかる」という従来の不動産売買のイメージを根本からくつ返す画期的なアプローチだ。

買い手にも簡単に安心して家を買える環境を提供している。入居後30日間の「保証期間」が設け、られているため、「購入した家に実際に住んでみると不満点がでてきた」といった潜在的なリスクを最小限に抑えることができる。

家の下見のためにわざわざ予約を取る必要がなく 、モバイルアプリを通して好きな時間帯(6〜21時まで)に気軽に見学できる点も魅力だ。

手数料も一般的な不動産屋を通すよりはるかに安い。一般的な不動産屋が売却に平均6〜10%の手数料を課すのに対し、オープンドアーは平均6.7%だ。
https://www.opendoor.com

似たようなサービスは、アリゾナ州を拠点とするオファーパッド(Offerpad) も提供している。

コンパス——元ゴールドマンVPが立ち上げた高級物件仲介スタートアップ

コンパスは元ゴールドマン・サックスのヴァイス・プレジデント、ロバート・リフキン氏 が立ち上げた高級不動産スタートアップだ。

高級物産の買い手・売り手と、地元の優良エージェントを仲介するプラットフォームを運営している。ニューヨーク、マイアミ、サンフランシスコ、ロサンゼルス、ワシントンなど、主に大都会を中心に展開中。

アプリで気軽に物件探しができるという点は特に珍しくないが、高級物件を取り扱っているだけに、雑誌から抜けだしてきたような写真の美しさが魅力的だ。
https://www.compass.com

ノック——売却100%保証制度 データサイエンスを価格査定に活用

ノック(Knock) はデータサイエンスを価格査定に活用し、迅速で確実な売却プロセスを売りにしている。

売り手はノックの提案した価格で物件を市場にだし、6週間以内に買い手がつかない場合は同社が買い取ってくれるというシステムだ。物件を下取りにだし、新たな物件と交換するトレードイン・サービスも提供。

ノックは自社で厳しく審査した優良物件だけを取り扱っているため、買い手も安心して購入できる。

2015年の設立以来、3回の資金調達ラウンドで、RREベンチャーズなどから総額3450万ドルを獲得している。

ノックを立ち上げたのは、不動産市場情報サイト「トゥルーリア(Trulia)」の共同設立者シーン・ブラック氏や、ヴァイス・プレジデント、ジェイミー・グレン氏など。

トゥルーリアは住宅購入前に知っておきたい地域の情報(学校や飲食店、交通の便、平均的な住宅価格、犯罪率など)をGoogleマップ上でビジュアル化するという斬新なアイデアで、不動産市場の透明性改善に大きく貢献している。
https://www.knock.com

アイリスVR ——バーチャルリアリティーでより現実に近い建設設計

バーチャルリアリティー(VR)技術を不動産業に取り入れたアイリス(Iris)VRは、建築設計向けのVRツールを開発している。画像をVR化し、3DモデルをVR表示できるというものだ。

その技術はIBMやバンガードなど大手企業のエンジニアリング、設計部門でも利用されている。

モバイル地理空間データ・コレクション企業ストラボGIS(StraboGIS)の設立者ネイト・ベイティー氏が、2014年にニューヨークで立ち上げた。3回の資金調達ラウンドで、モーニングサイド・グループ(Morningside Group)やアジュア・キャピタル・パートナーズ(Azure Capital Partners)などから総額973万ドルを獲得している。
https://irisvr.com

ネスティオ——世界初リアルタイムのマーケティング管理ソリューション

ニューヨークを拠点とするネスティオ(Nestio) は、賃貸物件のマーケティングやリーシングが管理できるソリューションを、居住用物件の家主やブローカーに提供している。世界で初めてリアルタイムで利用可能な点が新しい。

具体的には目録管理やポートフォリオ分析といった管理ツールから、顧客へのEメールマーケティング、株主との在庫情報共有まで、所有物件の関連情報を単一プラットフォームで管理できるというものだ。スケジュールを設定しておけば、自社ウェブサイトから自動で予約の受付けなどもしてくれる。

ネスティオは数少ない女性テック起業家が立ち上げた企業でもある。設立者兼CEOのカレン・マイオ氏 は、ウォールストリート・ジャーナル紙やNIKEでセールス部門で経験を積んだ後、Real Estate Techの復活を見込んで2011年にネスティオを立ち上げた。

6回の資金調達ラウンドでトリニティ・ベンチャーズ(Trinity Ventures)やテックスターズ・ベンチャーズ(Techstars Ventures)などから総額1192万ドルを獲得。
http://www.nestio.com

モーティー——住宅ローン探しから融資手続きまですべてお任せ

個人の条件に合わせて最適な住宅ローンを探してくれるプラットフォーム、モーティー(Morty)。新規ローンから借り換えまで幅広い商品に対応している。

希望条件や個人の財務状況を提供すると、いくつかのオプションが提案される。気に入ったオプションを選ぶだけで、あとはモーティーが貸し手や不動産業者とローンの手続きを進めてくれる。

一言でいうと「住宅ローン比較サイト」だが、買い手にとっては住宅ローン探しや融資申請など、面倒な手間暇から開放してくれる夢のようなツールだ。

2015年にニューヨークで設立されて以来、2回の資金調達ラウンド でスライブ・キャピタル(Thrive Capital)などから総額325万ドルを獲得している。
https://www.himorty.com
CBインサイツの調査によると、2015年から2017年にかけてアーリーステージを通して資金調達に成功したReal Estate Techスタートアップは120社を超えているという。不動産業のデジタル化にともない、今後さらなる拡大が予想される。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

【編集部のオススメ記事】
2017年も勝率9割、株価好調の中でもパフォーマンス突出の「IPO投資」(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
株・債券・不動産など 効率よく情報収集できる資産運用の総合イベント、1月末に初開催(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)